吉村知事と私立高校校長が初めて“直接対決”! 大阪府の高校授業料『完全無償化』巡り 校長たち「“教育の質”低下する」「優秀な教師が大阪から消える」と直言 知事「8月目指し“より良い”制度案作る」 2023年07月03日
大阪府の吉村知事が実現を目指す高校授業料の「完全無償化」。授業料が「タダ」になる幸せな制度に思えますが、今、実現に暗雲が立ち込めています。一体、何が起きているんでしょうか。
6月30日、関西テレビ「newsランナー」に大阪府の吉村洋文知事と、「見直し」を求める私立高校の校長2人が生出演しました。今回の「完全無償化」問題では初めての直接話し合う形で、激論を繰り広げました。私立高校の校長らは学校側の負担が増えることで「教育の質が低下する」など知事に直接示唆、これに対し吉村知事は「質の低下などが起こらないよう、8月ごろまでに案をまとめて任期中の実現を目指す」と話しました。
ことし4月の大阪府知事選で吉村知事は公約として『高校授業料の完全無償化』を強く訴えました。
【吉村洋文知事】
「“私立高校”も、公立高校も授業料は完全無償化、全員が対象。これをやります。でも、これも増税でやるんじゃないですから、財政を立て直してやっていくんです」
実は現在も大阪府では世帯年収に応じて国や府が授業料を負担していて、800万円未満の世帯では60万円を超えた分の授業料などを学校が負担しています。
一方で今回、大阪府が発表した新たな制度案では所得制限が撤廃され、「完全な無償化」となるのです。 年収に関わらず授業料が“タダ”になる公約に府民からは歓迎の声が聞かれる一方で、私立高校側から「待った」の声が…というのも新しい制度案は一律60万円を超えた分の授業料などについて、全ての生徒分を学校が負担するというものだったのです。
これまで以上に金銭的な負担が大幅に増える私立高校は反発の声をあげています。
【私立 清風南海高校 平岡正校長】
「まさか本当にいきなり全部学校が負担しなさいよという話になるとは思っていなかったです…正直なところ」
【私立 興国高校 草島葉子校長】
「例えば私学でしたらマンツーマンとは言いませんけど少人数授業とかいろんなことやってるんです。公立ではないことを。今やっている“教育の質”を下げなきゃいけないんですよ」
■制度案を8月ごろまでに固めると話す吉村知事…私学校長がスタジオで“初対決”
負担が年間8000万円も増える私立高校もあり、強みである特色ある教育が難しくなることが懸念されることから、「新制度には入らない」といった声もあります。
しかし、この新しい制度案に入らない私立高校には、大阪府から授業料のための補助が一切なくなるため、家庭の負担が大きく増えることに…結果的に行きたい高校を選択できない子どもが出てくる可能性があります。
この制度案を8月ごろまでに固めると話す吉村知事ですが、課題は山積。大阪の子どもたちの未来のために双方が納得できる制度はつくれないのか?
こうした中、6月30日、関西テレビ「newsランナー」のスタジオで吉村洋文大阪府知事…
と私立高校の校長2人(興国高校・草島葉子校長と清風南海高校・平岡正校長)が今回の問題について初めて討論しました。
この『高校完全無償化』の新制度案について賛成か反対か、事前にアンケートしてみたんですが結果は…
賛成が38.1%、賛成だがもっといい案があるが32.3%。反対が29.6%という結果になりました。
まずは、『新制度案とオカネ』についてみていきます。
今の制度は、私立高校の60万円未満の授業料について、世帯年収に応じて一定額を各家庭が負担しています。60万円を超える分は年収800万円未満の世帯を対象に学校が負担しています。
一方、新制度になった場合、完全無償化になると…所得による制限がなくなります。60万円未満の授業料については全て国と府が負担。ただ60万円を超える授業料については、所得関係なく、一律、高校側が負担することになります。
吉村知事は、ここで関西テレビが説明に使ったグラフについて、実際と縮尺が違っているとした上で、独自のグラフを示し、ここまで学校側の負担の割合は大きくはないと説明し、印象操作だと言いました。
これに対し、私学の高校の校長たちは…
【興国高校・草島葉子校長】
「(標準授業料の)60万円のラインをペットボトルの”キャップ(ふた)”のようだと知事はおっしゃいますが、これが教育の封じ込めになってしまっているのです。実はキャップになっている60万円のラインを上げたいけれども、上げさしてもらってないない学校もたくさんあるんです。なぜならキャップとして60万円があるから。それから下が多いという問題ではなく…大切な問題がたくさん隠れている」
■新制度を『ラーメン屋の経営』例えると…「トッピングなくなります」
草島校長はラーメン屋の経営に例え、次のように述べます。
【興国高校・草島葉子校長】
「ラーメン屋の経営に例えます。1杯500円のラーメンを売って、行列ができる店になりました。ところが、ある日役所がやって来て『明日から300円で売ってください』と言われたら、どうなるでしょうか?上にのっているトッピングを削ったり、アルバイトの人を減らしたりしないといけない。学校の現場でも同じようなことが起こる。ただし、器を小さくして解決できないんです。目の前にある教育を小さくすることが教育の現場ではできないので、いま慌てて知事にお願いしているのです」
【清風南海高校・平岡正校長】
「知事が言う、“全員が無償化”という案は素晴らしいと思います。(知事の出した)フリップだと学校負担分が小さく見えますが、実際には私学の96校中41校が(授業料が」60万円以上で、その分が学校負担となっています。知事が示している案では負担がますます増えていくことになります。高校レベルの法人では、人件費が大部分の支出となりますが、そうなると今後支出の大きな部分(=人件費)をコントロールしていかなければならない…という議論が必ず起きす。恐れているのは、大阪府の府立学校の給与を下げていった経緯が過去にありましたが、その時に教員が集まらなかったり、管理職になり手がいなくなったりしました。ただでさえ教員のなり手が少ないので、今後、大阪は避けようという動きが出てくるのではないかと懸念しています」
こうした意見について吉村知事は…
【吉村知事】
「平岡先生の意見はまったく同感です。自分が大阪市長の時に、学校の先生の初任給は全国トップレベルまで上げたんです。もちろん教育の質は大切だと思うので、それを確保するために何が必要か…についてはしっかりと議論して深めていきたい。8月に案を作ろうと思ってますから、今が終わり(最終案)では当然ないですから、ここからきょうの先生方の意見も聞き、私学団体のみなさんの意見も聞いてますし、より良い制度を作っていけたら…子どものため、未来のためにやっていく制度ですから」
■“寄付”しやすいシステム構築を知事がツイート…しかし現場からは「?」の意見
ツイッターで吉村知事は、「私学の収入は税金と現在の学生のみで完結させるべきものなのか。私学独自の建学の精神に賛同する企業・個人・卒業生などが寄付しやすいシステムも構築すべきではないか」としています。 寄付という選択肢はどうなのでしょうか?校長2人はそれぞれ…
【興国高校・草島葉子校長】
「例えば私は同窓会長もしていますが、なかなか寄付が集まらない。(日本は)そういう風土なんです。それ(寄付)をやるならば税金の問題など国レベルで改革をやらないと、なかなかできないと思う」
【清風南海高校・平岡正校長】
「今後、少子化もあり、財政状況も厳しくなる可能性がある。そうした中、いろんな選択肢で収入を得る考えは持つべきだと思います。ただ、(吉村知事のツイートにあるような)寄付の文化はあまり定着していないと思います。寄付は安定的な収入の要素にはならない。実際に寄付をしている学校もあると思っていますが、寄付と言いながら”強制的”という面もあるのではないかなと…」
これに対し吉村知事は、「これからの『私学の在り方』という未来を考えた時に、1つは税投入がありますし、もう1つは現在の学生から負担をしてもらう。基本的にはこの2つですが、これからの未来を考えた時には、現在通っている学生の収入が十分でなくても、経済的に成長すれば将来的に寄付してくれるかもしれない。もっと企業や卒業生が寄付しやすい仕組みを考えるべきだと思う」と話しました。
新制度案で私学側に負担が増えることについてあらためて校長たちから意見が…
【興国高校・草島葉子校長】
「私学に負担があること自体そもそも…私学に負担をさせることは在学生に負担をかけるということなんです。寄付の話がありましたが、寄付してもらおうとしたらいい教育をやらなければいけない。教育の中身を下げたら、寄付の対象にはならない。そこのバランスをこれから大切に考えていかないきゃ(私学の経営は)大失敗しちゃうと。だから知事に『助けて頂きたい』ということを知事に申し上げたい」
【吉村知事】
「いまも私学団体のみなさん、反対意見いただいていますが、なんとか乗り越える方法はないのか?そういった意見も取り入れて、8月に(新制度の)案を作りたいなと思っています。いまの(案)が最終形ではない」
■一番の当事者「保護者」や「生徒」は“完全無償化”どのように思っている?
では、ここで、一番の当事者ともいえる「保護者」や「生徒」はこの完全無償化をどのように思っているんでしょうか?
【大阪府在住 高3の娘を持つ親】
「(制度案を)知らなかった。もう大々的に無償になると思ってました、全部が全部。それは(私立学校が)ちょっとしんどそうやなぁ」
【大阪府在住 中3の娘を持つ親】
「経営っていうかそういう感じで私立とかもしていると思うので、無償化にするんだったら、ある程度、公的なお金でしてもらえる方が、安心かなっていうのはありますね。どうなるか分からないっていうのが一番怖いので、もう(完全無償化を)するならする、しないならしないで、はっきりしてほしいなと思います」
【奈良県在住 中2の娘と小5の息子を持つ親】
「同じ高校に通う中でも、大阪の人は無償化だけれども、奈良の人はお金払うっていうことになるんですか?それは不公平だと思います。やるんであれば例えば近畿ですとか、もっと幅広く全国でやってもらった方が不公平はなくなると思います」
私立高校に通う生徒は完全無償化についてどう思っているのでしょうか… 学校から提供された学習システムで勉強するのは、浪速高校の特進クラスに通う阪口壱心さん(16)です。
【阪口壱心さん】
「自分のクラスで教えてくれている先生は、やっぱり質が高い先生ばかりで、この先生が1人、2人って削られていったとした時に、このままの成績がずっと保てるかって言ったら絶対そうではないと思う」
母親のめぐみさんは、新たな制度について、「年収の高い世帯は、授業料で60万円を超える部分を保護者が負担する形の無償化制度でも良いのでは」と考えています。
【阪口めぐみさん】
「完全無償化については、保護者にとっては本当にありがたい制度だとは思っているんですけれども、それが学校側の経営負担になったりすること=最終的に子供たちへの負担だったり、のしかかってくるのではないかという不安が…保護者として大きな懸念があります。多少の金額を払ってでも、その学校の特色あるいい教育をさせてやりたいっていう気持ちはあります」
■吉村知事は「教育の質が下がりましたとならないようにする」
「完全無償化」の実現にともなって起きる制度のひずみ。 街の保護者からは、「年収が高い世帯は、ある程度家庭負担してでも、質の高い教育を受けさせたい」という意見がありましたが、これについて吉村知事は…
【吉村知事】
「意見はごもっともだと思います。教育の質が下がるぐらいだったら、(完全無償化を)やめてもらいたい、質が下がるくらいなら家庭負担する、当然そういった意見もあると思います。我々も教育の質を下げたいと思っているわけではありません。大阪の財政も立て直して、なんとか財源を生み出して、未来の子供たちのために(完全無償化を)やろうと思ってるわけです。それで教育の質が下がりましたとならないようにしっかりとやっていきたい」
と述べました。
【清風南海高校・平岡正校長】
「もともと橋下知事の時、平成22年度に就学支援制度支援金制度ができたと思うんですけど、その時キャップが58万だったんです。低所得の家庭の子供でも私学に行けるようにということでした。制度ができたおかげで確かに私学に来る生徒がたくさん増えました。その頃から学校は一部、お金を負担していますが、それは私学側も納得して、誰でも行けるようにということで協力してきたわけです。それはある意味“理にかなっている”と思います。しかし今度の案は、学校負担が増える部分というのは、所得の高い方が対象(が得をすること)になってくる」
【興国高校・草島葉子校長】
「私立学校(の経営)は大変なんですよ。これぽっちのお金と知事は言われるけど、私立学校にとってちょっとであろうと、たくさんであろうと“負担は負担”です。やはり今あるものから、節約できるところはしますが、一番かかっているところ(人件費)を削らないといけない。削った時には、知事が言うような寄付は成り立ちません。 教育の質は間違いなく下がりますよ」
視聴者からの質問です。
「Q.無償化に賛同しない学校に通っている場合、今受けている授業料の支援金もなくなる?」
【吉村知事】
「これはなくならないです。いま通っている方に不利益が起こるようなことは絶対しません。新制度は僕の任期中にやりますから…」
■“初対決”の激論は約30分続き…吉村知事は
■“初対決”の激論は約30分続き…吉村知事は
【興国高校・草島葉子校長】
「私から1つだけみなさん、府民の方にも知事にも分かってもらいたいことがあります。なぜ私学の授業料が高いのかという問題があるんです。今大阪の公立高校は統廃合が進んだりして、トップの公立校は競争倍率が高いんです。一生懸命勉強した子供が落ちることもある。落ちたとき、学力に合った私立に行きたいとなって、そういう私立は7時間目・8時間目も授業があったりして、授業料が高いんです。
だけど、もし今の無償化の案が通っちゃうと、一生懸命勉強したけれど落ちた子で経済的に苦しい子は、新制度から外れた私立の場合に支援を受けられなくなるんですよ。これは全体のバランスとしてまずいなと思います」
“初対決”となった今回の議論はおよそ30分続きました。最後に吉村知事は…
【吉村知事】
「新制度からできるだけ(私学高校が)外れることがないようにする案をしっかり作っていきたい。私立でも公立でも『この学校に行きたいな』と(子どもたちが)思えば、その道が開かれている社会を、僕は絶対に目指すべきだと思うんです。(新)制度の趣旨はご理解いただいていると思っていますので、より良い案を作って子どもたちのために しっかりと作っていきたいと思います」
と話し、8月ごろまでに新制度の案をまとめたいとしました。私学高校からの「見直し」の声なども生かした新制度案は作られるのか?引き続き、議論などが求められます。
(関西テレビ「newsランナー」2023年6月30日)