クレムリン“ドローン攻撃” ロシア自作自演の偽旗作戦、ウクライナ反転攻勢…どちらの可能性も 専門家「現状アメリカも分かっていないのでは。核使用の可能性は“低い”とみます」 2023年05月04日
5月3日、世界が驚くニュースがありました。ロシアはモスクワの中心で、ウクライナによるドローン攻撃を受け、プーチン大統領が狙われたと発表しました。ロシアの自作自演という分析もあり、情報が錯そうしています。今回の爆発の裏には一体何があったのでしょうか。
ロシア側が、ウクライナによるテロだと主張しているのに対し、ウクライナ側は「我々が攻撃することはない」と否定しています。
誰が攻撃したのか、今後どうなるのか、防衛省防衛研究所の高橋杉雄さんに聞きました。
映像を見ると、モスクワにあるクレムリンの丸い屋根に向かって、ドローンのような物が飛んできます。そして屋根の上すぐ近くで、炎が上がり、白い煙が立ち込めました。これについて、ロシア側は迎撃したと発表しています。
【防衛省防衛研究所 高橋杉雄さん】
「迎撃して、撃墜したようには見えません。迎撃したとするなら、機関銃なり、ロケットなりの光が見えるはずですが、それが全く見えません。
迎撃したというより、あらかじめ設定された場所に届いたので爆発した、ドローンの方で自爆したと見えます。自動的に爆発するようになっていたと思います。GPSか何かで、ある場所に着いたら爆発するようになっていて、そこで爆発したのではないかと。映像からはそう見えます」
屋根に2つの人影のようなものがありますが、これについては、どうご覧になりますか?
【防衛省防衛研究所 高橋杉雄さん】
「深夜にこういう所に行く人がどういう人なのかは分かりませんが、基本的に偶然なのではないかと思います。この人影から狙撃しているわけでもありませんし、むしろ避けているように見えますので、たまたま居合わせたのではないかと思います」
仮にウクライナ側のドローン攻撃だとして、大統領府があるクレムリンに、簡単に侵入できるものなのでしょうか?
【防衛省防衛研究所 高橋杉雄さん】
「中国の気球が少し前に話題になりましたが、すごく速度の遅い物体はレーダーに映らなかったりします。なのでウクライナから、低空を低速で飛んできて、クレムリンに当たることはあり得るかもしれません」
■クレムリン攻撃 ウクライナか、ロシアか いったい誰によるものなのか?
この攻撃は、ウクライナによるものか、ロシアによるものか、どちらがやったとみられますか?
【防衛省防衛研究所 高橋杉雄さん】
「現時点では両方可能性があると思います。ウクライナだとすれば、今準備している反攻作戦のための“破壊工作”。後方かく乱のための破壊工作ということが目的として考えられます。ウクライナからドローンでモスクワに到達できるものはあり、物理的には可能です。一方でロシアだとすると、何らかの目的を持った、自作自演の“偽旗作戦”の可能性はあると思います」
ロシアの自作自演の場合、
・ロシア国民の国威発揚
・5月9日の戦勝記念日に向け、さらなる動員令
こういったことを意図しているのではないかと、高橋さんは分析しています。
【防衛省防衛研究所 高橋杉雄さん】
「昨年9月に動員令をかけた時に、国内の反発がかなり大きかったので、追加動員をするなら、何かきっかけが必要です。クレムリンにおける爆発は、偽旗作戦にしても、ロシア自身にとって痛手になるものです。それだけのことをやるからには、何か“大きなこと”をするための前振りとしての偽旗作戦、自作自演ということでしょう。その大きなこととしては、数十万規模の動員をする可能性が考えられる、というかそれしか考えられません」
ウクライナの攻撃であった場合、
・反転攻勢の一環
・前線のロシア軍を手薄にさせるため
であると、高橋さんは分析しています。
今、ロシアの支配地域で、爆発事件が相次いで起きています。
・4月29日 クリミア半島で石油施設が炎上。ロシア側はウクライナによるドローン攻撃としています。
・5月1日と2日 ウクライナに隣接するロシア南西部のブリャンスク州で、線路上で爆発があり、貨物列車が脱線しました。
・3日 ロシア南部クラスノダール地方で、石油施設が炎上。ロシアメディアはウクライナによるドローン攻撃だと報道しています。
【防衛省防衛研究所 高橋杉雄さん】
「これらの破壊工作は、まず間違いなくウクライナの手によるものだと思います。後方をかく乱して、反撃作戦を有利に運ぼうというものです」
「クレムリンへの攻撃が、もしウクライナがやったのだとすれば、攻撃が成功したということで、ロシア側はクレムリンの防御を固めないといけなくなります。一部の防空施設などを、モスクワ周辺に配備しなければいけなくなる。その分、前線が手薄になる可能性がある。前線が手薄になれば、ウクライナの反攻作戦に有利になりますから、そういった目的での破壊工作だというのは十分考えられると思います」
「まもなくウクライナは南部で反攻を試みると考えられていますが、そこにはロシア軍がいて、防空ミサイルがいっぱいあります。その防空ミサイルが一部モスクワに引き抜かれることがあれば、南部、ザポリージャ州周辺などでの戦いを有利に運ぶことができる。ロシア軍といえども、戦力には限界がありますので、前線の兵力を、どこか後方に送れば、その分前線が手薄になります」
■アメリカは「現状本当に分かっていない」 ロシア反政府組織の可能性もあるが「爆破物入手は難しい」
【関西テレビ・神崎報道デスク】
「アメリカが一つ鍵になると思います。実は今年2月に、ウクライナがモスクワ周辺を攻撃しようとしていたのを、アメリカがストップをかけたという機密文書が流出し、アメリカメディアが報道で明らかにしました。アメリカはモスクワ攻撃を強く止めていたんです。今回ウクライナがそれを押し切って、あえてクレムリンを攻撃したとは考えにくいように思います。アメリカは、ウクライナがやったとも、ロシアの自作自演だとも言及していません。そこが一つ鍵になると思います」
【防衛省防衛研究所 高橋杉雄さん】
「アメリカは、現状本当に分からないのだと思います。流出文書にあった通り、ウクライナがモスクワを攻撃しようとしていたことは確かで、今回もしウクライナがやったのだとすれば、アメリカに相談せずにやったのだと思います。ロシアの偽旗作戦だとすれば、アメリカには分かりませんから、どちらにしても本当に分からないのだと思います」
ここで関西テレビ「newsランナー」の視聴者から質問です。「ロシア国内の反政府組織が実行した可能性はありますか?」
【防衛省防衛研究所 高橋杉雄さん】
「あり得るとは思います。現状否定する根拠は全くありません。ただ、爆発物が手に入っている。何十キロもの爆発物を反政府組織が簡単に手に入れられるかは疑問に思います。仮にウクライナの情報機関が支援しているのだとすれば、結局ウクライナがやっているのと同じであると言えます」
■ウクライナ・ロシア両軍 今後どう展開するのか
今回のクレムリン攻撃を受けて、ウクライナとロシアの両軍は、今後どのように展開していくのか。
ウクライナの動きから見ていきます。ウクライナの南東部はロシアが支配している状況です。ここからウクライナが反転攻勢を強めていこうとしていますが、いつごろ開始するのでしょうか?
【防衛省防衛研究所 高橋杉雄さん】
「5月中ではないかと思っています。ただ、待てば待つほど、支援物資や訓練のレベルが上がっていくので、待とうとするかもしれません。ただ待つとロシアの防御も固くなっていくので、どこかの段階で思い切る必要はあります。ロシアが5月9日に追加動員をすることになると、追加動員した兵士の訓練が終わる前、できるだけ早く5月中には反攻を始めなければいけないことになります」
一方のロシアの今後の動きです。クレムリンでの爆発を受けて、ロシア大統領府は、「5月9日の戦勝記念日を前に、大統領の命を狙ったテロリストによる計画的な犯行とみなす。ロシア側は報復措置を適切なタイミングで講じる権利を有する」としています。どのようなタイミングで、どんな報復をしてくることになるのでしょうか?
【防衛省防衛研究所 高橋杉雄さん】
「基本的には“フリーハンド”だということを言っているだけだと思います。空爆は考えられます。ただ最近ロシアが撃っているミサイルの数が減ってきています。在庫不足が深刻化している可能性があります。今回のようにモスクワが攻撃された後の報復として、20~30発程度のミサイルしか撃てないということであると、やはり在庫不足が深刻化していることになります。報復として以前のように1日当たり100発ぐらい撃つようであれば、まだまだ在庫があると言えるでしょう。予測は難しいですが、どう反応するかで今のロシアの現状が分かってきます」
核兵器使用の可能性はあるのでしょうか?
【防衛省防衛研究所 高橋杉雄さん】
「これまでロシアが核の威嚇をしたときは、ザポリージャ原発の時であるとか、イギリスが劣化ウラン弾を供与した時など、“核絡み”の何かがあった時です。今回クレムリンへの攻撃は核絡みではありません。もし核につなげるための偽旗作戦だとすると、例えばモスクワで「汚い爆弾」などの放射性物質が見つかったというほうが、核で報復する説得力がある。今の流れだと核使用につながる可能性は低いと思います」
いずれにしても、ウクライナ情勢が緊迫の度合いを高めていることは、間違いありません。
(関西テレビ「newsランナー」2023年5月4日放送)