40年前から完全“シャッター商店街”となった「廃虚商店街」 “高度経済成長期”の長屋型商店街がいま…老朽化で危険な状態に 今後どうすべき?現地取材 2023年06月11日
空家問題について、関西テレビ「newsランナー」の【独自取材】です。奈良県大淀町で“廃虚”と化してしまったかつての商店街が、住民と町役場を悩ませています。坂元龍斗キャスターが現地で取材しました。
【坂元龍斗フィールドキャスター】
「奈良県の真ん中あたりに位置する大淀町、人口2万人ほどの町です。『空家』というのがこちら。2階建ての長屋で、登記上“27件”並んだ、L字形の建物です。屋根はトタンが剥がれ落ちて穴が開いています。雨が降っているので、中が濡れています。2階のベランダのような部分は崩れて、壁もところどころ穴が開いています」
【坂元キャスター】
「この建物は商店街でした。現在入っている店舗は1軒もありません。物が落ちて被害が出ることもあるので、本来なら解体するべきだと考えるのが一般的ですが、取材すると、行政としても解体したくてもなかなかできない事情がみえてきました」
■廃虚の正体は、戦後の闇市発祥「下渕マーケット」
奈良県吉野郡大淀町。山あいののどかな町にたたずむ“商店街だった”建物。
【近所の人】
「“マーケット”と言うて、お店がずーっとこうあったんですわ」
「お魚やさんも、乾物やさんもいっぱいあって、運動会といえばあそこにみんな買いに行ったくらい」
通称「下渕マーケット」。戦後の闇市が発祥とされ、高度経済成長期の1960年代に、店舗兼住宅の長屋型の商店街が完成したとみられます。郊外にスーパーなどの大型店舗ができてからは利用者が減り、地域の人たちによると40年ほど前にほぼ全ての店舗が閉店しました。
■6年前まで住んでいた女性「(最後は)もう断腸の思いで…」
泉沢末子さん(86)は、かつて夫と一緒に食料品店を営んでいました。
【下渕マーケットで店をしていた泉沢末子さん】
「誰もこんなとこ(いなくなって)、私だけが6年前までここに住んでましてん」
「ここが野菜売り場、青果店。ここは『果物』って書いてありますやろ。『泉沢食料品』と。こっちが乾物。クジラとかワカメとかニボシとかカツオとか良い物ばっかり売ってた」
「ちょっと見てください。これ(写真)が、私のお父さんとお母さん。残ってたのはうちが最後かな。あとはみんな出ていってね。子供3人おるし、(最後は)もう断腸の思いで…」
泉沢さんは1980年に店を閉めてからも、この場所で暮らしていましたが、建物の老朽化が進み、危険な状態になってしまったため、6年前にやむを得ず引っ越しました。今も時々、建物の手入れに訪れていますが、他の元店舗は完全に放置されていて、荒れ果てる一方だと言います。
【泉沢末子さん】
「屋根がないので、雨が降ったら下から流れてくるし。(上の方に置かれている)火鉢やら扇風機、地震でもあったら落ちる」
事故を防ぐために泉沢さんは立ち入り禁止の札を下げましたが、一部の“廃虚マニア”は今も中に立ち入って写真や動画を撮影しているということです。
■登記上“27件”の権利。行政が解体することも困難な状況
行政は何か対策を取れないのでしょうか。
【大淀町の担当者のコメント】
「あくまで私有地なので、行政は原則、直接手を出せません。土地と建物の所有者を特定して、対応をお願いすることになりますが、かなりの困難が予想されます」
「所有者の特定が難しい」…どういうことか、「下渕マーケット」の登記情報を取り寄せてみると、
【記者リポート】
「土地の登記を確認したところ、取材班が確認できる範囲で“27”に分かれていました。数年ごとに所有権が移転している土地もありますし、1つの土地を複数人で共有している場合もあるようです」
27に分けられた土地それぞれの所有者が、生きているのか、亡くなっているのか、さらに相続したのか、放棄したのかなどを大淀町が調べ上げて、連絡を取っていかないといけないのです。大淀町の担当者は「町としては経験のないことで、先が見えないのが実状です」と話しています。
■現地で取材したキャスター「何かしら早めに対策を打つべきだとここにいて感じる」
【坂元キャスター】
「建物の隣には月決め駐車場がありまして、ここに物が落ちてきてしまうことがあるそうです。駐車場の皆さんが、何とか対応してほしいと町にお願いして、応急処置的にネットが張られた状態です。建物の横の道は大変交通量が多く、何か崩れたら大きな事故につながってもおかしくないと、現地に来て感じます」
【坂元キャスター】
「行政はどういった対応が考えられるのかですが、一般的にこういった建物があった場合、建物の所有者を見つけて、その方に建物を解体するなりしてくださいとお願いすることになります。お願いしても解体されない場合には、「行政代執行」という手続きに移って、費用は所有者に請求する形で、行政が解体することができます。もし仮に調べを尽くして、所有者が見つからない場合には、「略式代執行」といって、税金で処理をすることになりますが、強制的に行政が建物を解体する手続き方法もあります。
ただこの建物の場合は、登記上 27件の空き家があります。所有権を持つ方が生きているのか、亡くなっているのか、相続しているのか、放棄しているのか、それを調べ上げることは1件でも大変なのに、27もあるのです。しかもそれに加えて、1つにつながった長屋であるため、 1部だけ解体工事をするわけにいかず、27件全てについて解決しないと解体できないという問題もあり、大淀町の職員の方は『もう先の見えない作業だ』と話しています」
「住民の方に聞きましたら、『文化的な遺産として残してほしい』という声もありました。ただこれから台風や大雨のシーズンとなり、事故がないとは言い切れないので、やはり何かしら早めに対策を打つべきではないかなということを、ここにいて感じています」
いわゆる“廃虚マニア”などが立ち入ることは本当に危険です。くれぐれも立ち入ることがないようにしてください。そして地域の方をはじめとした皆さんの命、安全を第一に考えなくてはなりません。国や行政には、今後しっかりとした対応をお願いしたいと思います。
(関西テレビ「newsランナー」2023年5月30日放送)