【解説】iPS細胞からできた"心筋シート" 張り付けるだけで心不全の治療が可能に!? 万博での展示が期待される「心筋シート」が患者を救う驚きの仕組み 心臓外科の第一人者が心臓治療の現在地を解説 2023年04月12日
■ iPS細胞でつくる“動く心臓”
「いのち輝く未来社会のデザイン」がテーマとなる大阪・関西万博の開催まで、まもなく2年です。
命がテーマの万博会場で、私たちはどんな光景を目にすることになるのか、万博会場に集結する予定の最新技術を取材しました。
心臓外科の第一人者、大阪大学の澤芳樹特任教授が研究を進めるのが、「心筋細胞シート」です。
数百万もの心筋細胞でつくられていて、心臓と同じように、ドクドクと鼓動しています。
このシートを作るのに欠かせないのが、iPS細胞です。
さまざまな組織や臓器の細胞に分化することができるiPS細胞を培養液に浸し、特定の条件でかき混ぜることで、大量の心筋細胞をつくっています。
【大阪大学大学院 医学系研究科 澤芳樹特任教授】
「羽根が回ってますよね。かき混ぜ方とかスピードにもノウハウがある。温度管理、酸素、栄養管理、かなり難しい。誰でもかき混ぜて、『はい(できた)』ってわけにはいかない」
iPS細胞由来の心筋シートを重い心臓病患者の心臓に貼り付け、機能回復をはかる治験はすでに8例実施済みで、いずれの患者も経過は順調とのこと。2年後までに実用化を目指しています。
【大阪大学大学院 医学系研究科 澤芳樹特任教授】
「世界にない技術なので。この治療で世界の人の病気が治る手ごたえを大体確認できている」
■ 心筋シートが目指すのは「心臓病で死なない世界」
【大阪大学大学院 医学系研究科 澤芳樹特任教授】
「赤い培養液に入っているのが、心筋シートです。心臓の細胞をiPS細胞で作って、体の中と同じメカニズムで拍動するように作りました。透明のケースに入れてシートを搬送して、手術で心臓に張り付けます。治験で8人の患者に治療をしていて、順調に回復して社会復帰もされています」
-Q:心筋の動きが悪い方に使うのですか?
「心不全を抱えている人に使います。特に虚血性心筋症になると、最後は心臓移植や人工心臓になります。心臓移植はドナーが少ないというのもあり、これらの治療に至るまでに治したいという思いがあります」
この心筋シートは万博の目玉展示になると考えられていて、心臓の模型に張り付けて、鼓動する心臓を展示することが計画されています。
【大阪大学大学院 医学系研究科 澤芳樹特任教授】
「拍動している心臓を見てもらいたいです。心臓の形にして展示できるように頑張っています」
■ 心筋シートは医療でどう活用?
心筋シートは、始めにiPS細胞を作製し、心筋細胞に変化させます。その心筋細胞をシート状にし、患者の心臓に張るという流れで活用されます。
-Q:このシートを作るのに、どれぐらいの時間がかかるんですか?
【大阪大学大学院 医学系研究科 澤芳樹特任教授】
「iPS細胞から心筋細胞に変化させるまでは、安全性や効果を見るために2・3カ月かかります。ただ、一度細胞ができると3日ぐらいでシートが出来上がります。患者や手術日が決まればシートを作るのですが、専用のケースに入れたら72時間以内であれば持ち運ぶことができるため、世界中の方が使うことができます」
-Q:重い心不全患者などをどういう仕組みで救うのでしょうか?
「心筋細胞からいろいろな因子(物質)が分泌されます。その因子の中には血管を作ったり心筋細胞を元気にするものがあり、分泌した因子を受けて心臓の機能全体が元気になります」
「張り付けると、心臓に15分以内にくっついて、数時間で血管がつながります。そこから因子をたくさん出し、およそ3カ月ぐらいで良くなります」
-Q:いつぐらいから使えるのですか?
「承認を得るための治験は終わっていて、データをまとめて厚労省で審査してもらう予定です。だいたい1年から1年半以内の承認を目指しています」
-Q:2025年の万博前後には商品化されている可能性はあるのですか?
【大阪大学大学院 医学系研究科 澤芳樹特任教授】
「その可能性が高いと考えています」
さらに、この心筋シートが画期的な理由に心臓移植に比べて、「治療費を抑えられる」「患者を待たせない」という点があるということです。
「治療費は数千万から数億の治療が、1回2000~3000万円で済むようになりますね」
-Q子供でも大丈夫なのですか・?
「今は大人を対象としていますが、これからは子供にも使うことができます。効果も大いにあると思います。手術の傷が小さく、心臓を止める必要もないところに”みそ”があります。手術の予定が決まればいつでも使えるよう、準備しています。心臓移植は今は5年待ちになっているので」
-Q:心筋シートがいずれは心臓そのものになる可能性は?
【大阪大学大学院 医学系研究科 澤芳樹特任教授】
「私はあると思います。ただ、まだいくつかの乗り越えるべき技術や新しい研究開発があります。今は心臓の形に構築するために3Dプリンターを使うなどしていますが、個人的には50年以内には、心臓そのものになっていければと考えています」
-Q:心筋シートが活用されるようになると、どんな未来が待っているんでしょうか?
「心臓病では死なない世界を目指します。今の手ごたえでは、早めの早めにこの治療をすれば、治験を受けた8人は元気になっているので、心臓病では死なせないことが期待できると思っています」
「万博のテーマ『いのち輝く未来社会のデザイン』を体験出来る万博になってほしいですし、私たちの心筋シートや治験の結果を見ていただいて、そういう社会が来ると期待してもらいたいですね」
(2023年4月12日 関西テレビ「newsランナー」放送)