知られざる「MTBI」 誰にでも起こり得る“見えない脳損傷” CTやMRI画像で見つけられず 医師から「気のせい」 仕事や生活ままならず補償求めた裁判の判決は? 2023年04月21日
誰にでも起こり得る「脳の損傷」に苦しむ男性がいます。交通事故をきっかけに記憶力の低下などで仕事や生活がままならなくなった男性が、国に「正当な補償をしてほしい」と訴えた裁判。訴えは認められるのでしょうか。
■誰にでも起こり得る“見えない脳損傷” 「MTBI」とは?
右半身に運動まひがある加藤厚さん(仮名)。
–Q:歩くのは大変ですか?
【加藤厚さん(仮名)】
「だいぶ怖いです。まだ平坦なので大丈夫なんですけど。階段とかになってくるとだいぶ怖いですね」
加藤さんは14年前、バイクで通勤していた際に、車と衝突し、頭の骨などを折る重傷を負いました。その後、強い倦怠感や排尿障害、記憶力の低下など、様々な症状が現れ、仕事を続けることができなくなりました。
病院を転々としましたが、医者からは「気のせいだ」とまで言われ、原因はなかなか分かりませんでした。
【加藤厚さん(仮名)】
「最初はMRIとか撮っていたんですけど『目立った外傷もないから脳は大丈夫』と」
しかし、事故から3年たって専門医と出会い、そこで初めて診断されたのが「MTBI=軽度外傷性脳損傷」でした。
「MTBI」とは交通事故やスポーツの事故、人からの暴力などで頭を打った時に受ける脳の損傷のことで、後になって感覚障害などの重い症状が出ることがあります。
CTやMRIの画像には損傷箇所が映らずに見逃されることも多く、潜在的な患者が国内に数十万人いると推定されています。
【なやクリニック 納谷敦夫医師】
(–Q: MTBIと認められるのも難しい?)
「難しいですね。諦めている人が多いですね、医者が『画像に出ていないからダメ』と門前払いというところが多い」
■仕事も生活もままならないのに 補償求めるも認められず
加藤さんは脳の損傷についても労災認定を求めましたが、労働基準監督署が認定しなかったためその判断の取り消しを求めて裁判を起こしました。(※脳損傷に起因しない後遺障害は労災認定されている)
【加藤厚さん(仮名)】
「こういう傷病名がついてこれだけの障害が残っていて、これだけの医学的なデータの蓄積があって、それはやっぱり(労災を)認めてくれるべきだと思うんです」
提訴からおよそ6年たって迎えた、きょう4月21日の判決。神戸地方裁判所は「事故の後、30分以内に意識喪失があったとは認められず、MTBIと判断する世界保健機関の認定要件を満たしていない」と指摘しました。
その上で「原告が主張する症状は、脳とは異なる部位の損傷や心理的な問題によって生ずることがある」として、加藤さん(仮名)の訴えを棄却しました。
【加藤厚さん(仮名)会見】
「結果が結果なので、何をどう言っていいのか分からない状況が素直な気持ちです。今回の判決にはすごく憤りを感じますし、僕がこの症状を作り上げてあたかも症状を出しているというのならそれは大きな間違いで、心因性という意味でひとくくりにされていると正直たまったものではない」
改めて、証明することの難しさが浮き彫りとなったMTBI。加藤さん(仮名)は、今後控訴することも検討するということです。
(2023年4月21日放送)