【少子化ニッポン】産休・育休取得への“罪悪感”問題を考える 大阪市が取りやすい新人事制度「毎年育休100人なので100人職員を採用します」 課題は人件費も…残業代と相殺? 2023年05月10日
「職場に休みを取りたい」と伝えるときに「迷惑かけたらどうしよう」といった「罪悪感」を感じてしまう人も少なくないと思います。気持ちよく休みが取れるよう、大阪市が新しい取り組みを始めました。
■大阪市・・・育休をとりやすく! 大阪市が新しい取り組み
大阪市役所の人事部で働くこちらの女性。6月、出産を控えています。
【育休予定の職員 (30代)】
「今、もうすぐ(妊娠)9か月です。8カ月最終くらいです」
まもなく産休に入り、その後、育休の予定、なのですが…。
―:Q職場にはどう思う?
【育休予定の職員 (30代)】
「けっこう持っている業務が多くて分担しているんですけど、途中で引き継いでいくとなると罪悪感というか、仕事残してきてるなぁって…」
育休を取るときに、職場に”罪悪感”を感じる人は少なくありません。
【育休中の人(妻)】
「約1年半。この子の(育休を)いただきました。(職場に)ちょっと申し訳ないなと思ってます」
【夫】
「男性でも育休を取っている人が多いので、興味はあったんですけど、なかなか一歩が踏み出せない状況でした」
【育休を取得した男性】
「1週間取ったんですけど取りづらかったかな。面談では言ったんですけど3カ月って。あまりかんばしくなかったので、雰囲気が。遠慮して1週間って話で」
■ 育休を見込んで多めに職員を採用
育休の取得に罪悪感を感じなくてもいいようにしようと、対策に乗り出したのが大阪市です。
【大阪市・横山英幸市長】
「子どもができて、ごめんなさいと言いながら休むのは、おかしいと思います」
大阪市はこれまで、育休などの長期休業で欠員が出た場合は、非正規の職員を採用したり、残った職員でカバーしたりして対応してきました。
しかし、これではどうしても残った職員の負担が増え、残業が発生してしまいます。
そこで大阪市役所では毎年、100人ほどが育休を取っているため、今年度はいつもより100人ほど多く常勤の職員を採用したのです。育休の予定者がいる部署に、事前に人員が補充されます。
【大阪市総務局・新海立則人事課長】
「これから育児をする職員が周りの職員に迷惑をかける不安を感じることなく、安心して子育てに向かっていける。温かく快く送り出してあげるような職場環境を整えていきたいと考えています」
―Q:制度を聞いた時は?
【育休予定の職員】
「やったーって思いました。その時期は、この仕事どうしたらいいかな、どう引き継ごうかな、と思っていたので。制度を聞いて、ちゃんと(人員を)補充してくれるからうまくいくかなと考えられたので、うれしかったです」
【同僚の職員】
「育休・産休に入られる方を頼りにしていたので、最初は不安だったんですけど。人が欠員で欠けてしまうより、入ってくれる方が断然安心できますね」
この制度によって人件費は増えることになりますが、横山市長は…
【大阪市・横山英幸市長】
「プラスで雇用することで、税負担が大きいんじゃないかという懸念もあると思うんですが、一方で休む時に他の課員の超過勤務とか非常勤の職員の人件費を考えると、一定相殺して、費用の負担は圧縮できますので、そんなに大きなデメリットはないんじゃないかなと思っています」
公務員の働き方改革に詳しい専門家は、全国的にも先進的な取組だと評価します。
【株式会社ワーク・ライフバランス・松久晃士執行役員】
「短期的にみると、どちらがコストかかっているのかの話はあると思うが、中長期的にみると大阪市のやっている方法がきっと費用対効果が高いと思います。社会全体で労働力人口が減っているので人の採用が今後ますます難しくなってきます。今確保した人材が成長し、活躍できるようになった時に、様々な部署に休業者がいた時にも充てていくことができるような人材戦略なのではないかなと考えています」
大阪市は効果を検証して柔軟に制度を運用していきたいとしています。
【関西テレビ・加藤さゆり解説デスク】
「今まででは非常勤職員が一時的に補填する形でしたが、その職員ができる仕事は常勤職員と異なるものでした。結果的に常勤職員の残業が増えるなどの悪循環に陥る部分もありました。ただ、官公庁の仕事は一度始めると止めることができないという特徴もあるので、引き継がないといけないのかという業務の棚卸しもしながら、効果を検証する必要があると思います」
【ジャーナリスト・鈴木哲夫さん】
「突破口として大阪市のような実験的な取り組みは良いことだと思います。ただ、育休の間に働いていた常勤職員の方が良いとなった場合、育休を取っていた職員が戻る場所がなくなるなど、問題が出てくる可能性があります。最終的には『普通に育休をとることができる社会』を作るための実験的な取り組みだと私は捉えています」
■育休の取り組みは民間でも
罪悪感を抱くことなく、育休を取るための取り組みは民間企業でも広がっています。
三井住友海上火災では、休まない側に手当を支給する制度が今年の3月からスタートしました。
13人以下の部署の場合、3カ月以上の育休取得者が出たら、同僚全員に1人に10万円を支給します。3カ月未満の育休取得者が出た時は、同僚全員に1人3万円が支給されます。
【関西テレビ・加藤デスク】
「この会社(三井住友海上火災)でも風土づくりが大切だと話しています。このような支援をしないと受け入れられない部分があると言われていますが、金銭支援がなくても周囲が祝うことができる体制づくりが必要になります」
―Q:加藤さんは、産休を取得する時に“罪悪感”はありましたか?
【関西テレビ・加藤デスク】
「どこかで『申し訳ないな』という思いはありました。子供を1人産んで、もう1人産みたいなと思ったときに、復帰して、また休む時に周囲に『ごめんなさい』と言わないといけないの、というもやもやした思いがありました」
【ジャーナリスト・鈴木哲夫さん】
「この空気を作っているのは、加藤さんではなく私たち周囲の人間ですよね。社会を変えないといけないという大きな実験の中で、当事者は産む人ではなく、私たちに問われていると思います」
【関西テレビ・加藤デスク】
「お互い様という部分があると思うので、みんなで取りやすい雰囲気を作っていきたいですね」
(2023年5月10日 関西テレビ「newsランナー」放送)