外国人も174人が犠牲となった大震災…あの時、外国ルーツの被災者は「困っていた」 8カ国語で災害情報「FMわぃわぃ」誕生から28年そして“現在” 【阪神・淡路大震災から28年】 2023年01月18日
1月17日で阪神淡路大震災から28年です。当時、被災者の中には、海外にルーツを持つ人たちも大勢いました。言語や文化の壁を感じた、あの日の経験を糧に、誰も取り残されない「防災」を目指す人たちを取材しました。
神戸市長田区の鷹取。28年前、全く違う光景が広がっていました。
【当時、被災した李玉順さん(74)】
「この辺りはもう焼失しましたのでほとんどがね、火災によって。だから本当に被害がひどい地域の一部でもありましたね、ほとんどが焼けましたから」
阪神淡路大震災では6434人もの人が命を落とし、そのうち174人は外国人でした。李玉順(り・おくすん)さん(74)も長田区で被災した1人です。
【李玉順さん】
「眠りから覚めるか、覚めないかというような状態で、大きな突き上げるような感じと音で目が覚めた次第ですけど、最初は何が起きたのか認識はできず…。外に出ると景色が丸ごと違っていまして、2階建ての家が全て倒れてしまっていて、影も形もないんですよね」
避難所へと急いだ在日コリアンである李さん。ある記憶が頭をよぎりました。関東大震災では、「朝鮮人などが井戸に毒を入れた」というデマが流れ、多くの在日コリアンが虐殺されたのです。 李さんは、アイデンティティを隠すことにしました。
【李玉順さん】
「どこどこの国の人間が盗みをやっているとか、暴行して回っているとか、本当にいわれのない噂だったんですけど、そういったことが流れてくるにしたがって、通称名に変えようと発作的に。友達が訪ねてきても、通称名で掲げていますから、李玉順というのがいないと、あちらこちらを探し回って、しなくてもいい苦労をしてしまったなんて、あとで怒られました」
外国ルーツであるが故の不安を抱える人を助けたいという思いから参加したのが、ラジオ局「FMわぃわぃ」でした。
「FMわぃわぃ」は、震災でほぼ全焼したカトリック鷹取教会で始まりました。
被災した外国ルーツの人のニーズに応えようと、李さんたちは8カ国語で、災害情報などを地域の人に向けて発信しました。
【当時の放送の様子】
「こちらはFMわぃわぃです。神戸市長田区鷹取教会の敷地内に設置されましたスタジオから・・・」
【李玉順さん】
「最初は単純にどこどこに何々の配布がありますよとか、炊き出しをやってますよとか、生活必需品、そういうことに特化するような、放送を始めたんですよ。こぼれていってしまった人たちが多かったわけですよね、言葉がわからないだけに。その当時のそういう放送は日本語だけでしたので、日本のメディアは。及ばないところを拾うようなかたちで必然性を感じて始めました」
「FMわぃわぃ」は当時、仮設住宅で始まりましたが、その後、新しい建物に作り替えられました。
【李玉順さん】
「懐かしいですね、風が吹いたら飛びそうな建物でした。10年もちましたけど。こじんまりしてて、でも居心地良かったです」
震災から28年。同じ場所で、同じ志で、働く人がいます。
【大城ロクサナさん(54)】
「冬にもう一つ気を付けなければならないのは、路面凍結です。路面が凍ってしまうことです」(*スペイン語)
日系ペルー人の大城ロクサナさん(54)。「FMわぃわぃ」のスタジオで、スペイン語と日本語で防災情報を発信しています。1991年に、祖父の故郷に住んでみたいと来日。まだ日本語が不自由なときに、震災に遭いました。
【大城ロクサナさん】
「アナウンスが聞こえたけど、でも何を言ってるかわからない。ただ『つなみ』という言葉は、私たち南米の人でも知ってるんですね。津波が来ると思って逃げないといけない。でもどこに逃げればいいのか。地震の経験は自分の国でもなかったし、避難場所とか、避難会場も知らなかったので、本当に全くわからない状態」
迷う中、近くにいた男性に案内してもらったのが、鷹取中学校の避難所でした。
【大城ロクサナさん】
「あそこで配ってたもの、お弁当や物資、取りに行かない。自分たちはゲストだから、自分たちの分があるかどうかが分からなかったんです。そこにみんなと一緒にいるだけで、ちょっと安心。なので迷惑をかけたくなかった。私たちはあんまり『頂戴頂戴』って言いに行ったら、『あなたの分じゃない』とか、追い出されるかもしれない。そうならないように、できるだけ我慢して」
震災で仕事はなくなり、ペルーに帰るお金もありませんでした。神戸に残らざるを得なかったロクサナさんが出会ったのが「FMわぃわぃ」でした。
この20年、災害時に自分と同じ経験をしてほしくないと、
「FMわぃわぃ」や情報誌の発行を通して、スペイン語での防災教育に力を入れてきました。
【大城ロクサナさん】
「『テレモト』は地震。『ツナミ』は津波。テレビに出るときに、漢字で出るから、横に漢字をつけてる。緊急箱、持って行くものを用意した方がいいとか。家族で話し合いをして、避難場所とか、どの道で逃げていくとか。毎日使っているカレンダーを見ながら、これがあったら役に立つかなと思って」
2022年末、ロクサナさんたちは神戸市でクリスマスのイベントを開きました。
楽しく盛り上がるなかロクサナさんが始めたのは、なんと防災教育。「カエルと台風」と題した紙芝居を通して、スペイン語と日本語で台風について話します…
【紙芝居(ロクサナさんと学生が会話)】
学生とロクサナさん「山と川が近くていつでも遊びに行けるんだ」
ロクサナ「あれ、テレビで台風が近づいてきたと言ってるよ…カエルさんは外に出ていいですか?」
(見ていた子どもたち「ダメ―」)
学生「テレビを見ると警報というのが出てるみたい」
ロクサナさん「ここで警報と注意報について勉強しましょう!紫よりももっと危ないのは黒色、黒色はもう災害が起きてますよということです」
学生とロクサナさん「ムーチャス・グラシアス(ありがとうございます)」
紙芝居が終わり、ロクサナさんたちに拍手が送られました。
【大城ロクサナさん】
「日本語とスペイン語でするのがとても大事です。こういう機会があれば、家で、家族で防災に関して話せる基盤が作れるんですね」
ロクサナさんはあの時、神戸に残って良かったと話します。
【大城ロクサナさん】
「神戸の人がみんな頑張っている姿を見て、私たちも残って頑張っていこうと、気持ちが変わって。結局、頑張ることにしたんです。…でもそうしてよかった。(ペルーに)帰れなくてよかったなと思う。そのときに帰っていたら、もう多分ずっと向こう。そのときに帰らなかったから、今“ここまで”歩いてこれたと思うんです」
日本には、296万人の外国人が住んでいます。誰一人取り残されず、孤立せず。お互いを想い合える社会が必要とされています。
(関西テレビ「報道ランナー」1月13日放送)