プーチン大統領が強行する“ウクライナ4州併合” 起こり得るウクライナ人同士の悲惨な戦い 味方の背後で銃を構える「督戦部隊」とは 専門家解説 2022年09月30日
日本時間の9月30日夜、プーチン大統領はウクライナの4州を一方的にロシアに併合する宣言を行う見通しです。果たしてその狙いとは。
2022年2月にウクライナへの軍事侵攻を始めたプーチン大統領は、ロシア国民に対し、「親ロシア派を虐殺から保護するための作戦」だと説明してきました。
9月23日~27日には、ウクライナの4つの州で、ロシアへの併合の是非を問う「住民投票」と呼ばれる行為を強行。親ロシア派は多数の賛成票(ルハンスク98%、ドネツク99%、ザポリージャ93%、ヘルソン87%)を得たと主張し、3つの州のトップがプーチン大統領に併合を要請しました。
日本時間の9月30日夜、4つの州のロシアへの併合を宣言すると見られるプーチン大統領。その狙いを、ウクライナ問題に詳しい神戸学院大学の岡部芳彦教授に聞きます。
■プーチン大統領による“併合演説”の狙い
――Q:今回、ロシアは4つの州で一方的に住民投票を行い、併合を強行しようとしています。そもそも、ロシアが併合するというのはどういうことなんですか?
【岡部教授】
「多くのロシア国民は、『ロシアは一度も侵略をしたことがない』と言います。ロシア人にとってロシアは正義の国で、今回の戦争も、『ウクライナ東部のロシア語を話す住民が、ウクライナによって迫害されているから特別軍事作戦を始めた』というのがプーチン大統領の理屈です。もちろんおかしいところはあるんですが、今回この占領した地域で、曲がりなりにも住民投票を実施して住民の声を聞き、解放するとともにロシアへ併合するという流れになります」
――Q:今回の併合はクリミア半島と同じように、国際社会は認めずロシアだけが宣言する形になりそうですが、その併合演説について、岡部教授は「目的達成を宣言し、停戦交渉を有利にしたい」という狙いがあるとみています。これはどういうことですか?
「2014年のクリミア半島併合時、ロシア国民からプーチン大統領への支持率は上昇しました。今回は『東ウクライナの住民のウクライナからの解放』を目的としていて、東部だけでなく南部も占領しています。ここでプーチン大統領が『目的を達成した』とするのが、実は一番“楽観的”なシナリオです。しかし、ロシアが『では停戦交渉を』と言ったところで、ウクライナ側としては自国を侵略されて領土を奪われていますので、受け入れることはできない。ただそう回答すると、ロシア側は『またウクライナに停戦交渉を断られた』という理屈につなげると考えられます」
――Q:戦争を続けるための材料に使われる可能性があるということですか?
「十二分にあり得ると思います。いずれにしても、併合演説の内容はかなり注目されます」
――Q:併合演説のもう一つの狙いとして、「ロシア国内の戦意高揚、兵士のカンフル剤に」を挙げられていますが、こちらは?
「動員を恐れて出国するロシア人の映像をよく見ますが、ロシアのSNSには、『戦争に行くぞ!』と盛り上がって乾杯しているような映像も上がっています。もちろん嫌だという人もいますが、戦争ということで気分が高揚している国民も一部にいるのは間違いない。ロシアの愛国心を高めるという狙いもあると思います」
■“併合”で起きる悲惨な戦いとは
――Q:岡部教授は「ロシアが徴兵すれば、ウクライナ人同士の戦いが激しくなる可能性がある」とみています。これはどういうことでしょうか?
「東ウクライナのドネツク人民共和国とルハンスク人民共和国では、この戦争が始まって以来“根こそぎ動員”が行われています。ロシアのテレビでも、『2週間前までパン工場で働いていた』という完全武装の60代くらいの男性が戦場に出されている映像が流れました。ロシアに併合されてロシア領土になると、徴兵することが可能になるので、昨日までウクライナ人だった人とウクライナ軍が対峙することになる。悲惨な状況になってしまいます」
――Q:「督戦部隊」というものがあるということですが、こちらはどういった部隊ですか?
「あまり訓練を受けていない兵士を戦わせるため、後方で機関銃を構えて戦いを促すような、ソ連・ロシアに伝統的にある部隊です。1942年~43年にかけての独ソ戦を描いた『スターリングラード』というハリウッド映画にも登場しました。今回の戦争では、チェチェン共和国から派遣された『カディロフツィ』という兵隊が、そういった行動を取っているという報告があります。そうなるとますます、戦いたくない東部・南部のウクライナ人を戦いに駆り立ててしまう。後退すると撃たれてしまう可能性がありますので」
――Q:ウクライナ人がウクライナ人を撃つところを見張っている人たちがいるんですね…
「ロシアもそうですが、今回は当初から、アジア系の少数民族や貧しい人たちが多く戦場に出されています。あまり都市部に影響が及ばないような、少数民族や貧しい人が大きな被害を被っています」
■今後、ウクライナはどう出るのか?
――Q:岡部教授は、「ウクライナが反攻を強めて4州の奪還を目指す」とみていますが、戦いはいつまで続きそうですか?
「何人かのウクライナ政府要人と、オンラインなどで話す機会がありました。その中で、この戦争がいつ終わりそうか聞くと『来年の春まで続くのでは』と。逆に言うと『春には終わる』という見立てです。そこを目標に、ウクライナは奪還作戦を続けていくようです。アメリカの国務長官も『あらゆる援助をする』と言っていますし、西側諸国もその姿勢を支持していますので、ウクライナは領土の奪還を続けると思われます」
(関西テレビ「報道ランナー」2022年9月30日放送)