大阪府の高校授業料“完全無償化”の制度案には「賛同できない」 私立高校などの団体が議決 「これまで無償化対象だった子どもの負担が増える」と危機感 吉村知事は「丁寧に説明をしていく」 2023年05月30日
大阪府が来年度からの段階的な実施を目指す高校授業料の完全無償化案について、府内のすべての私立高校で作る「大阪私立中学高等学校連合会」が、理念には賛成だが制度案には賛同しないという意向を示しました。
大阪府の吉村知事は「大阪では全ての子どもたちが親の所得や子供の人数に関わらず、行きたい学校を選択し、自分の将来を追求できる社会を目指す」として、4月の府知事選で、大阪府の高校授業料の完全無償化を公約に掲げていました。そして5月9日、無償化について、大阪府は公立・私立ともに所得制限を撤廃し、来年度の高校3年生からスタートし、2026年度には全学年で無償化実現という素案を発表しました。大阪府内在住で府外の高校に通う生徒も対象です。
現行の、所得制限ありの制度では、大阪府は私立高校について年収800万円未満の世帯の生徒を対象に、国と府の補助金を合わせた上限額を年間60万円と定め、上限を超える授業料については学校が負担する「キャップ制」を適用しています。また、この授業料には、校舎の建て替え費用など施設整備費も含んでいます。
新たな制度でも、このキャップ制は適用されるため、私立高校は、全ての生徒の上限額を超える授業料を負担する必要があります。
大阪私立中学高等学校連合会は、新制度になれば、年間で2億円ほど支出が増える私立高校もあり、経営破綻や教育の質の低下を招くとして懸念を示していました。
この懸念について、吉村知事は「私立学校が確保する収入は、今、行政による私学の補助金、私学助成金と授業料から成り立っているが、役所がくれる学校単位の私学助成金と授業料だけですべての収入を確保するのは、これからの社会は違うんだろうという風に思う」と語り、寄付金を集めるなどして、私学が新たな財源を確保する道もある、とする考えを示していました。
こうした中、大阪私立中学高等学校連合会は29日に総会を開きました。総会では「府内にある96の私立高校全てが、完全無償化の理念には賛成するが、提示されている新制度案には賛同しない」とする意見が議決されました。
総会の後、出席した校長らは以下のように語りました。
【清風高校 平岡宏一校長】
「大阪府は、新制度に乗れない学校はおりて、補助金を受け取らなければいいと説明している。それは違うと思うんです。今までは、800万円未満の世帯の子は、そこの学校は選択できたわけじゃないですか。けれどもその学校が新制度に乗らなかったら、行きたかった学校を選択できなくなるわけです」
【興国高校 草島葉子校長】
「大阪では授業料無償化が入ってきて、だんだん私学に来る子が増えてきた。ならば私学が嬉しいかというと、違います。生徒の数が増えてきたら校舎も建てなきゃいけないし、改装もしなきゃいけないし、先生もたくさん入れないといけない。でも経常費補助金は、大阪は全国で46番目。そこに60万円を超える授業料は全て学校負担となると、教育環境が悪くなってしまう」
「キャップ制」を全生徒に適用する案には賛同できないとする私立高校側の考えについて、吉村知事は30日、取材に対してこのように述べました。
【大阪府 吉村知事】
「無償化を目指す以上、これは必ず論点になるところだというのは、当然認識をしていますし、ここを乗り越えなければ、無償化にはならないと思っています。私学団体の皆さんの理解を得られるように丁寧に説明をしていく、協議を重ねていますので、実務的に引き続きしっかりやっていきたい」
また吉村知事は、実務的に府の私学課が協議を尽くし、最終的に必要であれば知事自身が直接、私立高校の関係者と面会するという考えも示しました。
また、大阪府の私学課の担当者は、関西テレビの取材に対し「現行の所得制限ありの制度でも、入学金は無償化の対象ではないので、私学が自由に設定できる。新制度でも同様。また全生徒に一律にかかる費用は無償化の対象だが、一部の生徒への特色ある教育等の費用は無償化対象ではない」と話しています。
しかし、こうした担当者の説明について、私立高校の校長の1人は「新制度になり、入学金を増やし財源を確保する高校が相次ぐと、これまでの制度で世帯の所得が少なく無償化対象だった子どもたちの負担が大きくなる。本末転倒だ」と反発しています。
大阪府は今後、私立高校側と協議を継続し、今年8月までに制度案の詳細をまとめる方針です。