北朝鮮が公開した「尊いお子さま」の写真 まるで“ファーストレディ” 金一族のロイヤルファミリー化が目的か 専門家が指摘する「タイ王室との関係」とは 2022年11月29日
北朝鮮のメディアが、金正恩総書記の“娘”とされる人物が映った写真を続々と公開しています。その狙いは何なのでしょうか。
■初めて公開された金正恩総書記の“娘”
北朝鮮の国営放送が、11月27日に公開した写真の数々。「金正恩総書記が大陸間弾道ミサイル『火星17』型の発射実験を成功させた技術者たちと記念写真を撮った」というものでした。
これらの写真で、常に金総書記の隣に寄り添っているのは、国営テレビが「尊いお子さま」と呼ぶ人物。韓国の情報機関・国家情報院は、金総書記の2番目の子供「キム・ジュエ氏」だとしています。
北朝鮮メディアは、11月18日に「火星17」型が発射された際にも、キム・ジュエ氏が金正恩総書記、李雪主(リ・ソルジュ)夫人とともに発射に立ち会ったとみられる写真を公開していました。
■目指すはタイ王室?
金正恩総書記の娘の姿は、なぜこのタイミングで公開されたのでしょうか。朝鮮半島情勢に詳しい李相哲教授に話を聞きます。
公開された写真の中で、李教授が特に注目するのが、最新型ICBM「火星17」の開発者らとの記念撮影とされている大人数の集合写真です。
【李相哲教授】
「全員が功労者たちですね。金総書記の隣には軍事工業部長、国防科学委員長など、ミサイル開発に多大な貢献をした人たちが写っています。しかしここに1人、全くミサイル開発と関係ない女の子がいますね。その“娘”がそこにいられるただ一つの理由は、金一族、ロイヤルファミリーであることです。それを北朝鮮メディアは尊貴なる存在と言っています。すでに、ロイヤルファミリーという扱われ方をしている」
北朝鮮メディアは、「尊い娘とともに開発者らを激励」と伝えています。李教授はこの写真を公開した目的を、「核開発が国や子供たちの未来をつくっていくというメッセージ」「タイ王室を参考にロイヤルファミリー感を演出している」とみています。
【李教授】
「核開発は未来世代の安全を保障すると印象付けたのだと思います。国の未来をつくるためだというメッセージがあるのだと思います。また金正日総書記の時代に、北朝鮮の官僚たちに『タイ王室を研究しろ』という命令が出されたという記録があります。金一族は力で権力の座に至ったので、金正恩の代になると、理由付けが難しいんです。『白頭血統』、つまり『血統がいいから』と言うんだけど、弱いです。ですからその血統をロイヤルファミリーとして、タイ王室のような制度をつくったら、金一族はこれから、王室のような権威と実権を合わせて持つようになる。そんな存在にしようとしてるんじゃないかと思います」
【関西テレビ 神崎デスク】
「タイの場合は、2016年に死去した、プミポン前国王が国民からとても信頼されていました。例えば軍事クーデターが起きて政治が混乱したときでも、当時のプミポン国王が出てくれば国が収まる、プミポン国王が出てきたらなんでも解決してしまうというくらい尊敬されていた。プミポン前国王の娘であるシリントーン王女も、プミポン前国王に次ぐくらい国民の信頼を得ていました。実際には息子のワチラロンコン氏が国王になって王位を継いだんですけど、タイ国民の間では『シリントーン王女が王位を継ぐべきではないか』という話があったぐらい、プミポン前国王とシリントーン王女は国民から信頼されていました」
■金正恩総書記の後継者は
金正恩総書記は娘と共に写った写真を公開することで、家族として世襲の正当性を高めていこうとしていると考えられます。ではこの娘が後継者なのかというと、李教授は「本命が別にいる」とみています。
金正恩総書記と李雪主夫人の間には、第1子(長男・12歳前後)、第2子のジュエ氏(長女・9歳前後)、第3子(性別不明・5歳前後)と、子供が3人いるとされています。
李教授は後継者の本命を長男とみていますが、まだ表には出さないだろうという見解です。その理由として、金正恩氏は若く後継者を考える必要がないということと、長男の“神秘的なイメージ”の演出を挙げます。
【李教授】
「後継者を今出すと、金正恩総書記の権威は間違いなく低下します。金正恩総書記がまだ若い今、後継者を示すと、いろんなことを考えさせるんです。健康状態が良くないんじゃないか、とか。それから権力というのは、分散すると内部がガタガタしてしまうんです。本当に必要なときに後継者は出すものですし、今これを出すのは、権力にとって良いことではない。ただ、『ロイヤルファミリーは特別なんだ』という権威付けは今からしておいて、息子も何の理由もなく、『金正恩総書記の息子だから権力を引き継いでいくんだ』という準備をしているんじゃないでしょうか。世襲を当たり前にするという」
【李教授】
「北朝鮮式で言えば、革命は代々受け継いでいきます。今回娘を出したのは、娘の目線で祖国、金正恩総書記が成し遂げたことの偉大さを見せる目的だったと思います。長男は帝王学を学んでいることは間違いないようで、2019年4月に北朝鮮の外交官4名がモスクワ郊外に行って白馬を12頭買ったのですが、彼らの説明では、金正恩総書記の息子のためだとはっきり言っている。これは情報当局がキャッチした情報です。ですからすでに、馬に乗るような息子がいる。金正恩総書記は11歳ぐらいから馬に乗っていましたし、帝王学を学ばせている状況かと」
■核実験は
11月29日は、北朝鮮が「核武力の完成」を宣言してから5年の節目ということもあり、核実験を行うのではないかと警戒されていました。李先生は「核実験だけでなく、ICBM(大陸間弾道ミサイル)などの通常軌道の発射実験に警戒が必要」だと注意を促します。
【李教授】
「先日の発射は『ロフテッド軌道』といって、高く打ち上げるものでした。通常角度で撃つには大気圏へ再突入しなければならないんですが、それは角度が少し違うだけではねられるんです。それと7000度以上の高熱を出すので、その辺りの証明は北朝鮮はまだ見せていない。課題はたくさん残っているんです。だから逆に今回は、5年の節目に“本当に成功したように見せる”ために、大げさにやっているような気もします」
(関西テレビ「報道ランナー」2022年11月29日放送)