“生成AI”の便利さと危険性 AIによるフェイクを見破ることは難しく「規制が必要」 AIが代わりに働き、人は“働きたくなければ働かなくてもいい世界”が来る? 2023年07月01日
「生成AI」がすさまじい勢いで進歩しています。今までは人間が頭で考えて、絵や文章、音楽などを作り出していましたが、将来は全て「人工知能=AI」におまかせすればいいという世の中になるかもしれません。AIによってどれだけ便利になるのか、そしてどんな懸念があるのか、私たちの“未来”をご紹介します。
【動画のナレーション】
「静寂の中に広がる癒しの楽園、草津温泉…」
これは、群馬県にある草津温泉をPRする動画です。風情あふれる街並みなど草津温泉の様子がカラフルなアニメーションで描かれています。この動画を誰が作ったかというと…なんと人間ではなく、「生成AI」が作成したというのです。
左側が草津温泉の実際の風景。これを元に生成AIが右側のようなアニメーションを自動で作りました。
【草津温泉観光協会 小森涼太さん】
「実際に草津温泉にお越しいただいて、AIのイラストやアニメーションと違った、本物との違いをお楽しみいただければと思います」
そもそも生成AIとは、人工知能システムの一種です。画像や映像、音声などを学習したコンピューターが、私たち人間が求めるコンテンツを自動で作ってくれるのです。
生成AIのすごさは、こんな場でも紹介されました。5月9日、岸田総理とAIに関する次世代リーダーとの車座対話でのことです。
【AIエンジニア 安野貴博さん】
「あー、あー、聞こえますでしょうか?このマスクをつけるとリアルタイムに私の声が(岸田)総理の声に変換されて聞こえるようになっています」
本当に岸田総理がしゃべっているように聞こえ、岸田総理本人も驚くほどでした。AIは2時間ほど学習すれば、誰かの声を自由に生み出すことができるのです。
■神戸市、枚方市など 関西の自治体でも“生成AI”活用広がる
“生成AI”の活用は関西の自治体でも広がっています。神戸市では6月23日からデジタル戦略部の職員など約110人が、対話型の生成AI=「チャットGPT」を試験的に業務に導入し、どのような活用方法があるか検証しています。
庁内のデジタル化を担当している職員が、「“チャットGPT”を職員に推進するキャッチフレーズを10個あげてください」と指示を送ると、数秒で10通りのフレーズが提案されました。
【AIが提案したフレーズの例】
「チャットGPTで煩雑な作業から解放されよう!」
「職員の生産性向上に貢献するチャットGPTを活用しよう!」
【神戸市 担当職員】
「自分だったら10分ぐらいかかる文章が、10秒ぐらいですぐ返ってくるので、そのあたりが事務の効率化につながるのかなと思っています」
今後、業務の効率化の“カギ”となるかもしれない生成AIですが、行政のサービスを受ける市民からは不安の声も…
【神戸市民】
「“個人情報流出”は避けてほしい」
「セキュリティーの問題が取り上げられているので、その辺がまだクリアになってない中で心配ですよね」
神戸市は個人情報の流出などがないように、職員が生成AIを利用する際のガイドラインを策定。氏名や住所などの機密情報をチャットGPTに直接入力すると、情報が漏えいする恐れがあるため、神戸市独自のアプリを経由するなどして、チャットGPT側に入力した情報が保存されないシステムを作っています。
一方、大阪府枚方市では生成AIを活用したことで、市民サービスが向上しています。チャットGPTが作っているのは枚方市のコールセンターのホームページで公開されている、市民からの「よくある質問と回答集」=「FAQ」です。
【枚方市広聴相談課 岩田秀紀課長】
「これまで全くなかった方向から、(生成AIが)質問を作ったりもしたので、市民の方の感覚で、行政側の感覚ではない形で提案してもらえるのかと思いました」
“市民感覚”で質問と回答を作ってくれるというチャットGPですが、不安な面もあるようです。AIが自動生成した中にはあやふやな情報も紛れ込んでいたのです。実際にあった例として、「避難所の簡易トイレはどのようなものか?」という質問に対し、「簡易トイレは“ベージュ色”」などと勝手に断言していました。
【枚方市広聴相談課 岩田秀紀課長】
「それぞれの担当部署で内容を確認したり、より正確な説明を付け加える作業が必要なことも分かりました」
業務効率化への期待が高まる一方、正確性や、うその情報も混じることなど不安な面もある生成AI。
高市早苗科学技術政策担当大臣は、偽情報がSNSなどで拡散した場合に備え、体制を整えるべきだとの考えを示し、政府は年内のとりまとめを目指しています。
■“生成AI”を実際に作っている企業の代表に聞く 夢の話と危険な話
そう遠くはない未来にやってくる生成AIの“夢のある話”と“危険な話”などについて、東京大学発のスタートアップ企業で生成AIに特化した「neoAI」の代表取締役、千葉駿介さんに聞きました。
【千葉駿介さん】
「我々は大きく2つの仕事をやっています。1つが一般のお客さんでも使えるんですが、 自分の顔にそっくりなイラストをAIが作るというサービスです。もう1つは企業や行政の仕事に特化した生成AIで、お問い合わせ対応AIとか、資料の自動生成AIといったものを作る仕事をしています」
■ここでクイズです
生成AIについてお話しする前に、まずはこちら。
この4人の画像の中に、生成AIで作られた画像があるのですが、みなさん分かりますか?
正解は3番だけが人間のカットモデルで、それ以外は生成AIで作った画像なんです。1番と2番は「AIアイドル」、4番は「AIカットモデル」です。AIで人間の画像をこんなにリアルに作ることができるんですね。
【千葉駿介さん】
「そうなんです。最近は本当にすごくて、実は1年前ぐらいは、なんとなく人間っぽいものが作れるかなぐらいの技術の進捗だったんです。ここ1年で急激に技術が進んでいて、最近は AIを作っている側でも、正直どれが人間でどれがAIか分からなくなってきているぐらいです」
■亡くなった人や歴史上の偉人とトークも可能に 便利な一方悪用されることも
生成AIで将来的にどんなことができるようになるのでしょうか。
1つ目は、亡くなった人とトークできる可能性があるということです。会話の内容はどうなるのでしょうか。
【千葉駿介さん】
「例えば亡くなってしまった方の昔の動画であったり、しゃべっている時の音声データがあれば、すぐに作ることができるかなと思います。なんとなく性格を、学習・推測して、AIがしゃべってくれるような調整をするような形になるかと思います」
もう1つが、徳川家康や坂本龍馬といった歴史上の偉人とトークができるかもしれないというものです。昔の偉人は動画や音声がありませんが、それでも可能なのですか。
【千葉駿介さん】
「想像上の徳川家康とかを、過去の文献とかから頑張ってチューニングして作る感じかなと思います。リアルタイムでしゃべるというのが今のAIでは難しくて、チャットGPTも質問を入れて返ってくるのに数秒かかりますので、人間としゃべっている感じにはまだならないというのが結構難しいところです。データとして、坂本龍馬とかでしたらあるかもしれませんが、会議の“議事録”のようなデータがあると、こういう場面で、龍馬さんはこういうことを言っていたんだと学習できます。そのようなデータがあると早いなという感じはします」
一方で、悪用されてしまうケースもあります。例えば、ウクライナのゼレンスキー大統領が、兵士らに「降伏」を呼びかけるフェイク動画が一時拡散されました。実際に拡散された動画を見た限り、フェイクだと見抜けない方もいるのではないかという内容になっています。
【千葉駿介さん】
「私は正直、この使い方が一番怖い。『ディープフェイク』というのが、こういう風に使われてしまうと、正直見分けがつかなくなっていってしまいます。例えばこれが個人レベルで使われていった時に、『友達がこういうことを言ってたんだけど』と、うその動画みたいなものを作って、それがSNSで拡散されることがあれば、すごい問題だと思います」
AIで作られた物を見破る技術開発はどの程度進んでいるのでしょうか。
【千葉駿介さん】
「実は開発しているプロジェクトはたくさん立ち上がっているのですけれども、正直結構難しいです。偽物を見分けるAIを作ってはいるんですけど、なかなか難しくて、ある瞬間で結構精度高く見分けられたと思っても、どんどん偽物を作るAIが強くなっていきますので、イタチごっこかなと。見分けるAIができれば理想的なんですけれど、正直そこをAI だけで解決するのは難しいかなという印象ですね」
■どんな仕事がAIに取って代わられる? テレビ局のアナウンサーもAIが?
では生成AIの未来は最終的にどうなるのでしょうか。
【千葉駿介さん】
「(吉原キャスターがしゃべる動画を生成AIで作ってみましたが、)これは吉原さんのアナウンサーのお仕事を、ある意味AIで代替している形になっているかと思います。人間が生活するのに足るサービスを提供するというのが、どんどん簡単になってくる、コストがかからなくなってくると思っています。そうすると、働きたい人だけ働いて、働かなくても別に世の中回るよね、働きたくなければ働かなくてもいいよねという世界が、結構近未来ではありますが、来てもおかしくないかなと思いますね」
規制は考えていかないといけないですよね。
【千葉駿介さん】
「本当に先ほど(ゼレンスキー大統領のフェイク動画)の話にあった通り、AIで偽物を判別することをやりたいんですけど難しいので、規制というか、『こういうことはやってはいけませんよ』という法整備をしたり、罰則を作ったりして、安全性を担保していく必要があるかなと個人的には思いますね」
ここで関西テレビ「newsランナー」視聴者からの質問が来ています。
「Q.近い将来どんな職業がAIに取って代わられるのでしょうか?」
【千葉駿介さん】
「ホワイトワーカーの仕事から徐々にAIに置き換わりやすいと言われています。 例えば 我々のようなエンジニアも、今結構チャットGPTを使って、自動でプログラミングをする時代になっています。私もAIを使ってプログラミングします。そういうところで、我々エンジニアのような仕事を奪うところまで行かないかもしれないですけれども、かなり働き方自体が変わっているなという印象を感じますね」
「Q.アナウンサーがAIに取って代わられる時代は来るのでしょうか?」
【千葉駿介さん】
「しゃべっている生の人の声を聞きたいというニーズもあるかなと思うので、まだまだ大丈夫なんじゃないかと思います」
優しいコメントですが、生成AIによる吉原キャスターがしゃべる動画を見ると、アナウンサーも取って代わられる職業と言えそうです。
次の質問です。
「Q.世界がAIに支配されることはありますか?」
【千葉駿介さん】
「今は“ない”かなと思っていて、なぜならコンピューターの中からAIが出てこないですね。 まだあまりロボットが外を歩いて、自由にしゃべってというところまでなかなか行かないので、今はそんなことないと思うんです。将来本当にロボットにAIが搭載されて、リアルの世界にAIが干渉できるようになってくると、また一段危険性があるかも。AIで、できることがもちろん増える一方で、ちゃんと考えなきゃいけないところも相当増えると感じますね」
「Q,AIが機能しすぎて個人情報が漏れることはないのか?」
【千葉駿介さん】
「こちらは明確にリスクとしてあるかなと思っていて、少し技術のお話をすると、AI に入れた情報というものが、AIが再学習してしまって、他の人がそのAIを使った時に、入れた個人情報が出てしまうリスクがあるかなと思います。ここはAIを提供している企業たちが、今頑張ってなんとかならないか探っている最中だと思います。今、企業とか行政で使っていくときは、しっかり吟味し、プロの力を使っていかないと。使い方を間違えると本当に個人情報が出てしまうかなと思います」
生成AIによって便利な世の中になるかもしれませんが、同時に危険性も併せ持っていることを理解しないといけません。
(関西テレビ「newsランナー」2023年6月28日放送)