今度は戦闘機が日本海上空を飛行 連日の北朝鮮の軍事行為 日本はどうすべきなのか 「北朝鮮は自国民をわざと飢えさせている」とみる専門家 その意図は? 2022年11月04日
北朝鮮による、相次ぐ弾道ミサイルの発射。アメリカ・韓国も合同軍事演習を延長し、緊迫感が増しています。今、何が起きているのでしょうか?
緊迫する朝鮮半島情勢について、北朝鮮情勢に詳しい、龍谷大学の李相哲教授に解説してもらいます。
■北朝鮮が戦闘機で“最後の賭け”
韓国軍によると、11月4日午前11時~午後3時ごろまで、北朝鮮の内陸部や日本海・黄海上空などで北朝鮮の軍用機の飛行が複数確認されました。韓国空軍は、F35Aステルス戦闘機など80機以上を緊急発進させ、対応したとしています。
米韓空軍が大規模な合同演習を5日まで延長したことに対して、北朝鮮が強く反発したものとみられます。
――Q:この動きは、ミサイル発射の延長でしょうか?
【李教授】
「はい、北朝鮮が今回戦闘機を飛ばしたというのは注目に値します。北朝鮮が持っている戦闘機は、1985年以前に製造されたソ連製で、実戦では役に立ちません。しかも1時間飛ぶのに3000リットルのガソリンを使うので、北朝鮮の今の状況からすると、これは“最後の賭け”に出たような感じすらします」
――Q:それをしなければいけない状況にある、ということですか?
【李教授】
「そのくらい北朝鮮は今、相当怒っている。アメリカと尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領が、北朝鮮政策を全く見直そうとしないところへの不満と苛立ちですね」
――Q:北朝鮮は、3日午後9時半すぎに弾道ミサイルを3発発射し、さらに、午後11時半ごろ、80発あまりの砲弾射撃も行いました。この連発について、李教授は「いつでも撃てる能力と本気度を示す」という見解です
【李教授】
「今回、少しずつ北朝鮮の意図が分かってきています。力の誇示と、実戦をにらんでの、核を搭載したミサイルを発射する部隊の練習です。将来的には核弾頭を積んだ戦闘をにらんで力を見せたと。だから非常に危惧すべき事態だと思います」
――Q:韓国とアメリカに対して見せるということですか?
【李教授】
「われわれは数だけぱっと見るんですが、細かく見るとさまざまな種類を実験しています。アメリカや韓国がなかなか防ぎようがないような形で、時間も場所も種類も、いろいろ変えてやってみてるんです」
■この状況はいつまで続くのか
――Q:この不穏な動きがいつまで続くのか、李教授は「米韓軍事演習続くなら」という見解です。本来であれば10月31日~11月4日まででしたが、北朝鮮の動きを受けて延長するという話になっています。
【李教授】
「続けざるを得ないんです。米韓軍が演習をすれば、北朝鮮は反応せざるを得ない。本当は北朝鮮も嫌なんです。今はエネルギーも不足しているし、食糧供給がままならない中、軍の動員も難しい。そんな中で北朝鮮はおそらく、一番得意とするミサイルで対応しているという状況だと思います」
――Q:しかし本音は続けたくない、ということですね。北朝鮮はミサイルの発射で、この2日間で200億以上の費用を使っているということですが…
【李教授】
「これは計算方法にもよるんですが、北朝鮮は各種ミサイルを1000機ぐらい持っています。なのでその中の在庫からやっているのであればわずかな数です。また、外国のように人件費はそんなにかかりませんから、200億まではいかないと思いますが、いずれにしろ、彼らが今飛行機を飛ばしたりするのは、国力をかなり損傷している。これは見方によっては、アメリカが北朝鮮にプレッシャーをかけて、北朝鮮のエネルギーや国力を弱めたいという側面もあるんじゃないかと言われています」
■北朝鮮の内部はどうなっている?
2022年に入ってから、すでに30回以上弾道ミサイルを発射した北朝鮮。
首都・平壌の豊かな暮らしなどが宣伝サイトでアピールされていますが、WFP(国連世界食糧計画)の2018年~2019年の調査によると、1年間の農作物の収穫量は、過去10年間で最低水準の490万トンと推定。主な原因は天候不良ですが、そこに農機具をはじめ、燃料・肥料の不足が追い打ちをかけているということです。
その結果、北朝鮮の人口およそ2590万人のうち4割にあたる1070万人が栄養不良で、5歳以下の子どもの5人に1人が発育不全だとWFPは報告しています。
危うい食糧事情の中、北朝鮮はいつまで軍事優先の国家運営を続けるのでしょうか。
――Q:食糧危機は悪化しているんでしょうか?
【李教授】
「今年は秋の収穫が終わったばかりなのに、食糧危機への危惧が高まっています。特に状況が深刻な理由は、田植えの時期にコロナがまん延したこと。北朝鮮では田植えの時期を逃さないよう、都会からたくさんの人が田舎に支援に行くんですが、それもできなかった。また、北朝鮮の土地はかなりやせていて、中国から肥料を輸入しなければならないんです。肥料がなければ収穫は望めない。なのに、中国から肥料を輸入したという記録があまりないんです。ですから、状況はものすごく深刻じゃないかと思います」
――Q:厳しい状態の北朝鮮ですが、国民の生活よりも軍事力を優先する理由について、李教授は「飢餓にすることで、北朝鮮国民が国に頼らざるを得なくなる」からという見方です。わざと国民を飢餓状態にしているということですか?
【李教授】
「常識的には考えにくいんですが。逆に考えると、金正恩総書記が3~4日に撃ったミサイルを金にして食糧を輸入していれば、みんな飢えずに済むんです。ですから意図的としか思えない。これは今に始まったことではなく、1990年代に北朝鮮の国民がたくさん餓死したときに、北朝鮮は金日成主席の遺体安置所をつくるのに10億ドル近く使いました。それを食糧に充てていたら餓死者は出なかった。この国は政権維持を最優先しているということです」
――Q:この2日間のミサイル発射で、北朝鮮の中国からのコメ輸入額・約2年分相当の支出があったということですね
【李教授】
「飢えさせることで、配給のいい階層はより政権に忠誠を尽くすんです。差別をつくることで忠誠競争をさせるんです。本当にあるまじき行為というか、普通の社会では考えられないことをやっています。北朝鮮は国民経済の27パーセントを軍備に使っています。そこを少しだけ削ったら、北朝鮮は飢えずに済む。しかし、北朝鮮に飢餓がまん延すると、国際社会が面倒を見るという、非常に皮肉な状況が続いています」
――Q:今後、北朝鮮はどうなっていくのでしょうか?核実験の話も出ていますが…
【関西テレビ 神崎デスク】
「夏の前から核実験はすると言われていましたが、中国の共産党大会までは、中国が『待った』をかけているとみられていました。共産党大会が終わったので、アメリカの中間選挙が始まる前の今のタイミングが一番効果的だと言われていましたが、どうやらまだ中国が『やるな』と圧力をかけているのでは、という話もあります。証拠として、核実験をする前に、アメリカ軍が監視のために『核実験監視機』という飛行機を嘉手納基地に持ってきます。アメリカ軍が監視体制を敷いているというのが一つの目印になるんですが、まだその飛行機が来ていない。核実験をすると言われていましたが、もしかすると、もう少し猶予があるというか、中国が『待った』をかけている状況なのかもしれません」
【李教授】
「タイミングは金正恩総書記が決めるので何とも言えませんが、100パーセントやります。北朝鮮は小型の核兵器をつくらなければ、今たくさん持っているミサイルは使い物になりません。しかも核を保有できる寸前まで来ているのにやめるということはまずないです。やると思います」
――Q:日本としては何をすべきでしょうか?
【李教授】
「日本はやはり日米韓の協力関係を強化する、防衛力を強化する。これしかできることはないですね」
(関西テレビ「報道ランナー」2022年11月4日放送)