「投資に興味ある?」 同級生の勧誘からわずか1カ月 22歳の女性はなぜ命を絶ったのか 「他の被害者も助けたい」と遺族が損害賠償を求め訴え 菊地弁護士は「詐欺での立件はできなかったのか」 2022年11月02日
同級生らから勧誘された投資話を巡って、被害に悩んで自ら命を絶った女性の遺族が、同級生らを相手取って損害賠償を求める訴えを起こしました。1人の女性が追い詰められた、被害の実態を取材しました。
■投資話が奪った女性の未来
【川上穂野香さんの母・佐永子さん】
「本当に腹立たしい限りですし、本当に…ようやく責任を取っていただける機会を、ここまでやっとこれたなという思いでいっぱいです」
11月2日に開かれた会見で、胸の内を語った川上佐永子さん。最愛の娘・穂野香さんは、新社会人として働き始めたばかりの2020年10月、22歳という若さで自ら命を絶ちました。
2021年、金融商品取引法違反の疑いで逮捕された男。全国でセミナーを開き、仮想通過を運用するとして、無許可で投資会社への出資を募っていました。「ジェンコ」や「ジュビリーエース」などの金融商品をかたり、高配当をうたってマルチ商法的に出資を拡大していました。
穂野香さんを自殺へ追いやったのは、この男のグループによる投資話でした。
【穂野香さんの母・佐永子さん】
「穂野香と大学の同じ学科の同級生で、その人のインスタグラムのストーリーで『投資に興味がある人』みたいなアンケート、イエスとノーみたいなボタン押すところで、軽い気持ちでイエスと押したのがきっかけで、『早くやられることをお勧めします』って。友達を信用したというところだと思います」
穂野香さんを最初に勧誘したのは、大学の同級生。穂野香さんのスマホには、同級生とそこから紹介された投資グループの勧誘担当の男とのやり取りが、100件以上残されていました。
<LINEでのやり取り>
【穂野香さん】
「所謂(いわゆる)マルチですかね?」
【勧誘担当の男】
「マルチとかネズミ(講)では無いです」
穂野香さんがマルチ商法なのではないかと疑い、戸惑いを見せる中、勧誘担当の男はしつこく連絡を続けました。
<LINEでのやり取り>
【勧誘担当の男】
「正直何もしなくても投資としてお金は入ってきます。紹介すればプラスアルファで更なる利益が出るって考えてもらえれば」
穂野香さんは悩みましたが、350万円ほどの奨学金の返済が始まろうとしていたこともあり、勧誘してきた同級生たちに押し切られ、消費者金融3社から「引っ越し」と理由を作って計150万円を借り、全額を渡しました。
しかし実際には、配当金を受けることはありませんでした。
穂野香さんは、交際相手と一緒に勧誘してきた同級生たちのもとを訪れ、返金を求めました。
【穂野香さん】
「誰が誰にお金渡して、どういうルートで入っているのか」
【勧誘してきた同級生ら】
「会社でやってることなんで、僕らって一切関わりがないんですよ」
【穂野香さんの交際相手】
「こいつの150万返してほしいんですよ」
【勧誘してきた同級生ら】
「何で?(笑)」
穂野香さんや交際相手は交渉しましたが、同級生側はその要求を笑ってはねのけました。
その翌日、穂野香さんは、母・佐永子さんと警察に相談に行く予定でしたが、佐永子さんが仕事から帰宅すると、穂野香さんの姿はありませんでした。
穂野香さんは手書きの遺書を残し、自ら命を絶っていました。
<穂野香さんの遺書>
「お母さんへ 22年間、ずっと私を育ててくれてありがとう。投資詐欺の件でたくさん迷惑をかけて心配をかけて本当にごめんなさい。もう十分、迷惑をかけきったと思います。ごめんなさい、本当にありがとう」
【穂野香さんの母・佐永子さん】
「手紙書いて…どんな気持ちやったんかなと。想像するだけでかわいそうやなとか。しんどかったら、しんどいねんって言ってくれたらよかったのにとか。なんでそんなに一人で抱え込んだんやとか。だます方が悪いのになって、何でそんな自分を責めたんやろうなとか…めっちゃ思いますね、いまだに」
穂野香さんが2歳のときに、母親の佐永子さんは離婚。2人は20年間、支え合って生きてきました。
【穂野香さんの母・佐永子さん】
「小さいときから手紙いっぱい書いてくれてたんで、ずっと置いてるんですけど。改めて、いい子というか、優しいなと思う。当たり前と思ってたことが、当たり前じゃなかったなって…」
誰よりも真面目で責任感が強く、佐永子さんにとっても自慢の娘でした。そんな彼女が、投資話をきっかけに一変したのです。
【穂野香さんの母・佐永子さん】
「家で元気がなくて、ぼーっとしてたりしたので『どうしたん?』って聞いても最初なかなか言わなくて。いつもの感じは全くない」
穂野香さんの顔からは笑顔が消え、精神的にも追い詰められていきました。
佐永子さんは、同級生から紹介された勧誘者の男を刑事告訴しましたが、略式起訴で罰金刑にとどまりました。
大切な娘が命を絶つほどに悩んだ犯罪だというのに…佐永子さんは11月2日、リーダーの男を含む同級生ら3人に対し、計約1200万円の損害賠償を求める裁判を起こしました。
【穂野香さんの母・佐永子さん】
「その日からずっと後悔ばっかりだったんですね。何で私が1人で置いていってしまったんだろうっていう。ずっと私が悪いんかなという思いだったんですけど、でも娘の悔しさ、無念を晴らすためにと」
会見で、穂野香さんが亡くなってからの2年間をこう振り返った佐永子さん。そして…
【穂野香さんの母・佐永子さん】
「やっぱり友達にだまされたんじゃないかっていうところも、かなり本人は苦しんでいたと思うんです。『もしかして裏切られたのかな?』って。娘も亡くなる前に、自分以外にも他にもたくさん被害者の方がいるっていうことを言ってて。他の被害者の方のことまで心配してたんですよね」
佐永子さんはこの“悪質な詐欺”を、1人でも多くの人に理解してほしいと語りました。
【穂野香さんの母・佐永子さん】
「全然、反省してる態度ではないので。しっかりその辺も処罰していただきたいなという思いがあります」
■勧誘から1カ月あまり 何があったのか
マルチ商法の被害に悩み、自殺してしまった川上穂野香さん。
勧誘が始まってからわずか1カ月ほどで追い詰められた彼女の身に、一体何が起こったのでしょうか。
<2020年8月25~28日>
同級生だった勧誘者Bから「投資話を聞いて」とSNSで連絡。勧誘者Aを含めLINEでやり取り
<8月31日>
3人で対面。『9月1日までキャンペーンをやっている』と、消費者金融での借り入れを勧められる
<9月1日~>
借り入れた150万円を勧誘者Aに渡す
<9月26日>
うつ状態であると診断される
<9月30日>
勧誘者Aに返金を迫ったが断られる
<10月1日>
遺書を残し、ホテルで命を絶つ
穂野香さんが被害に遭った投資グループの一部は、金融商品取引法違反で摘発され、刑事罰を受けています。リーダーの男は懲役2年6カ月(執行猶予5年)、穂野香さんを勧誘したAには罰金70万円が科せられていますが、穂野香さんの同級生だった勧誘者Bは、罪に問われませんでした。
穂野香さんの母・佐永子さんはこれに対して、「勧誘者Bは、Aに責任をなすりつけているように供述をしていて、本当に腹立たしい」と語っています。
刑事罰の軽さについて、報道ランナーに出演する菊地幸夫弁護士は…
【菊地弁護士】
「金融商品取引法というのは、投資などを規制する法律なんです。そこで問題となっているのは、『無資格でやった』ということ。不特定多数に金融商品を紹介するには登録が必要なんです。形式的な違反で、『だましてお金を取った』というところではないんです。おそらく勧誘トークの中で、高利率やあり得ないようないい条件をうたっていて、スマホにも記録が残っていると思うんです。詐欺で立件する余地は十分にあったんじゃないかと思うんですけど…。いずれにしても、できるかどうかは分かりませんが、例えば消費者金融で借り入れた分を、自己破産で清算するという可能性は残されていますから。誰かに相談していただけていれば…と思います」
(関西テレビ「報道ランナー」2022年11月2日放送)