古都京都の美しい景観を守るためのルール、建物の「高さ規制」が、25日から緩和されました。不動産価格の高騰などで、人口流出が続く京都の住宅事情はどう変わるのか。京都府外にマイホームを購入した夫婦の取材から、課題を探りました。
■世界中の富裕層からの需要で価格上昇続く“京都のマンション”
京都の四条河原町にある高級マンション。10階のこの部屋は、100平米あり、目の前に鴨川や清水寺を臨む抜群の立地で、その価格はなんと…
【鳥居設計工房一級建築士事務所営業部 新井大祐部長】
「2億1000万円でございます(諸経費除く)」
“2億円超え”ですが、投資や別荘目的の問い合わせが後を絶たないそうです。
【鳥居設計工房一級建築士事務所 営業部 新井大祐部長】
「7~8年前に、京都が世界の観光地ランキングで1位になった。そこから外国需要がどんどん増えて、東京オリンピックが来て、コロナが来て、値段が下がるかと思われたんですが、それでも上がり続けた。購入した時より高く売れるというのが、京都の中心部の、ものすごい利点だと思います」
世界中の富裕層から需要がある京都のマンション。しかし、この状況に京都市は頭を悩ませています。
京都は都市の中心部に様々な文化遺産が点在していることから、景観を守るために建物の「高さ規制」を設けています。そのため高層マンションを建てることができず、住宅の数が限られ、さらに富裕層の需要も重なって価格がつり上がっているのです。
■不動産高騰で「人口流出」「税収の減少」が問題に
その結果、起きているのが「市外への人口流出」、それによる「税収の減少」という問題です。2020年、2021年には「人口が減った都市 全国ナンバーワン」という不名誉な称号を獲得する事態に。
特に、20代後半から30代の子育て世帯が、周辺の府県へ引っ越してしまうことが痛手となっています。
京都市山科区の賃貸マンションに住んでいたこの夫婦も、マイホーム購入を機に、京都市を離れることに決めました。
【夫・湧希さん(29)】
「京都市内も憧れがあったんですけれど、(京都市内は)5000万円超える。それで日当たりがよくなかったり、天井が低かったり」
(Q.“天井の低さ”は「高さ制限」を感じるポイントですか?)
「そうですね」
「高さ規制」がある中でも、できるだけ多く住居を確保しようとすると、必然的に天井は低くなるのが、京都市内のマンションの特徴です。本好きの湧希さんは、大きな本棚が置けず、窮屈に感じていたそうです。
「高さ規制」から逃れた先は滋賀県大津市。ここで大満足のマンションを購入しました。京都市内から車で10分強。向かった新居は、明るく広々とした空間が。2人で並んでも、すいすいと行き交えるキッチンや、収納スペースがしっかり備わっていることなども好ポイント。もっと大きな本棚を置く余裕も十分ありそうです。
【夫・湧希さん(29)】
「(京都・山科区より)1000万円ぐらいは安いんでしょうね。お手軽なんでしょうね。(京都市の)本当の街中と比べると、2000万円ぐらい違う。将来の子供の学費や留学に活かせるとか、そういうことに使えるのかなと思います」
大津市では次々と高層マンションが建設されていて、子育て世帯の注目を集めていますが、財政難を抱える京都市にとっては、何としても転出を阻止したいところ。この事態に決断を下しました。
【京都市 門川大作市長】
「一定の要件を満たしたマンション等については、高さ規制を31メートルに見直します」
4月25日から一部地域で建物の「高さ規制」緩和に踏み切ったのです。
京都駅南側の烏丸通り沿いでは、オフィスなどを対象に最高25メートルとされていたものを、31メートルまで緩和。住宅街になり得る山科区の外環状線沿いは、これまで31メートルだった上限が完全に撤廃されます。
この変化に期待を寄せるのは、京都市山科区で生まれ育った自治会長の岩崎さんです。
【京都市山科区 鏡山学区自治連合会 岩崎泰大会長】
「一番問題になっているのは、人口の減少。目に見えて人口が減っておると」
山科区も人口減少が懸念されている地域です。景観の悪化を心配して、規制撤廃に反対する意見もありますが、京都市の中心部や滋賀へのアクセスが良い山科区で開発が進めば、街の活気を取り戻すきっかけになるのではと話します。
【京都市山科区 鏡山学区自治連合会 岩崎泰大会長】
「若い所帯が住めば、またそこで少子化が少しでもましになってくる、人口が増える」「有名な神社仏閣も多いですから、十分に魅力ある街なんですけども、それ以上に人が増える、店舗も繁栄すると」
高さ規制の緩和で、若い世帯が住む住宅を増やし、価格高騰に歯止めをかけ、税収を増やしたい京都市の思惑。しかし、不動産業者の見方は少し違うようです。
【アムネッツ 吉田剛志課長】
「皆さん求められるところに物件が建てば、またさらに(値段が)上がっていくでしょうとしか思えない。“京都ブランド”で『京都の○○がしたいから』『京都独特のこれを求めて』と、こちらに住む方もいらっしゃるので」
「高さ規制」の緩和は、本当に京都市へ“子育て世帯”を呼び寄せることにつながるのでしょうか。
■専門家は「マンション価格は下がらない」「今一度京都の価値を見直し子育て層を戻す」と語る
京都の不動産事情に詳しい不動産コンサルタント、コミュニティ・ラボ代表の田中和彦さんによると、
【田中和彦さん】
「(高さ規制緩和によって)子育て世帯をある程度は呼び込めるのではないか。ただし“富裕層の子育て世帯”に限られる。高さ制限が緩和されたといっても、それほど安くなるわけではない。今まで通り富裕層しか住めない状況が、そんなに変わることはないと思います」
「住まいは増えますが、例えば高さ規制が20メートルから31メートルに変わる地域で、3~4層増えるだけで、それほど戸数が増えるわけではありません。多少は増えるぐらいにとどまると思います」
「マンション価格は、それほど下がるとは考えられない。地価はおそらく上がると思います。マンション業者は、その土地でどれぐらいの戸数を建てられるか計算して、土地を買います。高さ規制緩和は地価が上がる要素になります。地主さんは分かっていて、もう上がり基調になっています」
【田中和彦さん】
「子育て層が離れ、人口が減っているといっても、京都の魅力がなくなったからではありません。文化、歴史、大学、博物館などもたくさんある。その価値を見出されて価格が上がっている。今一度その価値を見直して、子育て層を戻すのがよいのでは。ただ住宅を安くするのとは違うかと思います」
京都の魅力を最大限生かした、きめ細かな街づくりが求められるのかもしれません。
(関西テレビ「newsランナー」2023年4月25日放送)