【専門家解説】首相襲撃は「事件は起きるべくして起こった」 映像から分析する警備の「穴」と「怖さ」 "見せる警備"も不十分 抑止力にならなかったか 2023年04月17日
この事件について、テロ対策に詳しい日本大学危機管理学部の福田充教授に話を聞きました。
―Q:今回の襲撃事件、どうご覧になりましたか?
【日本大学危機管理学部・福田充教授】
「安倍元首相の銃撃事件の後に、警察庁など警護や警備計画を改善すると発表されましたが、見る限り統一地方選挙では改善されていないですね。起きるべくして起こった事件かなと思います」
■ 映像から分析する「警護の穴と怖さ」
こちらは映像から推測した警護体制です。
事件当時、聴衆は200人ほどで、木村容疑者は真ん中あたりにいました。
岸田首相が演説を始める直前、木村容疑者と首相との距離はおよそ10メートル。SPがいるにもかかわらず、事件は起こりました。
福田さんは、一番警護がグレーになる状況だったと指摘しています。
福田さんによりますと、警護には3つのパターンがあるそうです。
屋内の場合は会場に入る際に「手荷物検査」を行い、会場が屋外の場合は選挙カーに乗るなどして高さと距離をとって警護します。
しかし今回は、会場に自由に出入りができて、首相と聴衆との距離も近い状況でした。
―Q:福田さん、これが指摘されている「グレーな状況」なんですね?
【福田充教授】
「これまでの選挙でも屋内パターンの警護であれば、受付で名前や住所を書くことで、事件を起こしにくかった。さらに手荷物検査とかができればベストですが。また、屋外パターンの警護もこれまでやっていた方法なんです。どちらかで徹底できていればこんな事件が起きなかった。今回は屋内でも屋外でもないグレーな状況で、会場に入る時の規制もできていませんし、手荷物検査もできていない。一方で屋外警護のように高さと距離を置けていない。どちらもできていないという意味では警護計画は不完全で問題があったと思います」
■ 周辺警護の実態は
岸田首相を乗せたとみられる車両が通り過ぎた後、木村容疑者が現れます。
警護に当たっているとみられる男性の後ろを通り抜けていきますが、男性が不審に思う様子はありません。
会場から150メートル離れた場所で、警護とみられる男性は容疑者をチェックしていません。
福田さんは、「通常首相官邸周辺などではすぐに職質をするが、地方遊説のルール上は特に職質をする必要はない。だからこそ、狙われる」と指摘します。
―Q:ここで容疑者を食い止めるのは難しいでしょうか。
【福田充教授】
「警備の体制がしっかりしていれば、本当に怪しいかを見抜く能力はあると思います。ただ150メートル離れると一般住民も住んでいる。突発的な場面では、このような場所が穴になって狙われやすくなります」
―Q:警備の人は車を見ていますが、どこに注意を払っているのですか?
「車が安全に通っているかしか見ていません。真後ろを歩いている人には全く注意が払われていません。爆弾を持っていて、すぐに爆破するものであればここでも狙えたわけです」
■ 「制服警官」の姿は?
岸田首相が演説をする直前の映像には、岸田首相にむかって歩いていく木村容疑者の様子が映っています。
岸田首相の周辺以外には、制服を着ているような警察官らしき人がいないように見えます。
会場には、「警察の制服」を着ている人があまり目立っていない状況でした。
福田さんは、「“見せる警備”は重要。『警備が厳しいからやめておこう』という抑止力が働くが、今回は少なかった」と指摘します。
【福田充教授】
「(会場に)いろんなところから入れるのが問題。動線を入り口1カ所にして、そこに2人警察官を置くだけでも、爆弾を持っていたら入れないですよね。要所要所に警察官を置いて、見せる警備をすることで爆弾を投げるのは難しいなと抑止させるのが効果的だと思います」
(2023年4月17日 関西テレビ「newsランナー」放送)