“電撃性紫斑病”の女性義足ランナーがホノルルマラソン駆け抜ける! 両足と両手指を失った母と伴走する娘2人 サポーターに囲まれ「栄光の金メダル」 2022年12月12日
新型コロナの水際対策が緩和される中、今年で50回目を迎えたハワイ・ホノルルマラソンに、日本から5400人を超えるエントリーがありました。
にぎわいを見せる現地の様子を取材しました。
■ハワイに日本人観光客の姿続々
日本時間の12月12日未明に開催された、ハワイのホノルルマラソン。記念すべき50回目を迎え、ホノルルの街はランナーたちの姿で埋め尽くされていました。
【親子連れの参加者】
「(Q:なぜお子さんと一緒に?)走るのが好きなので、置いていけないので一緒に走ります」
【参加した新婚夫婦】
「おととい結婚式を挙げました!(Q:挙式後早速マラソンですか?)早速です!がんばりまーす!」
新型コロナの水際対策が緩和され、日本からのエントリーは5400人を超えました。JTBが公表した年末年始の旅行動向の調査でも、ハワイは人気海外旅行先の第1位に。
街にも日本人観光客の姿が戻ってきています。
【観光客】
「(マスクのない生活は)超快適です」
――Q:円安ドル高って感じますか?
「観光だからお金はあんまり考えてなくて」
「お金はかけるときにはかけないと」
■義足のマラソンランナー
ショッピングモールで出会ったのは、ホノルルマラソンを走るため、娘2人と熊本県からやってきた横田久世さん(45)。その足は義足です。
久世さんは5年前、病気で両足と両手の指を失いました。久世さんを襲ったのは、細菌によって手足や末端が壊死(えし)する「電撃性紫斑病」という感染症でした。
【横田久世さん】
「私の指は折れ曲がっていて真っ黒だった。分かるんですよ。それたぶん動かないと思うって」
久世さんは治療のために、両足と両手の指の切断を余儀なくされました。
【久世さん】
「上の子はもうワーって泣いて、下の子は放心状態…。(痛みに)耐えられなくなって、医師に暴言を吐いてしまう、『どうして私を助けたの!』『この体でどうやって生きていけばいいの!』ってめちゃめちゃ泣いて。でもあれを吐けたから、スタートできたのかなってのはあります」
40歳にして始まった義足生活。当初は苦労したものの意外と走れることに気づき、始めたのがマラソンでした。
【久世さん】
「たくさんの人に支えられたんです、病気してから。一気に『私元気だよ!』って言えるのって何かと考えていたんです、そうしたら、そこに熊本城マラソンの申し込みがあったから」
地元でのマラソンは完走できなかったものの、そのとき出会った仲間から制限時間がないホノルルマラソンを勧められ、今回、挑戦を決断。
クラウドファンディングで呼び掛けると、多くの人が賛同してくれました。
【久世さん】
「ここ(脚の幅)が決まってるから、大きくなると痛くて、揉んだりしないと入らない。歩けるけど、ずっと止まっておけない、バネだから」
今回、久世さんを隣で支えるのは、2人の娘です。
【長女・花奈さん(17)】
「ワクワクが大きいけど、走れるかな…って」
長女の花奈(はな)さんは当初、見た目が大きく変わってしまった母を受け入れられなかったといいます。
【花奈さん】
「(母を)自分の友だちに見られるのがすごい嫌で。何言われるか分かんなくて怖くて、ずっと母を避けたりとか…そういう悲しいことを母にたくさんやってたんですけど、やっぱ、どんどん母の頑張りとか見てるし。なんか勇気もらってて、自然とそういう気持ちはなくなっていったかなって思います」
間もなく成人を迎える花奈さんに、久世さんは挑戦する母の姿を見せたいと考えていました。
【久世さん】
「(娘たちに)こういう世界を経験して、いい大人に、いい女性に育ってほしいなって。私としては最後の役目だと思って背中を見せたい」
そして迎えた本番。スタート直前まで、久世さんは義足の感触を入念に確かめていました。
【久世さん】
「楽しみでしかない。いい感じです」
とびっきりの笑顔で手を振り、スタートした久世さん。横には娘の花奈さんと、青空(そら)さん(15)の姿もあります。
当初は軽快な走りを見せた久世さんですが、スタートから3時間、14キロ地点で苦しい表情を見せ始めました。
【久世さん】
「ちょっと待ってください。大丈夫です、まだ。気力は…体力と。大丈夫、まだ全然余裕」
強い向かい風と坂道に苦しめられたものの、下り坂を利用して、久世さんは再び力強く走り出します。
ホノルルマラソンは雄大な景色だけでなく、和太鼓の演奏など、沿道からの声援もランナーたちを勇気づけてくれます。
スタートから6時間が経過し、ランナーたちが続々とゴールし始めました。
【2日前に挙式した夫婦】
「みんながお祝いしてくれるのですごく楽しめました」
――Q:2人の絆も深まった?
「奥さんがゴールに導いてくれたので、付いていきたいと思います」
一方の久世さんは、ゴール間近の40キロ時点で、脚の痛みを訴えました。
【サポーター】
「得意の下りだ!大丈夫大丈夫!」
「できるできる」
サポーターのマッサージを受けて、再び走り出した久世さん。
そして、スタートから10時間42分。沿道の人々に応援され、いつしか膨れ上がった伴走者とともに、ゴールへ飛び込みました。
【久世さん】
「途中何回も諦めようとしたんだけど、サポートが素晴らしくてゴールすることができました。生きてて良かった」
【長女・花奈さん】
「めっちゃきつかったけど、最後は痛み忘れるくらい感動して…」
【久世さん】
「終わったね~。これいつ終わるんだろうって思いながら。終わった無事に…」
発病から5年、義足をつけて挑んだ大舞台。見事、完走を遂げた久世さんの胸には、金メダルが輝いていました。
(関西テレビ「報道ランナー」2022年12月12日放送)