銀座の強盗で高校生含む少年4人逮捕 “グリ下”支援の弁護士が“可能性の背景”や“闇バイト”に至る若者の思考停止を解説「必ずシグナルが」…強盗罪は“重い罪” 2023年05月10日
東京・銀座の高級腕時計店で起きた強盗事件。強盗という凶悪な犯罪にまで手を染める10代のリアルな実情について、数々の少年事件の弁護を担当し、大阪ミナミの“グリ下”で悩みを抱える若者たちのサポート活動をしている、田村健一弁護士に話を聞きました。
■銀座の高級腕時計店強盗 “闇バイト”の可能性高いが、引っ掛かる点も
8日に銀座で起きた強盗事件について、警察は“闇バイト”の可能性もあるとみて調べています。今、分かっている情報を整理します。
マンションの敷地内に侵入した疑いで逮捕された4人は、無職、アルバイト、私立高校の3年生、職業不詳と、いずれも 10代であることが分かりました。そして全員が横浜市に居住しているのですが、「知り合いではない」と供述しているということです。強盗に関しては、「知らない」と答えたり、黙秘しているということです。
4人の接点がどこにあるのかが今後の捜査のポイントとなりそうです。「知り合いではない」という供述が本当なら、闇バイトの可能性が高いと考えられるのでしょうか?
【田村健一弁護士】
一連の広域強盗事件に共通して、SNSで実行役を集めていますので、知り合いではない実行犯が集まることが多いことから、供述が正しいのであれば、闇バイトである可能性は高いといえます。
ただ、同じ横浜市に居住という点がちょっと引っ掛かります。SNSで誘引する場合に、犯行場所に近い首都圏で集めるのはもっともですが、同じ横浜市だとしたら居住区が違っても、人的なつながりがある可能性があります。知り合いであると、指示役からするとリスクが高いと思います。全員が同じ横浜っていうのは、ちょっと私は引っ掛かりますね。
逮捕された少年の中に、私立高校に通う3年生がいるというのも驚きでした。社会とか親に対する反発心みたいな、一泡吹かせてやりたいといった気持ちがあったりもするのでしょうか?
【田村健一弁護士】
社会や親に対する反発心も、1つの理由として考えられます。ただ、いろんな誘惑が本当に多い時代です。今の時代、インスタグラムとかで、すごいキラキラした世界を見せるじゃないですか。それ自体は問題ありませんが、手っ取り早く稼ごうと思ってしまう誘惑もあります。あとはお金に困ってしまう、いろんな理由がある。推し活でお金をいっぱい使うとか、借金してしまってなんとかお金を返さなきゃいけないなどといった時に、闇バイトの募集に応じてしまう理由になると考えられます。
“闇バイトのリアル”について、どのような変化や傾向があるのかみていきます。闇バイトは主にSNSで募集されています。「#1日10万円」「#即金」「#高収入」などの誘い文句が並びます。実際に調べてみると、「手厚いサポートが受けられます」とか「安全に働けます」「脅しなし」といった文言で、募集を見た若者が、軽く考えてしまう可能性があるものもみられます。
闇バイトの連絡や指示は、秘匿性の高い「テレグラム」というアプリを使う傾向にあるということです 。
そして最近は、特殊詐欺のような間接的な犯罪ではなく、直接的な強盗を勧める傾向にあるということです。
【田村健一弁護士】
闇バイトに手を染める若者は本当に増えています。手頃にツイッター、インスタグラムとかで、ちょっと探したら、本当にすぐ見つかってしまうんです。若者にとって、ツイッター、インスタグラムをはじめとしたSNSは、有用なコミュニケーションツールですので、その中で簡単にこのような情報に触れてしまう環境がある。そういう状況の中で、こういう犯罪ヘの関わりが増えているケースは、今回に限った話ではないと思っています。
連絡には、秘匿性が高く“足跡が残らない”テレグラムを使う傾向にあるのですか。
【田村健一弁護士】
これは多分、指示役にとってすごい有用だと思うんです。やり取りが即、自動でできたり。もし送った先の人がスクリーンショットで画面を保存しようとしたら、連絡した指示役の方に伝わってしまう機能があったりして、指示役にとって非常に都合の良いツールになってしまっています。本来そういった意図ではないのですけれど、犯罪用途に使われてしまっている現状があると思います。
広域の強盗事件もそうですが、テレグラムで連絡を取る際に、身分証明書をまず求めるんですよ。そうすると、住所、氏名、年齢が分かります。特に未成年、社会経験ない、犯罪の世界と全く接点がない人にとって、そんなことをやっている人から何か言われたら、身動き取れなくなる。これ非常に理解しやすいと思います。
また最近、特殊詐欺でなく、強盗を勧める傾向にあるということですが?
【田村健一弁護士】
特殊詐欺に関して、警察の方の対応も含めて、犯罪組織にとって非常に犯罪しにくくなっている状況があります。その中で、複雑な指示系統や、複雑な網を作って逃れることをするよりも、実行役はもう“捨て駒”にしてしまうんですよ。捕まること前提。(奪った)ものはいただくことだけを考えればいいので、指示役だったり上の人間にとって、犯行しやすいスタイルになっていると思います。
■手軽に犯罪に手を出してしまう若者 問題を考えるキーワードは“思考停止”
視聴者からの質問です。「Q.メールにしょっちゅう高額バイト募集が。若者が簡単に手を出せる環境も問題?」
【田村健一弁護士】
SNSは若者にとってすごい便利なものじゃないですか。日常的に見るものですよ。その中に今みたいな誘惑があると、人間心理として、いろんな事情で困ったものがあった時に、目先のことを考えて、「どういうものかな」ってちょっと DMを送っちゃう。その気持ちは、皆さんはお分かりになる方も多いかと思います。
若者は悪いことをしている認識はあるのでしょうか。
【田村健一弁護士】
ケースバイケースではありますが、やっぱり悩んで悩んで悩み抜いた上で、結局最終的に悩みに取りつかれちゃった状態になると、もう善悪というものに対して、冷静に判断する思考能力が失われてしまう。まさに“思考停止”の状態になって犯行に及ぶケースが多いと思います。
やはり、深層心理の中では、「闇バイト」「1日10万」、 結局これはやばいことやるんじゃないかという人間心理あるんですよ。でも目先の問題で、ギャンブル、ゲーム課金、投げ銭。あと推し活といって、自分の好きなアイドル、自分の好きなライバーなどに、お金をどうしても払わなければいけないんだって思ってしまうこともあります。悩み抜いた結果、最後に思考停止してしまって、善悪が度外視され、犯行に及んでしまう。こういった問題をどう解決していくか考える上で、“思考停止”がキーワードになっていると思います。
■犯罪に手を出す子供は“シグナル”を出す 保護者は察知して専門家に相談を
指示役に追い詰められたり、お金に困って犯罪行為をやらなければならないような状況になって、思考停止してしまうのですね。ただ、強盗事件を起こした場合、大変重い罪に問われるということを、思考停止せずに考えてもらわなければなりません。
「強盗罪」
▼20歳以上の場合、5年以上の懲役。
▼初犯でも、原則 執行猶予なし。
▼特定少年(18歳・19歳)の場合、家庭裁判所の判断と、検察の起訴によっては、原則 成人同様に刑事裁判が行われ、実名報道も可能になります。
少年法で守られるとは限らず、本当に大きな代償を払うことになります。
子供の問題と思われて、子供のことに焦点を当てて話されがちですが、仕掛けているのは大人です。この種の闇バイトで犯罪を仕掛けた場合に、例えば刑法を改正して厳罰化するなど、考える時期にきていることはないのでしょうか?
【田村健一弁護士】
立法の問題があるかもしれません。社会的な制裁という意味で、特に大人がまだ判断能力が乏しい未成年者の未来を奪うということに対して、国民の世論が高まれば、法改正という道も出てくるかもしれませんね。
ここでまた視聴者から質問です。「Q,私は共働きですが、共働きが増え、子供に気がいかなさすぎることも原因?」
家庭に複雑な状況もある中で、親として防ぐ手立てというのはあるのでしょうか?
【田村健一弁護士】
本当に難しいです。特に共働きで、忙しくて子供に接する時間も短いですよね。仕事で疲れています。その中で、本人はやっぱり最初悩んでいます。悩んだ結果、何かがあって思考停止するんです。言いたいのは、必ず“シグナル”があるということです。人は悩みに取りつかれてしまった場合、目の焦点が合わなくなったり、1点をずっと見たり、汗をかいたり、表情がこわばったりします。長年お子さんを見てきている親御さんからすれば、思春期特有の悩んでるというものとは少し異質なシグナルがあるんですね。ただそう思っても、誰に相談したらいいのということはあります。ここは社会として、この問題について、親御さんを一人ぼっちにさせるのではすごい難しいと思っているんです。私は仕事柄、こういう悩みを聞いてきていますので、そういう場合はね、まず専門家に相談するなり、そういう窓口に対してちゃんとつなぐ、そういう仕組みを作るのが社会の役割だと思っています。私も私の仲間とそういう悩みに対して、一人ぼっちを作らない仕組みを作ろうと思って頑張っています。
SNSを介して、子供たちと犯罪の距離が非常に近くなっている現状があります。保護者と社会が、子供の犯罪への接近をどう抑止していけるかが、非常に重要な問題となっています。
(関西テレビ「newsランナー」2023年5月10日放送)