「奈良クラブをJリーグに連れていく」 30歳の元Jリーガーが復帰目指す晴れ舞台 昇格は目前も課題は「観客数」 地域を巻き込んだ挑戦 2022年10月17日
日本フットボールリーグ(JFL)の上位で、J3昇格が目前の「奈良クラブ」。しかし非願成就には、ある“大きな壁”が立ちはだかっています。
奈良県初の、Jリーグ昇格に向けた挑戦を取材しました。
■“熱き男”が引っ張る奈良クラブ J3昇格への課題は
アグレッシブなサッカーが持ち味の奈良クラブ。良いムードのチームの中でひと際大きな声を出すのは、都並優太(つなみ ゆうた)選手です。
ヴェルディ川崎でJリーグ史上初のイエローカードをもらった“狂気の左サイドバック”、都並敏史選手の息子です。父親譲りの熱さで、監督に注意を受けることも。
都並選手を筆頭に、豊かな個性が集まるチーム。JFL4位以内が絶対条件というJリーグへの昇格が、すぐそこまで近づいています。
しかし、そこには大きな壁が…Jリーグ入会基準の「平均入場者数 2,000 人超」という数字です。
【都並選手】
「観客数は…現状足りていないのは事実です」
今のままでは、いくら勝ってもJリーグに上がれません。
■観客増加へ向けた取り組み 原動力は
9月のある日、都並選手たちは生駒駅でビラ配りをしていました。
観客の動員ノルマは、ホーム残り5試合で19578人。サッカーも観客集めも、奈良クラブはチーム一丸となって行います。
【都並選手】
「奈良クラブというサッカーチームです。奈良県からJリーグを目指しています」
怖い顔で都並選手を叱っていたフリアン監督も「2人に渡せたよ!」と笑顔を見せます。1000枚のビラを、15人で1時間半かけて配りました。
また別の日、都並選手の姿は奈良市内に。平日の午後に営業活動に回る毎日です。この日は三条通ショッピングモールの理事長の元を訪れました。
【都並選手】
「今シーズンは自分たちも調子が良くて、来年のJリーグ入りというのが見えている中で、もう一度、三条通さんとの関係性の構築というところで」
【三条通ショッピングモール 松山和央理事長】
「今年は本当にチャンスやと思っています。商店街も熱い人間が多いので、一緒に熱く上を目指していこう」
午前中の練習の疲れを感じさせず、訪問先の店や路上で笑顔を振りまく都並選手。Jリーグに対する思い入れは人一倍です。
レジェンドの息子として生まれた都並選手は、大学卒業後にJ3のチームに入団しました。しかし…
【都並選手】
「所属していたチームから、戦力外というか契約満了の通知をもらったときに、一番早く声をかけてくれたのが奈良クラブだった」
現在30歳。年齢的に、Jリーガーに戻るリミットは近づいています。
【都並選手】
「この奈良クラブをJリーグに連れていって、もう一度その舞台で自分が輝く。Jリーグのない県の奈良にJリーグを持ってくる。それも価値のあることなのかな」
「奈良にJリーグを持ってくる」ことは、戦力外になった自分を救ってくれた、チームへの恩返しでもあります。
本州で一番人口の少ない野迫川村へも、都並選手たちは山道に揺られて向かいます。
【野迫川村 吉井善嗣村長】
「野迫川村に来たなら、星と雲海を見に行こう」
村長の隣でポーズを取ったり、保育園児と交流したり。人口が少なくても、小さな子供相手でも、決して笑顔を絶やすことはありません。
■残り数試合 “観客ノルマ”達成なるか
9月3日、JFL第20節が開催される橿原公苑陸上競技場には、都並選手らの広報活動が実ってたくさんの観客が集まりました。さあ、あとは本業のサッカーで魅せるだけ!と、思いきや…
【都並選手】
「今日は試合は出ません。ちょっとイエローカードもらいすぎちゃって…出場停止。父親譲りで」
「イエローカード累積8枚」の熱き男が見守る中、JFL3位の奈良クラブは、首位でライバルのFC大阪との大一番を迎えました。この日の観客数は過去最多の3179人。4試合を残して、観客ノルマはあと16399人です。
試合は一進一退の大激戦。ところが…
【都並選手】
「なしなし、なし!…試練や」
雷のため試合は中止、観客数もリセットになり、残り5試合で19578人に逆戻りとなりました。
ここから、奈良クラブに暗雲が立ち込めます。次のホームゲームには過去最多の5261人が詰めかけ、4試合を残してあと14317人となりましたが、下位のヴェルスパ大分にまさかの敗戦。
中止になったFC大阪との再試合は9月30日になりましたが、平日とあって、開門時間になっても観客がまばら…。しかも、負ければ昇格が厳しくなるという悪い流れです。
しかし、崖っぷちの奈良クラブが目覚めました。熱き男が闘志をむき出しにしてチームを引っ張り、前半36分に先制ゴールが決まります。観客席からは大歓声。このゴールで、選手とサポーターが一つになりました。
さらにその後も、苦戦が予想された中でのゴールラッシュ。5-0で、奈良クラブの完勝です。
貴重な勝ち点3を上げ、Jリーグ昇格へ大きく前進した奈良クラブ。観客数は予想を上回る1269人。ノルマ達成まで、残りホーム3試合で13048人となりました。
奈良クラブはサポーターと共に、奈良県初のJリーグを目指します。
【都並選手】
「やっぱり地域密着。みんなで作り上げていくというのは、このカテゴリーならではの醍醐味なのかなと。『プレーで興奮した』と言ってもらえるのが、サッカー選手としては何よりなので」
(関西テレビ「報道ランナー」2022年10月17日放送)