「反省のかけらも感じないひどい会見、全体の紛争を矮小化している」 旧統一教会6度目の会見 元2世信者は二転三転の政府をどう見たか 紀藤正樹弁護士の解説 2022年10月20日
10月20日、国会で解散命令の議論が進む中、旧統一教会が6度目の会見を開きました。旧統一教会の主張はどういったものだったのか、紀藤正樹弁護士と読み解きます。
■会見の内容と元2世信者のインタビュー
会見は「被害者と訴えられる皆様とそして政府関係者に対して心からおわびしたいと思う。大変申し訳ありませんでした」という謝罪の言葉から始まり、旧統一教会の実態を調査する「質問権」の行使については誠実に対応すると述べました。
「質問権」の行使に伴う実態調査後の解散命令を請求する要件について、岸田首相の国会での説明は二転三転。10月18日の国会では「民法の不法行為は入らない」と答弁しながら、19日にはその説明を180度翻し「民法の不法行為も入り得る」としました。
こうした政府の動きについて、元2世信者の小川さゆりさん(仮名)が関西テレビの取材に応じ、「とにかくスピード感を持って対応してほしい」と話します。
【旧統一教会 元2世信者 小川さゆりさん(仮名)】
「今までと違って、前向きに進んできた部分もあるので、(質問権の行使を)いつから開始していつまでかかるのか全然分かっていない状況で、何も安心できないなというのが正直な思い。この間にも“統一教会”はどんどん対策をしていって、自分たちがしてきたことを隠したりしてしまう。そういう猶予を十分与えてしまう可能性がある」
また10月7日、小川さんが記者会見を開いていた最中に、教団が小川さんの両親の署名が入ったファックスを送り会見中止を求めたことについては…
【旧統一教会 元2世信者 小川さゆりさん(仮名)】
「そういう脅し方をされると、どんな人間であっても動揺してしまいますよね、怒りを感じました。こんなに卑怯な、卑劣なやり方をするんだなと」
被害を訴える2世がいる中、会見で教団側は2世信者20人を教団の各地区のトップに昇格させ、2世信者の悩みに寄り添う、などと説明しました。
また、元妻が教団に多額の献金をして長男を自殺で失ったことをメディアで訴えた橋田達夫さんの自宅を、改革推進本部の勅使河原秀行本部長がアポなしで訪問し「マスコミに出ないでほしい」などと求めたことについては「とにかく話を聞こうとして家に行った」と釈明。訪問では橋田さん本人との話し合いは成立せず、橋田さんの元妻の証言も聞くべきだとして、「息子の死は教団とは関係がなかった」などと主張するビデオを会場で上映しました。
【旧統一教会 改革推進本部 勅使河原秀行 本部長】
「この橋田さんの問題に関しては、あまりにも家庭連合の名誉を傷つけている」
質問権には誠実に対応するとしながら、被害者には厳しい一面を見せる旧統一教会。長年にわたって旧統一教会の被害者救済などに取り組んでいる紀藤弁護士とともに、今回の会見を読み解きます。
■紀藤弁護士の見解
――Q:今回の会見について率直な感想は?
【紀藤弁護士】
「ひどい会見でした、反省のかけらも感じない。少しでも被害者に対して悪いと思っていたり寄り添う発想があれば、とてもできない会見だったと思います」
旧統一教会は宗教2世の苦しみの救済措置として、“宗教2世”を教区長に昇格させたとし、会見にも登壇させました。68人の教区長のうち、20人を宗教2世にしたということです。勅使河原本部長は、「彼らは“宗教2世”の“悩みを通過してきた人”。彼らであれば2世の悩みを理解してあげられる」と話しています。
――Q:宗教2世の悩みは宗教2世にしか分からないだろうと、20人の教区長たちがケアをしていくということですが、どのように受け止めますか?
「宗教2世が会見場に現れたことについては、“成功した2世信者”に“成功していない2世信者”が悩みを打ち明けるということで、上下関係ができ過ぎてしまって良くないんじゃないかと私は思います。また、男性ばかりですよね。女性の2世信者に対してはどう接するんでしょう。見てくれで判断してはいけませんが、高齢者もいれば若い人もいる。どういう基準で選んだのかも明らかにされていないし、“祝福2世”か“一般の2世信者”かということも分からない」
会見では、元妻が旧統一教会の信者で、長男が自ら命を絶った橋田さんがメディアで被害を訴えることについても質問が集中しました。勅使河原本部長は「問題だと思っていないし、言論の封殺もない。ただ、奥さまの話とは話がずいぶん違うと思った」と話し、元妻のインタビューを会見場で流しました。
――Q:会見の場でこういったインタビューを流すという行為についてはどう思われますか?
「宗教者としてあってはならないことのように思います。宗教者というのは人の上に立って、家族を調和して話し合いに応じさせるのであれば分かるんですが。対立をあおるような形で、言い分が違うというのを宗教者の側から出していくのは、宗教者の在り方として疑問に思います」
――Q:インタビューは、亡くなられた息子さんの死について、宗教は関係なかったというものでした。橋田さんの主張とは異なりますが、これについてはどうですか?
「一方的なインタビューじゃなく、中立的な第三者がいる席で、2人がお互いに話し合うべきだと思います。一方的なインタビューだと単なる対立ですよね。統一教会が何をしたかではなく家族の問題ということで、全体の紛争を矮小化しているように見えます」
■解散命令請求について
現在国会で取りざたされている「解散命令請求」とは、宗教法人が「法令に違反して公共の福祉を害すると明らかに認められる行為をした場合」、国などが裁判所に解散命令を請求するものです。裁判所が請求を認めて解散命令を出すと、宗教法人格が剥奪され、税制上の優遇が受けられなくなります。
この「法令に違反して」という条件について、岸田首相は10月18日の国会で「民法の不法行為は入らない」と答弁していましたが、19日にはその説明を180度翻し、「民法の不法行為も入りうる」としました。
民法の不法行為も入ることになると、霊感商法や過度の献金が、解散命令請求を行う条件の対象となる可能性があります。
――Q:旧統一教会への解散命令請求の可能性が高まったと言えるのでしょうか?
「前々日の発言が間違いだったので、修正されたわけですね。われわれは文化庁宗務課とずっと交渉してきて、『刑法しか対象ではありません』とずっと言われ続けてきました。そのメモを岸田首相が見て、勘違いされたんだと思います。一方、民法の不法行為が対象になれば、2世信者の児童虐待の問題なども入ってきます。そういう意味では、とても重要な解釈変更です。文化庁宗務課がやってきた行政解釈を政府が外圧で変えたということですから、われわれからみたら大きな一歩だし、解散命令は請求しやすくなると思います」
――Q:救済に向けた法整備に関して、与野党協議会の設置が決まりました。与党案は出ていないのに与野党協議会ができるということについて、有識者検討会としてはどうですか?
「安倍元首相の銃撃事件というのは非常に重篤な事件で、この結果をもたらしたのは統一教会問題の放置なんです。もし放置しなければ、安倍元首相の殺害はなかった。この問題を政局問題にしてほしくないという思いがあります。私は自民党にも野党にも『とにかく超党派で』とお願いしてきました。今回与党と野党で一致してやることになりましたが、与党には自民党だけでなく公明党も参加しています。『解散命令』と同じ柱として『被害者救済』というものがあり、今回の臨時国会では、まず第一弾の消費者契約法の改正を。さらなる改正は次の通常国会でもいいんですけど、まず第一弾が行われないと始まらないと思います」
――Q:法整備は検討会の報告書をたたき台にして行われるべきでしょうか?
「そうですね。ただ、すぐに改正できるものと、新法のように検討しなければいけないものが混じっているんです。一足飛びに今回の臨時国会で全部というのは高望みで、そこは地道に、まずは今、消費者契約法の改正などはできると思います。特定商取引法の規制だとか財産管理権、家族取消権の問題は検討を要しますので、次の通常国会までにまとめてほしいと思います」
――Q:消費者契約法の改正というのは、不当な契約を取り消すだけでなく、高額献金を規制するといったものですか?
「あとはマインドコントロールですね。いったんマインドコントロール下に入った人が、取り消しできる制度。今は一回的な取引の取り消しなんですね。ところが一回的な取引において、すでに影響を受けている人に対し、その影響下を利用する行為も取り消し権の対象にしてほしいと」
(関西テレビ「報道ランナー」2022年10月20日放送)