福島第一原発 “処理水”海洋放出へ IAEAが「国際的な基準に合致」と報告 中国は「海は日本の下水道ではない」と“反発” 「1年毎日飲み続けても計算上問題ない」と専門家 2023年07月04日
福島第一原発の処理水の海洋放出について、4日午後4時ごろ、岸田総理はIAEA=国際原子力機関のグロッシ事務局長と面会し、安全性の評価を盛り込んだ「報告書」を受け取りました。政府はこの報告書などをふまえて、放出の時期を最終判断するとしています。
■福島第一原発では処理水の海洋放出に向け準備進む
6月26日、福島第一原発の沖合では、約1年半にわたる掘削作業を終え、処理水の放出トンネルが完成しました。福島第一原発を冷却するのに使われ汚染された水は、ALPSという除去設備でほとんどの放射性物質を除去した上で、水からの分離が難しいトリチウムという物質だけが残った「処理水」となります。「処理水」は福島第一原発の敷地内で保管されていますが、容量が限界に近づいているため、国の排出基準の40分の1程度まで薄めて、この夏にも海に放出する計画です。
【福島テレビ 石山美奈子記者】
「ALPSで処理された水は、こちらの黒い配管を通りまして、こちらの水色の大きな設備で海水と希釈されます」
この設備は6月下旬に国の原子力規制委員会による使用前の検査を受けました。合格すると設備が使用できるようになります。
IAEAもこれまでに現地の確認を行っていて、政府は4日に手渡された報告書で、国際的な安全基準を満たしていれば、世界の国々の理解を得られるという考えですが、近隣諸国からは反発の声が上がっています。
4日、中国の呉江浩駐日大使は「特別会見」を開き、「IAEAの報告書は海洋放出の許可証ではない」との声明を発表して強く反発しました。
【中国 呉江浩駐日大使】
「日本側の海外放出は結論ありきだ。IAEAが結果を出す前に日本政府は放出をとっくに決めている」
また韓国では、最大野党「共に民主党」がソウルで処理水放出に反対する大規模集会を開催しました。
【韓国・ソウルでの集会】
「福島汚染水の海洋放出を即刻撤回しろ!撤回しろ!撤回しろ!」
処理水が放出される前に、塩を確保しようとする消費者も多く、ソウルの一部のスーパーでは海水から作る塩などが売り切れになっています。
風評被害をどう防ぐかが肝心ですが、国内でも誤解されかねない発言が…
【公明党 山口那津男代表】
「(放出は)まあ直近に迫った海水浴シーズンなどは避けたほうがいいのではないかと思っています。もちろん水産に携わる方はかねてから非常に懸念を持っていらっしゃいますから、風評を招かないように慌てないでしっかりと説明を尽くしていただきたいと思います」
この発言について松野官房長官は“夏ごろ”の見込みとする政府の方針に「変更はない」と述べました。
■10年以上、福島の海の放射性物質について研究している福島大学・高田准教授に聞く
ここで速報が入りました。岸田総理と面会したIAEA=国際原子力機関のトップ、グロッシ事務局長が4日午後5時すぎに会見を開き、福島第一原発の処理水の安全性について、「国際的な安全基準に合致している」とする報告書を提出したことを公表しました。
福島第一原発の処理水を、政府は夏にも海に放出する方針ですが、この処理水の安全性を、私たちはどう理解すればいいのでしょうか。10年以上にわたり福島の海の放射性物質の変化について研究されている、福島大学の高田兵衛准教授に聞きました。
まず速報でお伝えした通り、IAEAの報告書で「国際基準に合致する」とされたとのことですが、これについていかがお考えでしょうか。
【福島大学 高田兵衛准教授】
「今後はこれをもって、周辺各国にグロッシ事務局長が説明に周って、理解をしていただくことになるのではないか。そして政府の判断で放出時期を見極めていくのではないかというふうに考えています」
高田准教授は、政府や東電と違った第三者的な立場でこれまで研究されてきたということですが、どんな研究をされてきたんでしょうか?
【福島大学 高田兵衛准教授】
「私はこれまで漁師さんの協力等を得て、漁船を使って福島第一原発の周辺で、政府そして東電さんがモニタリングを行っている同じような場所で、海水そして海産物を取って、セシウムやトリチウムといったものの分析をずっと続けてきました」
■トリチウムはもともと身の回りに広く存在 厳しく管理された処理水は“安全”と言えるレベルにある
まず処理水の安全性についてみていきます。「処理水」とは、ALPSという除去設備で放射性物質などを取り除いて、トリチウムだけが残った水のことを呼びます。この処理水を海水で薄め、約1キロある海底トンネルを通って放出する予定です。処理水のトリチウムの濃度は、国の基準の40分の1未満となっています。このような工程を経て放出される処理水は安全と言っていいのでしょうか?
【福島大学 高田兵衛准教授】
「そもそもトリチウムは我々の身の回りにも広く存在していて、例えば水道水の中に含まれているトリチウムは、海の濃度よりも高いということが分かっています。今回は国の基準よりもさらに低い数値で海洋へ放出していくわけなんです。私は海の放射能の動きを専門としていますが、海に放出されたとした場合、速やかに希釈・拡散していくわけなんですね。そうすると最終的に人への影響というものは極めて低いというふうに考えています」
「放出する前に、かなりチェックを進めて、この濃度がちゃんと正しい数値であるか何重にも調査をしています。それに加えて必ずIAEAの評価もいただいた上で、やっていますので、それはまずかなり厳しいチェック体制でしているということは分かっています」
トリチウムは身の回りにあるものなんですか?
【福島大学 高田兵衛准教授】
「実はトリチウムというのは、原子力発電所以外にも、天然・自然界にも結構多く存在しています。先ほども言いましたが実はトリチウムの濃度は水道水の方が海よりも高いんです。かなり身の回りにあるものだと認識していただければと思います」
海洋放出をした場合、魚の体にトリチウムは蓄積されることになるのですか?
【福島大学 高田兵衛准教授】
「蓄積ということは、どんどんたまっていくということですが、実はトリチウムは蓄積することはないということが分かっています。海水の濃度が例えば10 あったとしたら、魚の中も10 なので、蓄積していくのであれば20、30…となるはずですが、そういった濃度がたまっていくことは、これまでの研究では「ない」ということが分かっています。かなり薄まった形で魚の方に多少は入っていきますが、それを我々が食べたとしても影響というのは非常に低いということは計算で分かっています」
ここで関西テレビ「newsランナー」視聴者からの質問です。
「Q.どれぐらい薄まれば、口にいれても大丈夫?」
【福島大学 高田兵衛准教授】
「今回1500ベクレルの濃度にして海に放出するということなんですけれども、1500ベクレルのトリチウムを含んだ水を、例えば毎日1年間飲んでとしても、被ばくに関して計算をすると、かなり影響は低いということが分かります」
「Q.処理水は何年で全て処理できるの?」
【福島大学 高田兵衛准教授】
「今たまっているのが、800兆ベクレルというトリチウムが、ALPS処理水のタンクの中にたまっているんですけれど、これを約40年かけて処理していくことで、今進めているということです」
■漁業関係者の理解・周辺国の理解が課題
クリアしなくてはならないハードルがあります。6月22日、全国漁業協同組合連合会の会長が西村経済産業大臣と面会し、「もしも放出するというようなことがあれば、(国に)しっかりと全責任を将来にわたって持ってほしい」と話しました。高田准教授は漁業関係者の方の協力のもとで研究もされていますが、現場の方の生の声は伝わっていますでしょうか?
【福島大学 高田兵衛准教授】
「“補償”という話も当然出てくるんですけれども、やはり漁師さんが言うのは、『次世代に漁業が続かないことが非常に心配である』ということです。漁業が止まってしまうと、次世代が学んでいく機会も失われてしまいますので、そういった部分、説明をしっかりしていかなければならないというのも重要な課題だと思っています」
ハードルは他にも、海外からの批判の声があります。日本海を隔てた隣国、韓国や中国からは厳しい声が上がっています。
中国は6月7日「海は日本の下水道ではない」と批判しています。
韓国は6月に最大野党「共に民主党」が、大規模な反対集会を開きました。どうしてこんなに反対しているのかについて、龍谷大学の李相哲教授によると、「来年の総選挙で尹大統領を倒すため、海洋放出を政治利用し、反日感情をあおっているだけ」だということです。
【関西テレビ 加藤報道デスク】
「実は韓国国内では、日本で報じられてるような徴用工や慰安婦問題よりも、この海洋放出の方が国民の関心が高いんです。対応を間違うと政権を揺るがすかもしれない大きなトピックなんです。5月に韓国の首相がIAEAの事務局長に直接会って、『検証をちゃんとやってください』みたいな要請をしています。今回グロッシ事務局長も日本を離れた後 、7日から韓国に行って説明をするということなので どう受け止められるかに注目です」
韓国でIAEAのグロッシ事務局長が丁寧な説明をできるかどうかは重要ですね。
【福島大学 高田兵衛准教授】
「今回の報告書作成にあたっては、中国・韓国といった各国の専門家も集まって、この報告書を作成しています。やはり韓国でもちゃんとした議論はされている中で、IAEAのグロッシ事務局長が丁寧な説明で、理解をしていただくことが重要ではないかと考えます」
■「丁寧な説明で信頼を得ていくことが大事」と専門家
海洋放出に海外から批判や疑問の声が上がっていますが、世界の原発から出る年間のトリチウム量を表したグラフがあります。福島第一原発が放出するとされる処理水は22兆ベクレル未満ですが、中国や韓国の原子力発電所から出ているトリチウム量より、かなり少ないことが分かります。
【福島大学 高田兵衛准教授】
「福島第一原発の事故前でも、トリチウムを含んだ水は放出されていたんですけれど、今回はその処理水ということで、薄める前からかなり厳格に管理をされて放出しています。それに加えて量的にも各国に比べると低い状態で放出することになります」
安全性を他国にどう理解してもらい、批判を乗り越えていくにはどうしたらよいのでしょうか?
【福島大学 高田兵衛准教授】
「そうですね、やはり今回は丁寧な説明で信頼を得ていく。そのためには厳格な管理、そして放出するまでの説明というのを、何度も丁寧に説明していく。特に漁業関係者を含めて、理解を得られるような形で説明していくことが大事だと考えています」
「処理水」について、正しく理解することが大事です。岸田首相も「丁寧な説明と情報発信を行っていく」と話しています。
(関西テレビ「newsランナー」7月4日放送)