「あなたにも家族があるでしょう」裁判長が諭した宮本被告の異常性 “天満カラオケパブ殺人事件”は懲役20年の判決に 「無慈悲で残酷な犯行」はなぜ行われたのか 事件を追った記者の解説 2022年10月20日
大阪・天満のカラオケパブで、オーナーの女性が殺害された事件。10月20日、大阪地裁は常連客の被告の男に、懲役20年の有罪判決を言い渡しました。
被告自身が死刑判決を求めていた、異例の裁判。被告は落ち着いた様子で、裁判長を真っすぐ見据え、判決を聞いていました。
■事件概要
2021年6月、大阪・天満のカラオケパブ「ごまちゃん」で、オーナーの稲田真優子さん(当時25)を殺害した罪に問われている宮本被告。
宮本被告は稲田さんが以前に勤めていた飲食店の常連客で、その後、稲田さんがオープンしたこの店にも頻繁に出入りしていました。
真優子さんのスマートフォンには…
<2020年11月の宮本被告からのメッセージ>
「あー、まゆさんの声、聞きたいな。眠れてないんです。勝手なことですが。1時間おきに目が覚めて」
メッセージや執ような不在着信など、宮本被告から真優子さんへの、異常な執着の様子が残されていました。
犯行当日、宮本被告は店を訪れ、真優子さんと写真を撮っていました。殺害は、この写真のすぐ後とみられています。真優子さんは、顔や胸など10カ所以上を傷付けられていました。
■裁判の行方は
裁判で被告は何を語るのか。注目された9月16日の初公判で、宮本被告は裁判員に「判決は死刑をお願いします」と言いました。「どなたからの質問にも答える気はない」などとも話し、殺害したかどうか、認否を明らかにしませんでした。
検察側は10月12日、宮本被告が「犯行後、短時間で証拠隠滅を図っていて計画的」と指摘。その上で、宮本被告の靴や服に真優子さんの血液が付着し、現場に残されていた宮本被告の指輪には真優子さんの皮膚片が残されていたことから、宮本被告が好意を募らせ感情をうっ積させて犯行に及んだと主張し、無期懲役を求刑しました。
一方、弁護側は無罪を主張しました。
異例の展開の中で迎えた、10月20日の判決。宮本被告に下されたのは「懲役20年」の有罪判決でした。
大阪地裁の大寄淳裁判長は、「常識に照らし、被告人が店舗で被害者を殺害した犯人であると認められる」と指摘。「被害者の落ち度が見られず、自分勝手で強固な殺意に基づく無慈悲で残酷な犯行」と断じました。
その上で、「他の事案との公平性を踏まえ、有期懲役の最高刑である懲役20年と判断する」としました。
判決を落ち着いた様子で聞いていた宮本被告は、深々と頭を下げ法廷を後にしました。
真優子さんの兄・雄介さんは、判決後の会見で悔しさをにじませました。
【稲田真優子さんの兄・雄介さん】
「(真優子は)これから先、幸せになる未来があったんですね。20年というのは、理解しようと思ってもなかなかのみ込めない」
■記者が見た裁判
初公判から宮本被告の姿を見続けた関西テレビの赤穂雄大記者が、判決後の大阪地裁から、裁判の様子や判決についてリポートします。
【赤穂記者】
「今日法廷に来た宮本被告は髪を切り、また、これまで伸びていたひげもそっていました。懲役20年という判決は、真っすぐ裁判長を見て落ち着いた様子で聞いていました」
「今回の裁判は目撃証言などの直接証拠がない中で、どう判断されるかが注目されていました。判決では、被告の着衣や靴に残されていた血液が鑑定の結果被害者のDNAと一致したことや、被告人には犯行の機会があり、ビル内で不審な行動を取っていたと指摘。常識に照らし、宮本被告が店舗で真優子さんを殺害した犯人であると認定しました」
――Q:宮本被告は裁判の中で「死刑を望む」と発言しつつ、明確に自らの罪を認めるわけではないという状況でしたが、これらの言動は判決にどう影響したと思いますか?
「判決に宮本被告の発言がどこまで影響したかは分かりませんが、先ほど、裁判員の方が会見を開き、『あくまで証拠に基づいて審理することを意識した』と前置きした一方で、『個人としては、被告の態度に反省がなく、人としてどうなのかなと思った。そういった被告の態度も加味された判決になったと思う』と話しました。また裁判長も、『犯行後の言動に反省を見出すことはできない』と、判決の中で指摘しました」
――Q:これまでの裁判を通して見た、宮本被告の印象は?
「裁判を傍聴する中で宮本被告から受けた印象は『自分本位で身勝手』です。まず9月の初公判では裁判員に向けて『死刑をお願いします』と一方的に語り、法廷は騒然としました。その一方で『どなたからの質問にも答えるつもりはない』とも語り、認否や事件について話すことには非常に消極的な印象を受けました」
「その後、宮本被告の態度に大きな変化があったのは10月5日の裁判で、血液のDNA鑑定についてなど、検察側の事件の立証方法を批判したんです。さらに10月12日の裁判では検察に無期懲役を求刑された後、宮本被告は『真優子さんとの関係は悪くなかった』という趣旨の発言や、検察側が『証拠隠滅を図っていて計画的だ』と指摘したことに対して『捜査して見つからなかったから証拠隠滅、捜査の不手際だ』などと批判し、間接的に犯行を否認するような内容を、およそ1時間にわたって語りました。初公判時に事件について語ることや弁護すらも拒否していた姿からは意外で、『自分の意見を言うことを我慢できなくなった』という自分本位な、身勝手な印象を受けました」
――Q:裁判以外でも宮本被告の「身勝手さ」がうかがえる場面はありましたか?
「真優子さんの母の由美子さんに、検察から戻ってきた真優子さんのスマートフォンを見せてもらいました。宮本被告とのLINEのやり取りでは、真優子さんが嫌がっているにも関わらず、何度も何度も電話をする、執ようなまでにメッセージを送り続けるといった、相手がどう感じているかを気にせず、自分のしたいことを優先するような身勝手な行動がみられました。今日の判決の最後には、裁判長が宮本被告に『あなたには難しいかもしれませんが、遺族の気持ちについて考えてみてください。あなたにも家族がいるんでしょう』と諭すような場面も見られました」
――Q:今回の判決について、真優子さんのご家族はどう受け止められましたか?
「判決後に真優子さんのお兄さんが会見を開きました。無期懲役という求刑に対し判決が懲役20年となったことへ、『犯罪歴がないといったことを考慮しての判決。のみ込んで理解して…自分との戦いですね』と、かみしめるように話されていました」
多くの希望と夢のある未来が待っていた1人の女性が殺害された今回の事件。宮本被告は自ら死刑を求めただけで真相は語らず、裁判は終わってしまいました。
宮本被告の真意を推し量るためにも、控訴判断が注目されます。
(関西テレビ「報道ランナー」2022年10月20日放送)