教育 ”完全無償化”すると「教育の質」が下がる? タダなのに相次ぐ反発なぜ? 私立高校が危惧「教師の質が低下するのでは」 生徒からも「成績が保てるか」の不安の声 大阪府は8月ごろに制度案を固める方針 2023年06月23日
大阪府が実現を目指す高校授業料の「完全無償化」の制度案に反発の声が相次いでいます。
授業料が完全に「タダ」になるという、家計にとって嬉しい制度に思えますが、一体なぜなのでしょうか?
私立の高校に子どもを通わせる保護者たちが、高校授業料「完全無償化」の見直しを求める意見書を大阪府に提出しました。
提出後、保護者団体の代表者が記者会見で次のように話しました。
【大阪私立中高保護者連・松井次郎会長】
「今回の案は保護者にとって聞こえのいい『無償化』の言葉ばかりが先行して、結果として子供にとって不利益がある案となっています。授業の質の低下ですとか、いろいろ特色が失われていくのではないかと」
■ 教育無償化で「教師の質が…」 私立高校
完全無償化になると、なぜ「教育の質」が下がるのか?その理由を探るべく、大阪の私立高校を取材しました。
【清風南海高校・平岡正校長】
「職員室前では放課後でもたくさん生徒が来て、生徒の質問に対応しています。質は高いと思います。結構難しい難関大学の問題の質問でもちゃんと答えてくれますので」
高石市にある清風南海高校。府内有数の進学校として知られています。
国際シンポジウムとして5カ国の生徒と先生を招いたり、1つの授業に先生を8人配置したりするなど、学習レベルに応じたきめ細やかな進学指導を売りにしてきました。
年間の授業料は64万円。この授業料から質の高い教員を採用するための費用などを賄ってきた形です。
【清風南海高校・平岡正校長】
「いかに良い先生を呼んで来なきゃいけないっていうのがありますので、人件費が一番かかる。やっぱり先生も人間ですから。良い条件のところにそれは行くことになってしまいますからね」
完全無償化になるとこれまでのようにはいかなくなります。
大阪府の私立高校の授業料は現在60万円までは世帯年収に応じて各家庭が負担し、60万円を超える部分は、年収800万円未満の世帯を対象に学校が負担しています。
しかし、大阪府が導入を目指す新たな制度案では、60万円未満の授業料については、国と府が負担。
そして、60万円を超える授業料については全て高校側が負担します。つまり、高校側の負担が増えることになるのです。
清風南海高校の場合は、60万円を超える「4万円」の全校生徒およそ860人分を負担することになり、負担額は現在の3倍、年間3400万円ほどになるということです。
【清風南海高校・平岡正校長】
「いわゆるその統一性という価格を合わせるというのは、それは公立と同じになるんじゃないかなっていう気はします」
清風南海高校に勤務して34年。物理の折戸先生も教師の質が低下するのではと不安を口にします。
【物理科教師・折戸正紀さん】
「非常勤の先生の割合が増えていくんじゃないかなと。どうしても教員が減って忙しくなると、もう本当に目の前の仕事で精一杯になってしまって、しっかり後輩を育てるっていうことがなかなか受け継いでいけないなっていう部分があります」
また、多くの高校では授業料を元手に校舎の建て替えや修繕なども行っているため、大阪府内全ての私立高校でつくる団体は、「教員の質も、施設の質も下がる」と、新制度に反対する意向を示しています。
不安に思うのは、学校側だけではありません。
取材を受けてくれた、浪速高校の特進クラスに通う阪口壱心(16)さん。
【阪口壱心(16)さん】
「自分のクラスで教えてくれている先生は、やっぱり質が高い先生ばかりで、やっぱりこの先生1人2人って削られていった時に、このままの成績がずっと保てるかっていうと絶対そうではないと思う」
母親のめぐみさんは「多少の金額を払ってでも、私立の特色ある教育を受けさせたい」と考えています。
【母・めぐみさん】
「完全無償化については、本当に保護者にとってはありがたい制度だとは思っているんですけれども、学校側の経営負担になったりすることが最終的に子どもたちへの負担として子どもたちにのしかかってくるのではないかと大きな懸念があります」
生徒や保護者からもあがる不安の声に吉村知事は・・・
【大阪府・吉村洋文知事】
「(私立高校が)自由に徴収する授業料の中で、もう(経営を)やりますから大阪府の援助制度に入りませんという(学校の)判断もありうると思います」
ただ、学校が新しい制度に入らなければ、現在は得られている所得の低い世帯向けの大阪府からの補助がなくなるため、負担が増える家庭もあります。
【大阪私立中高保護者連合会・山田里奈副会長】
「(府の補助から)外れてしまった場合、保護者が高いお金を払わないと入学できないってことになってしまったら、自由に学校を選んだりできなくなってしまうっていうのが、すごく子どもたちがかわいそうだと思うので」
大阪府は8月ごろに制度案を固める方針で、吉村知事は「丁寧な説明を続ける」としています。
(2023年6月23日 関西テレビ「newsランナー」放送)