最高裁が異例の謝罪 少年事件の「記録廃棄」問題で報告書 神戸連続児童殺傷事件の記録を廃棄した家裁所長は「保存を検討する立場の認識なかった」 2023年05月25日
5月25日午後、最高裁判所の小野寺総務局長が会見を開き、重大な少年事件の記録の廃棄について謝罪しました。最高裁が謝罪するのは、異例です。
【最高裁判所 小野寺真也総務局長】
「後世に引き継ぐべき記録を多数失わせてしまったことについて深く反省をし、事件に関係する方々を含め、国民のみなさまにおわび申し上げます」
少年事件の記録は、保存期間が原則「少年が26歳に達するまで」と定められ、それを過ぎると廃棄されます。ただ、最高裁は規定で社会の耳目を集める史料的価値の高い事件などは「特別保存」として、事実上、永久保存するよう定めています。
この規定がありながら、注目された事件の記録が廃棄されていました。この問題が発覚したのは去年10月でした。
神戸家庭裁判所が、日本中を震撼させた「神戸連続児童殺傷事件」の記録を、廃棄していたことが明らかになったのです。
事件で死亡した男児の父・土師守さんは、記録廃棄について「なぜ子供の命が奪われなければいけなかったのか。そのなぜを解く鍵が全く失われてしまった」と語りました。
1997年、神戸市須磨区で土師さんの次男・淳君(当時11歳)が殺害されました。現場には挑戦状が残され、新聞社に犯行声明文が送られるという「異様な犯行」でした。
逮捕された当時14歳の少年「A」の処分を決める少年審判は完全に非公開。事件の記録が廃棄されたことによって、淳君の家族は、事件の真相を知る機会を失ったのです。
淳君の父・土師守さんは去年10月、取材に応じ「最初びっくりしました.特殊な事件ですので、資料は残しているものだと思っていましたので。こういう貴重な資料を廃棄する管理の悪さ・ひどさにあきれている。憤りを感じる」と語りました。
その後、全国で少なくとも52件の記録が廃棄されていたことが明らかになりました。
廃棄の経緯について当初、最高裁は調査しないとしていました。しかし、土師さんらの強い要請を受け、有識者による委員会を設置して調査を進め、5月25日、その報告書が発表されました。
廃棄が相次いだ理由について、報告書は「記録の価値に対する認識が醸成されず、特別保存に対する消極的な姿勢が定着していた」としています。さらに、最高裁が各地の裁判所に対し、「特別保存の記録の膨大化の防止に取り組むべきとの、強いメッセージを発したことで、原則廃棄すべきとの認識や、特別保存に対する消極的な姿勢が強まった」として、「最高裁の対応は誠に不適切だった」と指摘しています。その上で、今後の対応について報告書は、法学者や報道関係者などで構成される第三者委員会を設置し、記録保存などについて助言を求めるとしています。
また、個別の事件記録についても言及がありました。
神戸連続児童殺傷事件の記録が廃棄された経緯については…
【最高裁判所 小野寺真也総務局長】
「(神戸家庭裁判所の)所長は、廃棄の前提として自身が特別保存するか否かの検討をしなければならないという立場にあるという認識がなく、明確な判断を示さなかった」
神戸家庭裁判所の担当職員は、所長に相談した上で、保存の前例がなかったことなどを理由に廃棄を決めたということです。
また2012年、京都府亀岡市で無免許だった少年(当時18)が居眠り運転する車にひかれ、3人が死亡した事故では、罪名が殺人などの重大なものではなかったことなどを理由に、担当職員が廃棄を決めたとしています。
この事故で、26歳の娘を亡くした中江美則さんは…
【中江美則さん】
「何が重大じゃないとか、そんなことを裁判所が勝手に僕らの知らんとこで決めて廃棄したっていうショックですね。一歩前を向いて歩いていかなあかんねやという気持ちで、僕らは歩こうとしてたのに、ここでまた踏みにじられて、僕らの魂全てをゴミ扱いされたという怒りですよね。犠牲者のものやと思って記録を保管してほしい」
廃棄された記録は、もう二度と戻ってきません。記録の保存に対する、最高裁の今後の姿勢が問われています。
(2023年5月25日 関西テレビ「newsランナー」放送)