高齢者のイメージのある「老害」という言葉の対象が、若い世代にも広がっているということで考えたいと思います。
労働社会学者で「若き老害」という言葉を提唱している常見陽平さんに詳しく聞きます。
「若き老害」という言葉を提唱されていますが、どういう人たちを定義する言葉なのでしょうか?
【労働社会学者 常見洋平さん】「文字どうり、20代から40代ぐらいの職場で老害と化してる人という。いわゆる今までの老害みたいに、年齢が上でもないし、高圧的な態度でもないのですが、確実に若い人の芽を摘むんでいて、若い人たちの壁を担っている、非常に職場の面倒くさい存在です」
■若手を理解している気持ちになってずれている「若き老害」
常見さんが考える「若き老害」について、具体的に見ていきます。
職場にはびこる「若き老害」あるある。
1.「あの大型契約、実は俺やで!?」など、仕事の武勇伝を語る。
2.「コロナ前はさぁ…」などと、コロナ前の話をやたらとする。
3.「先輩の酒なくなったの、気づけよ!」など、飲み会のふるまい方での説教。
4.「お前の気持ちもわかるよ…」など、若手を理解している気でいる。
【労働社会学者 常見洋平さん】「20代後半に多いパターンとして、いつの間にかコロナ前の事がマウンティングになっていて、威圧的で、『そんな事言われても、僕らどうしようもない』という話をしてしまう。また、飲み会では『昔はこんな恥ずかしい宴会芸したぞ自慢』みたいなものも、今はセクハラやコンプライアンス的にアウトですが、武勇伝とセットにように出てきます。さらに『気持ちわかるよ』と言いつつ、ずれている場合や、あるいは『お前も俺と一緒だな』みたいに、頭まで筋肉でできたようなパワハラ上司から、『お前も頭脳派だな』って言われたら、もう何も救われないですよね。ずれているという事を自覚していないというのがポイントです」
「一部は大事なことなんだけど、その背景だとかを語られずに、『お前それやめとけ』っていうと、単なるうざい説教になってしまう。(Q.どうやって伝えたらいい?)『それだと○○さんにとって良くないよね』のようにやんわり伝えるか、その場ではなくて後で伝えるなどが結構大事です。トイレに抜けた時にささっと、『今のちょっと良くなかったよ』と伝えるとか、そういうことが大事だと思います」
■老害の若年化の原因は「世代間ギャップが細かい」「人事制度」
番組の竹上キャスターは今年32歳で、「入社1、2年目の後輩をプライベートの時間にご飯や旅行に誘っている」 と現在、自分自身がその過渡期であると話ました。
【労働社会学者 常見洋平さん】「いい先輩と老害のはざまみたいな感じです。いつの間にか、『竹上会』に呼ばれた、そんなふうに呼ばれてますよ。(Q.気を遣わせたら良くないって事?)そういうことです。あと『声かけられてない私って何』ってなったりとか」
老害が若年化しているのは、どうしてなのでしょうか?
【労働社会学者 常見洋平さん】「いくつかの要因があって、まず世代間ギャップが非常に細かくなってきているということです。あと、実はポジティブな面でもありますが、若手にどんどん仕事を任せるようになって、人事制度上も20代の管理職が生まれるようになったことで、成長のスピード感が違うので、気をつけないと老害化してしまうということもあります。若い人たちに常識がないのではなくて、常識が異なるのです。だから非常識ではなく、異常識と僕は呼んでいます」
事前に「newsランナー」では、若き老害について、LINEで視聴者にアンケートを取りました。
‐Q:老害になっていると思うことがある?
老害になっていると思うと答えた人は45%、そう思わないと答えた人が55%という結果でした。
【労働社会学者 常見洋平さん】「ないと答えた55%の半分ぐらいが老害だと思います。きょうの放送も『きょう俺のことやない』と思って聞いてると思います。自覚がない。いつの間にか、『俺は良かれと思ってやってる』というのが一番の老害仕草です。ジェネレーションギャップが激しいから、理解し合うという想像力が大事だと思います」
■20代後半ぐらいで「昔話、自慢話、説教」
どんな人が「若き老害」になってしまうのでしょうか?
・世の中環境の変化についていけない人
・変化に敏感でない人
・同期が出世して劣等感を抱いている人
【労働社会学者 常見洋平さん】「同期が出世して劣等感もありますが、出世しすぎて、逆に言うと若い人の気持ちが分からなくなっている人もいます。人事制度が変わっていて、若手で抜擢や、最近20代でも1000万円もらえる日本の大企業が増えてきていて、課長部長になれる会社があることで、そのスピード感の違いも正直あります。実は茶化した言葉のようで、非常に合理的に生まれてきてしまっているという現状です」
(Q.劣等感を抱く人はなぜ老害に?)「後輩ばかりちやほやされたり、同期が出世しているのにと、ついつい若手の芽を摘んでしまうことがあります。必ずしも高圧的ではないのが若き老害の特徴で、親しく触れ合っているようで、確実に心を折っていたり、職場で怒鳴りちらすのではなくメッセンジャーでチクチク攻撃します。なかなかそのあたりが面倒くさいです」
さらに常見さんは「若き老害」の行動パターンは「昔話、自慢話、説教」だと言います。
【労働社会学者 常見洋平さん】「本来、50代、60代がやりそうな仕草ですが、若い人も昔話、自慢話、説教を20代後半ぐらいでしてしまっています」
■老害と思われないためには、「相手の合理性を認める」
若き老害と言われないためには、どうすればいいのでしょうか?
10代、20代の若者の声を取材しました。
【20代男性】「自分は仕事しないで、僕たちに押し付けるのに、やれやれだけ言って、自分はやらないみたいな。自分もやってる所を見せて、お前らもやれよみたいなところを、やってもらえたらいいのかなと思います」
【20代男性】「こっちの意見に立って、考えてほしいなあっていうか。30代の人から見た時の20代と今の20代でも全然違うのかなって」
【10代女性】「頭ごなしに『それやめて』とか、『なんでそんなことしたん』とかじゃなくて、どうしてほしかったのか、優しく言ってくれたら私たちだって対応できるのにな」
【20代女性】「教えられてないことでも、これはこうだからみたいに言われちゃって、普通に教えてくれれば、こっちもやるのにな」
【20代女性】「それこそ、普通に教えてほしいです、丁寧に」
■自分の老害ぶりを測る「マッチングアプリ」の話
世代的には、若き老害よりも上の世代ですが、どうですか?
【関西テレビ 神崎報道デスク】「僕なんかもうリアル老害だと思うのですけど…。昔話や説教は、度が過ぎるとパワハラと認定されてしまう恐れもありますので、それを恐れてしまって、なるべく若い人と会話しないようにしようとか、自分を閉ざしてしまうようなことがあります。個人的に思うのは『老害』という言葉はちょっとキツすぎないかと、他にいい言葉がないのかなと思います」
コミュニケーションを取らなくなってしまうのは、良くないかもしれません。
【労働社会学者 常見洋平さん】「それは良くないので、とにかく相手に対して話すよりも、聞くことを重視することと、あと相手の合理性を理解する。自分の老害ぶりを測るリトマス試験紙的なのが、若い人がマッチングアプリで交際相手ができましたと言った時に、どう反応するか問題ってことです。『なんでマッチングアプリなの!その使うのか!』と言いますが、いま若い人の何割かがその経由だっていうことと、今まで何度も明石海峡大橋とか六甲山とかドライブして、やっと確かめ合うよりも、『マッチングアプリを使った方が楽やん』という考えもあるじゃないですか」
■若き老害にならないためには、若い人から教えてもらう姿勢を
若き老害にならないためのポイント「若い人(後輩)の良いところを探そう!」。
【労働社会学者 常見洋平さん】「良いとこを探すということが大事で、実は若い人の方がすごいことっていっぱいあります。昔の若者より迫力ないなと言いつつ、車に例えると、エンジンが小さくなっているけど、とても燃費がいいとか、ハイブリッドとか、EVのように形が変わっているので、良いところを探してもらう、若い人から教えてもらうという姿勢もとても大事だなと思います」
■叱ってくれるのと、若い芽を摘むのとは違う
視聴者からLINEで質問がきています。
‐Q:過去の経験談をアドバイスで話すのは『老害』となるのでしょうか?
【労働社会学者 常見洋平さん】「これは伝え方の問題です。まず相手が何に悩んでいるのかを聞いて、あくまで参考としてだけど、僕はこういうふうにやってきたよと。参考になるか分からないけどと、謙虚に伝える事が大事です。経験談ありきで語るだけだったら、単なるうざい先輩になるので気を付けてください」
‐Q:老害の役割も必要では?
【労働社会学者 常見洋平さん】「老害をどういう意味にとらえるかということで、いわゆる叱ってくれる人とか、あるいは古き良きマナーについて教えるということなら、まだ分かりますが、単に若い人の芽を摘むのだったら、もう存在自体がカスだという話です。なので、老害を超えて皆さんナイスガイになれるように」
‐Q:老害の基準は、本人の受け取り方次第?都度、対応方法を変えないといけない?
【労働社会学者 常見洋平さん】「気を付けないといけないのが、パワハラ、セクハラと結構似ていて、受け取り次第の部分があるようで、でも一方で、やっぱりこういうことって老害って言われるよね、パワハラ、セクハラになるよねと、自分の行動を客観視する事とか、相手にとってどうなのかと考えることが大事です。人に合わせて、相手に対する想像力が必要で、どうやったらその人に伝わるのかと考えるということが大事かなと思います」
今までの経験で同じことを続けてしまいがちですが、相手や時代に合わせて、アップデートをしながら接していかなければなりません。
(関西テレビ「newsランナー」2024年2月13日放送)