アツアツのご飯に乗せて食べる「イカナゴのくぎ煮」。 関西の春の風物詩ですが、今年は食べられなくなるかもしれません。
大阪と兵庫の漁業関係者たちが26日、ことしの大阪湾でのイカナゴ漁を初めて「禁漁」にすると決めました。なぜでしょうか?
■前代未聞!大阪湾での「イカナゴの禁漁」
瀬戸内海に春の訪れを告げる「イカナゴ漁」。
神戸などでは、甘辛く煮込んだイカナゴの「くぎ煮」を知り合いに送る習慣があり、「春の年賀状」とも呼ばれてきました。
しかし26日、発表された漁業関係者による「決定」は前代未聞の内容でした。
播磨灘での漁は3月9日に解禁されることが決まりましたが、明石海峡を挟んで東の大阪湾での漁は、「禁漁」となったのです。これはイカナゴ漁の歴史で初めてのことです。
その理由は歴史的な「不漁」。
大阪湾でイカナゴ漁を行ってきた神戸市の漁師・福田康弘さん(39)は「漁師になって24年。初めてです。こんなん」と話しました。
大阪湾で、一体何が起きているのでしょうか。
■イカナゴの漁獲量の変遷…30年で3万トン→2000トン、値段は3倍に
今から64年前の1960年のイカナゴ漁の様子を見ると、網いっぱいの豊漁に漁師もうれしそうな表情です。
1990年代には兵庫県のイカナゴの漁獲量が年間3万トンを超えていました。
そして2010年。当時、大阪湾で最年少のイカナゴ漁師だった福田康弘さん(26)は、「去年の10日分ぐらいが1回で。安心したで…一安心」とホッとしていましたが、この頃すでに漁獲量は減り始めていて、年間1万トン程度に。
2016年には、不漁を嘆く声。
【イカナゴ漁師 福田康弘さん(31)】「全くアカンこれじゃ。初日からこんなんじゃ。少ない。品モンも悪い」
2017年からは大幅に減少し、2000トンに満たない不漁の年が続いていました。
12年前の2012年に1キロ1000円だったイカナゴのくぎ煮は、2023年には1キロ3000円と、3倍の価格になっていました。
【買い物客(2023年)】「ひやひやしていました。(値段が)いくらになるのかなと思って。昔は(くぎ煮を)配っていたけど、もう今は高いから家だけ」
■イカナゴ不良の原因は地球温暖化、プランクトンの減少
なぜ、イカナゴはここまで減ってしまったのでしょうか。
瀬戸内海で調査している兵庫県水産技術センターの魚住香織上席研究員は「地球規模で気温が上がっているということもあり、瀬戸内海も水温が高くなっていて、イカナゴは基本的に冷たい水が好きなので、イカナゴにとってはよくない方向に進んでいるな」と話しました。
さらに、イカナゴのエサとなるプランクトンの減少も原因の1つだといいます。
2024年2月、発表された兵庫県水産技術センターの調査結果によると、大阪湾と播磨灘の稚魚の数は、不漁が続く2017年以降の中でも最低になったということです。
ことしのイカナゴ漁はさらに厳しくなると予想されていた中で、史上初めて「大阪湾での禁漁」が決まったのです。
この時期、毎年イカナゴ漁に出ていた福田さんは「すごく厳しい決断だったと思うけど、僕的にはいいことやと思う、資源残すということは。文化なんで、その文化がなくなってしまったら、ほんまにあかんことやと思う。今年はほんまに辛抱せなあかんと思います」と話しました。
大阪湾での禁漁を受けて、イカナゴのくぎ煮を販売してきた木下水産の木下宏忠代表は「大阪湾が少なくても、播磨灘があったので、なんとかなっていたんですけど、ことしは播磨灘のほうも少ないという情報を聞いているので、かなりつらいかなと。お客さんから、かなり注文が入っているので、そこだけはなんとか確保しないといけない」と話します。
街の人からは「前はもう10キロ近く炊いて。今年はどうしようかな~という気はありますけど、たとえ1キロでも炊けたら、買えたらいいなと思いますけど」という人や、「資源を守るという措置であれば、致し方ないと思いますけど、全く流通から消えちゃったら寂しいですよね」という声が聞かれました。
■ことしの禁漁で回復は難しい、今後は取る量の調整を
漁業関係者は今回、初の禁漁に踏み切りましたが、その効果や、来年以降のイカナゴ漁はどうなるのか、兵庫県水産技術センターの魚住さんに聞きました。
【兵庫県水産技術センター 魚住香織上席研究員】「1年間、漁をお休みしても、一気に復活するのは難しい。海水温の上昇や海の環境はなかなか変わらないので再開された場合も、少しずつ取る、要するに、次の年にまた漁ができるように取る量を調整するということを、しなければいけないだろう」
さらに、イカナゴは他の魚にとっても豊富な栄養源となっているので、影響も心配されます。
たとえばイカナゴをエサにしているマダイですが、イカナゴを食べる量が減ったのか、最近、漁師さんの間で「痩せて味が落ちた」という声もあるそうです。
海の異変は私たちの生活にも大きく影響しますので、どんな変化が起きているのか注視する必要があります。
(関西テレビ「newsランナー」2024年2月27日放送)