お寺が始めた“幸せのおすそ分け” お供えものをひとり親家庭へ 「おてらおやつクラブ」 顔が分からなくても…つながる優しい気持ち 2023年03月01日
奈良県・田原本町にある「安養寺」。江戸時代から地域に愛されてきた、浄土宗のお寺です。そんな歴史あるお寺が始めた、幸せをおすそ分けする取り組みとは・・・?
■飽食の時代に…衝撃的な事件がきっかけ お寺が始めた“幸せのおすそ分け”
ある日曜日の朝、お寺では何やら力仕事が始まりました。箱から取り出された大量の食べ物が本堂にずらっと並べられます。お米にレトルト食品、たくさんのお菓子。
これらは、お寺に寄せられた大切な「お供えもの」です。意外なことにお寺にとっては、この「お供えもの」が悩みの種でもあったといいます。
【安養寺 松島靖朗 住職】
「おやつ、お米、お野菜なんかがまあ、たくさんいろんな人たちから寄せられてくる。お供え物は、仏さまに召し上がっていただけないので、私たちお寺で生活するものが、食事やおやつで頂いたりするんですけど。お寺にたくさんあって食べ切れない。常にそのおすそ分けを先を探しているという日常がありましたので」
そんな松島さんは、今から10年前、ある衝撃的な事件を目にします。
2013年5月、大阪市北区のマンションで母親と3歳の息子が死後数カ月経って見つかりました。部屋には食べ物がほとんどなく、こう書かれたメモが残されていたといいます。
「最後におなかいっぱい食べさせてあげたかった、ごめんね」
【安養寺 松島靖朗 住職】
「この飽食の時代に、またフードロス対策が言われる時代に、食べるものがなく、尊い命が失われてしまうということに、本当にショックを受けまして。まあ二度とその悲劇を繰り返さないために、お寺の食べるもの、おやつを子供たちに届けたい、そんなふうに思うようになりました」
そして松島さんが立ち上げたのが『おてらおやつクラブ』。「お供えもの」をお寺が“おさがり”として、ひとり親家庭などに「おすそわけ」する仕組みです。
最初は松島さんが一人で始めましたが、いまでは全国1800のお寺が参加し、企業などからのものを含めた多くの寄付により毎月2万5千人の子供たちを支えています。
■立ち上げた「おてらおやつクラブ」 お供えものをひとり親家庭に“おすそ分け”
運営を担うのはたくさんのボランティアの人たち。この日は、大学で仏教を学ぶ学生たちが集まっていました。
お供えものは箱詰めにして各家庭に送られます。まずはお米から段ボールに入れていきます。
【おてらおやつクラブ事務局 後藤有香さん】
「ここからはね、パズルなんですよ」
【ボランティアの学生】
「テトリスですね」
【おてらおやつクラブ事務局 後藤有香さん】
「そう、なんです。なるべくちょっとでも多く、いろんなものを入れることができるようにということで」
段ボールに入っているシャンプーを見つけました。
–Q:それはどちらから?
【おてらおやつクラブ事務局 後藤有香さん】
「これはユニリーバさんからですね。イラストの入ってるものを子供さんたちが喜んでくださるだろうっていうので、選んでくださって。今回はアラジンです」
また、お菓子の袋に日付を書いているボランティアの学生がいました。
【ボランティアの学生】
「個包装で書かれてないお菓子の袋に賞味期限書いていっています。届いた時に(一目で賞味期限が)分かった方がいいので」
それらを最後の最後まで隙間に詰め込んで、これで完成!…ではありません。
【おてらおやつクラブ事務局 後藤有香さん】
「皆さんにもぜひ手紙、直筆で書いてもらおうかと思います」
■顔の見えない誰かに思いはせ…直筆の手紙を “人の存在や温もり”感じて
【安養寺 松島靖朗 住職】
「単純に物が届くということだけではなく、必ず手書きのメッセージを添えることで、そこには人々が思いを寄せているということや、“人の存在・温もり”を感じてもらうことを大事にしています」
–Q:結構、言葉選びますか?
【ボランティアの学生】
「そうですね、どう思うか分からないんで。相手がどういう人か分からないので」
–Q:いろいろ想像しながら?
【ボランティアの学生】
「そうですね、難しいですね」
おすそ分けを受け取る“顔の見えない誰か”に思いをはせながら、それぞれの言葉を紡ぎます。
■おすそ分けが届けられた家庭は? 顔が見えなくても…つながる優しい気持ち
おすそ分けを受け取ったことのある方に、会いに行きました。
堤田恵介さん(37)と、小学3年の葉月ちゃんです。仕事終わりで学童保育のお迎えに間に合わない堤田さん。葉月ちゃんはいつも、お隣さんが預かってくれています。
堤田さんは、シングルファーザーです。2年半前の2020年8月に当時30歳の妻・紫苑さんを病気で突然亡くしました。
【堤田恵介さん】
「(妻が)亡くなった当初、もう泣き崩れていたので…。毎日のようにそれを見ていたら、逆に娘は嫁が亡くなったときは全く泣かなかったんですよ。『パパが泣いてたから私は泣かん』って、すごい気を遣わせていたんですよ。当時小学一年生ですよ」
妻が亡くなって、しばらく経ってから、堤田さんはおてらおやつクラブを利用しました。その時の気持ちは、今も鮮明に覚えています。
【堤田恵介さん】
「送ってくれた方の顔は分からないけれど、こうやって『頑張ってね』みたいな感じで、応援してくれているっていうのは素直にありがたいというか。一番感じたのは、やっぱり自分の娘がね、『わー!』っていう、その喜んでくれた笑顔がやっぱ僕的には、こう『おお』ってなったのがあって」
堤田さん、夕食の準備をしています。
–Q:今日のメニューは?
【堤田恵介さん】
「親子丼ですね」
–Q:得意ですか?
【堤田恵介さん】
「嫁が亡くなった当初、『ママのハンバーグがおいしかった』とか、よくそういう言葉を聞いていたんですけど、まあ作れないんで。将来、結婚式とかで『お父さんがいつも頑張って親子丼作ってくれた』みたいなエピソードしゃべってくれるといいな」
こんな親子に寄り添う「おてらおやつクラブ」。顔が見えなくても、誰かと優しい気持ちでつながっています。
(2023年2月27日放送)