子どもを性犯罪から守る“日本版DBS” 導入したらどう変わる? 学校以外の塾やジムは? 教師からの”性暴力”被害者は「疑う発想なかった」 専門家「対象をどこまで広げられるかにかかっている」 2023年08月23日
子供を性犯罪からどう守るのか。その切り札ともいえる制度の議論が大詰めを迎えています。導入で何がどう変わるのか、課題は何なのか。当事者たちの声を聞きました。
■ 国が管理する「DBS」とは
子どもと接する職場で働く人に性犯罪歴がないことを確認する新たな仕組み「日本版DBS(Disclosure and Barring Service)」。国が性犯罪歴を登録したシステムを管理して、学校や保育園などは就労を希望する人の性犯罪歴を事前に照会し、問題がなければ国から無犯罪証明書が交付されます。前歴がある人は就職できない仕組みを想定しています。
政府が制度の参考にしたイギリスでは、子どもと1日2時間以上接する仕事を希望する人は、性犯罪歴がない証明書を発行してもらい、雇用主に提出することを求められる制度になっています。
過去に性暴力を受けた当事者は、DBSの導入に期待を寄せています。石田郁子さん(45)は15歳の時からおよそ5年間、中学校の教師から性暴力を受けていました。
【中学教師から性暴力を受けた石田郁子さん】
「尊敬する対象にもなりうる人を疑う発想がないので。子どもの時は性的な知識が少ないっていうのもあるんですけど…」
加害者の男性教師はその後、学校を懲戒免職になりました。石田さんは、こういった加害者は2度と教育現場で働くべきではないと思っています。
【中学教師から性暴力を受けた石田郁子さん】
「なるべく加害者がそういう(子どもたちがいる)場所に行かないようにする。加害者にとっても、よく職業選択の自由って言われますけど、また犯罪をしなくてもいいということで実は本当はその人たちにとってもいい仕組みだと思う」
性犯罪をめぐっては、子どもが被害者となる小児わいせつ型の再犯率はおよそ85%と高く、内閣府によると、被害者と加害者の関係で最も多いのが「学校関係者」で29.3%だということです。
【性犯罪の被害者支援に詳しい・上谷さくら弁護士】
「スポーツの場合は、指導者が強い力を持っていて子どもたちが一生懸命ついていく状況が生まれることが多いです。また、幼いので被害だと分からず、発覚が遅れることもあります」
■ 保育園や保護者からは賛成の声
子どもを預かる保育園や保護者からもDBS導入に対する賛成の声が聞かれました。
大阪市西区の認可保育園では 園長を含む職員21人が働いています。
【西区南堀江保育園・猪又洋祐園長代理】
「信頼できる職員を入れたいという部分があるので、経歴書だけでは見られない部分を日本版DBS導入で見られたらなと思いますね」
【保護者】
「先生のことはもちろん信頼していますが、日本中見たらそういう事件もたくさん起きてるので。法律で決めてもらったら、こっちも先生により疑いの目もなく安心して預けられるので良いと思う」
一刻も早い制度の導入が望まれる一方で、まだ議論が続いている部分もあります。それは、対象とする事業や職種をどうするのかです。学校や保育所、幼稚園など資格が必要な職種のほかに、学習塾やスポーツジムなどについても対象にすべきか検討が進められているのです。
そういった職種は制度の参加を任意にするといった意見も出ているということですが、子育て支援を行う認定NPO法人「フローレンス」の駒崎会長は任意では不十分だと主張します。
【認定NPO法人フローレンス・駒崎弘樹会長】
「子供達を守っていくためには、塾や習い事も日本版DBSの対象にしていくべきだと思います。学校や保育園では勤められない。じゃあ、ゆるい塾や習い事に行けばもっと触れ合えますよね。ということでそちら側に性犯罪者が流れていってしまうという恐れがあります。これから新しくイギリスのような仕組みを作ろうというのに、わざわざ穴を作る必要はない」
駒崎会長は、すべての職種を日本版DBSの対象とするよう国に求めていて、今月10日から始めたインターネットの署名は、7万を超える数が集まっています。
大阪府枚方市の学習塾からも、制度の対象にしてほしいとの声が聞かれました。
―Q:講師を募集した場合、見抜く方法や対策などありますか?
【個別指導Wam 堀野満教室長】
「正直な話で申し上げますと、そういったものを見抜く術は持ち合わせておりません。性犯罪者の方が、塾の経営をやろうと思えばできてしまうというのが実情だと思います。通わせる保護者さんの立場からすると、絶対に必要なシステムだと思いますので、ぜひ検討してほしいと思います」
国の有識者会議は、9月にも意見を取りまとめる方針で、子ども家庭庁は関連法案を早ければ秋の臨時国会に提出する見通しです。
―Q日本版DBSの効果についてはどのように考えますか。
【性犯罪の被害者支援に詳しい・上谷さくら弁護士】
「効果はあると思います。前科がある人は、そのような職場にアクセスしづらくなりますし、そのような人を雇ってはいけないという法律になると思うので、(性犯罪を)一定数減らす効果が期待できます」
一方で、政府は塾やスポーツクラブなどの習い事への適用は「国の管轄ではないのでDBS義務化は難しい」と考えています。手上げ制にしてDBS導入施設に「認証マーク」を付与する案も出ていますが、前科があり教師や保育士になれなかった人もDBS導入しない施設には入れてしまうのではと懸念しています。
【性犯罪の被害者支援に詳しい・上谷さくら弁護士】
「実効性を考えると(DBSの対象に)入れてほしいですが、国家資格が必要ない場所もあり、どう国が把握するのか網のかけ方が難しい部分があります。どういう制度にするかもう少し考えないといけない。自発的に導入していることを示すマークを国からもらえると、親御さんも安心できる材料にはなると思います」
今回の「日本版DBS」は不同意性交や撮影罪など「刑法犯」で前科になった人が対象となっていますが、痴漢や卑劣な言動など条例違反や示談で前科がつかない人はどうなるのか。性犯罪歴があるのにDBS上は「前科なし」という人が出てくる可能性については…
【性犯罪の被害者支援に詳しい・上谷さくら弁護士】
「制度がうまく機能するかどうかはこの部分にかかってくると思います。証拠が足りなくて刑法犯から条例違反に落ちてしまうことも多いのです。条例違反を対象外にすると取り締まれる範囲が限られてします。犯行を重ねているのに子どもが被害に気づかず、前科がないこともある。こういう被害から子どもたちをどうサポートしていくかが最大の問題だと考えています。また、『対象外にすべき』という声もある理由としては、条例違反は各都道府県で中身がバラバラなので、同じことをしても有罪になる時とならない時があるからだと言われています。ただ、条例違反も前科なので、対象に含めてほしいと考えています」
(2023年8月23日 関西テレビ「newsランナー」放送)