身寄りのない高齢者のサポートを行う民間事業の需要が高まっています。その一方で契約をめぐるトラブルの相談が後をたたないことを受け、国が本腰を入れてルール作りに動き出しました
■1人暮らしの高齢者の増加 ニーズ高まる「サポート事業」
少子高齢化の進行ともに増え続ける独り身の高齢者。厚労省によると、1人暮らしをする65歳以上の高齢者は、2001年はおよそ318万人だったのが、2022年にはおよそ873万人と倍以上、増えています。
そんな状況の中、需要が高まっているサービスが、民間が行う高齢者のサポート事業です。
サポートの内容は大きく分けて3つあります。
▼身寄りのない高齢者が入院や施設に入所する時の「身元の保証」。
▼日々の買い物支援などを行う「日常の生活支援」。
▼利用者が亡くなった後に行われる「死後の事務」です。
実際にこのサービスはどのように活用されているのでしょうか。神戸市に住む杉山さんは、夫の死をきっかけにサポートを受け始めました。
【杉山裕美さん(62)】
「子供もいませんし身内もいないので、一人っ子ですので、自分がもし病気になったらどうしよう…と」
自分が倒れて動けなくなった時に備えて、50代半ばでサポート事業を行う「和讃の会」に入会しました。入会金3万円、月会費5,000円ほか…です。
【杉山裕美さん(62)】
「去年コロナになったんです。自宅待機の状態でしたけども、和讃の会に連絡して『もし入院とかそういうことになったら(身元保証を)お願いします』ってお願いしたら快く受けてくれたので、ものすごく助かりました」
■高まるサービス需要 一方で監督する省庁や法律がない
サービスの需要が高まる一方で、それを監督する省庁や法律はないのが現状です。料金設定なども事業者によってバラバラで、全国の消費生活センターには年間100件を超すトラブルの相談があります。
【相談の内容】
「勧められるままサービスを追加したら高額になった」「解約時の返金をめぐってトラブルになった」
実際にサポート事業を行う会社も、国のルールがない現状に不安を感じています。
大阪市に本部を置く「献身会」。およそ650人の会員がいて40人の支援員らが毎日、高齢者をサポートしています。
【献身会・山下博正代表】
「本当に家族の負担を減らして、あるいは介護現場・医療現場の負担を減らすことによって、サービスという形で事業としてやっていけるような、そういうシステムを作っていただければ」
こうした実態を受け、岸田首相は7日、高齢者が安心してサービスを利用できる仕組み作りなどに取り組むことを表明しました。 今後、ますますニーズの高まりが予想される高齢者のサポート事業。深刻な契約トラブルの実例と、その回避策を考えます。
■サービス内容は身元保証・日常生活支援・死後の事務 費用は平均147万円
専門家に聞きます。高齢者サポートサービス事業に詳しい日本総研の沢村香苗研究員です。 いまトラブルが多発している「家族代行サービス」とは、どのようなサービスなのか、あらためて見ていきます。
“家族代行”と言われる高齢者サポートサービスは、具体的にこのようなサービスがあります。
まずは「身元保証」、入院や施設に入所する際に必要になるケースが多い身元保証や緊急時の連絡に対応してくれます。 そして「日常生活支援」、買い物支援や病院への付き添いなどをしてくれます。 他にも「死後の事務」、亡くなった後の葬儀や納骨、遺品整理などを行ってくれます。
何を利用するか、どこの会社と契約するかによって差はありますが、平均費用は147万円ほどだそうです。沢村さん、このようなサービスを行う事業者が、なぜ増えているのでしょうか?
【日本総研 沢村香苗研究員】
「かつては3世代同居などで、若い人が上の世代のお世話もできました。ですが今、お子さんがいらっしゃらないとか、単身の方とか、お子さんがいても遠くに住んでいる、あるいは高齢化でお子さんの方が先に亡くなってしまう。そういった事情で身近な人に手助けを求められなくなっています。今まで家族がやっていたような諸々のことを代行するのが事業者になります」
平均費用は147万円ということで、このくらいの価格帯が多いのでしょうか?
【日本総研 沢村香苗研究員】
「国民生活センターでは、そのように調べてるということですが、厚労省は『平均が出せない』ということで把握しきれません。まちまちです。
(Q.相場は?)まだまだサービス自体が広がっていないので、相場はないと言っていいです」
視聴者からの質問です。
Q.すでに困っている高齢者の生活をサポートする「公的なサービス」はないのでしょうか?
ということですが、現在あるのはこのような制度です。
介護を必要とする高齢者を支える「介護保険制度」。 そのほか知的障害・精神障害・認知症などによって、1人で決めることに不安や心配のある人が、契約や手続きをする際にお手伝いする制度「成年後見制度」などです。
【日本総研 沢村香苗研究員】
「どちらの制度も、誰でもが使える訳ではありません。例えば要介護の認定を受けているとか、判断能力が低下しているといった資格・認定のようなものが必要ですね。なにも問題がない方は使えませんし、介護保険制度は心身のケアが対象ですし、成年後見制度は大きな財産の取引が対象というように、やれることにも限りがあります。日常のサポートなどの身近な内容を頼めるわけではありません」
■高齢者サポートで発生するトラブルの背景に「複雑な契約」
では、この高齢者サポート家族代行サービスについて、どのようなトラブルが起こっているのでしょうか。
国民生活センターに相談があった実際のトラブルです。80代女性が「1時間3,000円の付き添いサポート」を契約したいと言ったところ、「月額1万円で24時間サポートを付けましょう」と勧められ、結果的に入会金など30万円プラス月額1万円の契約になってしまったというトラブルです。女性の言い分では「知らなかった」ということです。
沢村さん、このようなトラブルが多いという印象ですか?
【日本総研 沢村香苗研究員】
「数として正確には把握できませんが、複雑な契約になりがちで、こういうトラブルも多いと思います」
事業者のサポート内容が”追加”されていくことについて、それが事業者の善意か悪意か…の見極めも難しいですよね
【日本総研 沢村香苗研究員】
「悪意を持っている事業者はないと思うのですが、やはり『このサポートも必要、あれも必要』と後になって増えることはあると思います。利用者側も例えば『死後の事務手続きだけをやってほしい』と言っても、じゃあその方が亡くなったことをどうやって把握するの?という場合には、当然“見守りサービス”も必要になります。 利用者側が希望するサービス内容が、事業者からすると『それは追加しないとできませんよ』みたいなことがあって、そういったことを理解できないとトラブルになります」
■トラブルに遭わないよう“早めの準備”を 「何を頼みたいのか」明確化が重要
高齢者サポートサービスを行う”事業者”に注目すると、このような内情があることがわかりました。 善意なのか悪意なのか、判断が難しいということですが、事業者の内情について、総務省の調査では、契約に際して、重要事項説明書の作成をしていない事業者は、約78%ということです。また、事業者の規模は、従業員数が10人未満というところが約76%でした。
沢村さん、明確なルールや規格などはまだ整備されていないというのが現状でしょうか?
【日本総研 沢村香苗研究員】
「そうですね、ないです。
(Q.資格もないのですか?)事業運営にあたって必要な資格はありません。極端に言えば、電話番号ひとつあれば事業者になれてしまいます。
(Q.規模が小さいことの弊害は?)いつでも駆け付ける…というサポートがきちんとできるのか、など体制の不安がありますし経営の脆弱さは常にあると思います」
それでは、利用する側は何を意識したらいいのでしょうか?
【日本総研 沢村香苗研究員】
「自分が何をして欲しいのか、それにはいくらかかるのか?そういう基本的なことを確認することが大切です。事業者側になんでもお任せすることはできません」
こういうサポート体制を作ることは、個人でも家族でも難しいものです。民間、自治体も含めて探っていくことが必要と言えそうです。
【関西テレビ 加藤さゆりデスク】
「この問題について、地域福祉に詳しい四天王寺大学の吉田祐一郎准教授に話を聞きました。例えば、自治体が(事業者について)“認可していく制度”みたいなのがあってもいいんじゃないかと話をされていました。そうすると、いざという時に介入もできますしね。 現時点では、サービスの多くは社会福祉法に基づいていないものが多いです。なので、自治体が入っていくと、そういったところのチェック機能も働くかもしれないですね」
ここで視聴者から届いた質問をご紹介します。
Q.私たち夫婦には子どもがいません。将来どこを頼ればいいでしょうか?
【日本総研 沢村香苗研究員】
「今までみたいに家族がいれば、どこに頼るべきかなんて考えなくてよかったです。どこかの事業者が1カ所で全部を引き受けることはありません。何を頼みたいのかを明確化する。法律の専門家に頼るとか、自治体に頼るとか、そんな整理をしていくことが必要になると思います」
自治体もですし民間の事業もですし、公的サービスも含めて安心してサービスを受けられる体制を整える必要があると思います。
(関西テレビ「newsランナー」9月6日放送)