大阪・関西万博の「課題」は…食事 世界の3人に1人は“肉を食べない” ムスリム・ベジタリアン・ビーガンに対応が必要 『ピクトグラム』で食材「見える化」の動き 2022年11月22日
今、海外から来る観光客のために、食材を「見える化」する動きが進んでいます。
宗教などの理由で生じる食事の課題を解決しようという、「食材ピクトグラム」を取材しました。
■万博へ向けて実証実験
いよいよ2年半後に迫った大阪・関西万博。2820万人もの来場が予想され、そのうち海外からの来場者は350万人に上ると見込まれています。
ホテルや輸送手段など、準備すべきことはまだまだ山積みですが、中でも大切なのは「食事のおもてなし」。大阪に来ていた外国人観光客からは、こんな声が聞かれました。
【インドネシアからの観光客】
「イスラム教徒です。私たちみんな豚肉が食べられません。私たちイスラム教徒はコンビニでおにぎりを買います」
イスラム教では豚肉やアルコールなどが禁じられています。またベジタリアンには、肉や魚だけでなく、かつおだしなどもNGとしているビーガン(完全菜食主義)の人も。
海外から来た人に日本で食事を楽しんでもらうためには、特別な配慮が欠かせません。
【オーストラリアからの観光客】
「僕はなんでも食べるけど…」
「オーストラリアにはもっと専門的なベジタリアンの店があります」
「日本で完全菜食主義者でいるのは難しそうだ」
11月22日、大阪・梅田である実証実験が行われました。集まった留学生や社会人がスマホで見ているのは、地図のようです。
――Q:今は何を?
【マレーシア出身 ヤスミンさん】
「ここのレストランに行きたいので、このマップを見ながら歩いていきます」
――Q:食べられるものはありそうですか?
「これを見たら、いくつか食べられる食事はありますね」
彼女たちが見ていたのは、14種類の食材がイラストで表示されている「食材ピクトグラム」。さまざまな国から来た人はこれを見て、食べられるかどうかを判断することができます。
今、2025年の大阪・関西万博に向けて、食材ピクトグラム導入の飲食店を探せる地図アプリの開発が進められているのです。
お目当ての店に到着した、イスラム教徒の女性2人。食材ピクトグラムを見て、原料にアルコールが含まれるしょうゆを「抜きで」と注文し、お寿司を塩とオリーブオイルで食べました。
【ヤスミンさん】
「1個1個(店員に食材を)確認するのは、私は言いづらいかもしれません。迷惑かけるかなと思うので。(ピクトグラムがあると)分かりやすくなってるから便利」
2人は無事に、豚肉やアルコールが入っていない料理を食べることができました。
【ヤスミンさん】
「(何を食べているのか)分からなかったら不安を感じて、そんなに楽しめないです。今は(不安が)ないですね、はっきり分かってるから、何を食べているか」
■開発のきっかけは留学生の声
これまでに全国の1600以上の飲食店やホテルなどに導入されているという「食材ピクトグラム」。
手がけたのは、株式会社フードピクトの菊池信孝代表。自身の大学生のときの経験が開発のきっかけになったと話します。
【菊池代表】
「留学生と友達になって食事に行く際に、『何が入ってるか分からないから不安で食べられない』という声をたくさん聞きまして。一目で分かるイラストがあったらいいんじゃないか?というところからスタートしました」
菊池さんはピクトグラムを作って「食材の見える化」を実現し、誰もが同じテーブルを囲む世の中を目指したいとしています。
【菊池代表】
「表示があることで言葉が違う人にもすぐ伝わりますし、行く方も、表示があるお店であれば『聞いてもいいんだ』と。店員さんとのコミュニケーションへのハードルもすごく下がりますので、お互いの正確なコミュニケーションのためにも、表示があるっていうのはすごく大事になります」
多様な人種や宗教の人が集まる万博。食材ピクトグラムは、日本の“食”をアピールする一助になるでしょうか。
■「食材ピクトグラム」とは
宗教などの理由で生じる食事の課題を解決しようという試み「食材ピクトグラム」。
アレルギーや健康上の理由などで、食材を知りたいという人の助けとなることも期待されています。
あるお好み焼き(ミックス焼き)を例に挙げると、食材ピクトグラムを使うことで、豚・エビ・小麦・卵などの使用が一目で分かります。
ムスリムの人は豚、ベジタリアンの人は豚やエビ、アレルギーの人は小麦や卵など、それぞれ食べることのできない食材を避けられるようになるのです。
特に厳格なムスリムの人は、お好み焼きやたこ焼きに欠かせないソースや、さまざまな日本食に登場するしょうゆも口にすることができません。ポークエキスやアルコールが含まれているためです。
さらに、豚肉を切った包丁やまな板など、同じ調理器具を使用した食材は全てNGになるということもあるそうです。
イスラム教徒が多いマレーシアで海外特派員を務めた経験を持つ、関西テレビの神崎デスクは…
【神崎デスク】
「結構厳しくて、包丁とまな板だけでなく、フライパンや鍋など、いったん豚肉を調理したものは、洗っても使えないといった厳格なルールもあります。現地スタッフと日本に来た時も白身魚のフライが入ったバーガーならOKかと思いきや、揚げ油が動物性だとNGでした。ただ、あるファーストフード店では、エビのバーガーは植物性の油で揚げていて、こっちは大丈夫と。ムスリムの中で『食べられるものリスト』みたいなものがあって、食材だけではなく調理器具にまで気を使って選んでいる感じでした」
世界の宗教人口のデータをみると、一般的に豚肉を食べないイスラム教徒、牛・豚肉を食べないヒンドゥー教徒を合わせると、世界の人口の約4割にあたります。
また2023年には、ヒンドゥー教徒の割合が高いインドの人口が、中国を抜いて世界最多になると予想されています。
2025年の大阪・関西万博やインバウンド需要の回復に向けて、今、食の多様化や宗教などへの細やかな対応が求められています。
(関西テレビ「報道ランナー」2022年11月22日放送)