『本場の味』シェフはタイ・台湾・インドネシア出身の女性ら 日本での生きづらさ...母国料理で自信を持てるように 「今は毎日が楽しい。みんな支えてくれるから」 2024年05月11日
神戸市にある、本格的な料理が自慢のアジアン食堂。
【女性客】「もう何回も来ています。何食べてもおいしいので」
【女性客】「グリーンカレーの味が他のお店よりもおいしいし、色も鮮やかで」
リピーターも多い人気店ですが…料理を作っているのは、日本で生きづらさを抱えていた外国出身の女性たちなんです。
【台湾出身の料理人】「言葉も上手じゃない。買い物と家だけ。20年引きこもっていた」
【インドネシア出身の料理人】「ヒジャブを被ったら、仕事がなかなか難しいんですよ」
彼女たちが笑顔を取り戻す、この食堂の工夫とは?
■日本での生きづらさ抱える彼女たちの「強み」
神戸市の中華街・南京町の狭い路地にたたずむ、アジアン食堂バルSALA(サラ)。
アジア各国の雑貨で飾られた店内は、いつもランチを楽しむ人でいっぱいです。
人気メニューは、タイ料理の“カオマンガイ”。鶏肉の上に、ピリ辛のソース“ラープ”をかけるのがおすすめの食べ方です。
そして、カオマンガイと並ぶ看板メニューは、ココナッツが香る、タイのグリーンカレー。
スパイスを使った本格的なアジア料理が定番メニューとして並びます。
【女性客】「おいしいです」
Q.よく来るんですか?
【女性客】「私はちょこちょこ。実際タイにもよく行くんですけど、タレがショウガが効いていて、本場と結構近いからすごく好きで」
お客さんが絶賛する“本場らしい味”。その料理を作っているのは、外国出身の女性たちです。
この日のシェフは、台湾出身の游(ユウ)さん(62歳)。
游さんがシェフの日だけメニューに加わるのが、台湾の家庭料理“焼きビーフン”です。
【台湾出身 游さん】「焼きビーフンは私の原点」
Q.台湾でも作っていたのですか?
【台湾出身 游さん】「焼きビーフンはお母さんの料理」
游さんは28歳で日本人男性と結婚し、来日。しかし、慣れない日本での生活には高いハードルが待ち受けていました。
【台湾出身 游さん】「大変だったのは言葉の問題がね。はじめはしゃべれないし、字も読めない」
Q.友達は?
【台湾出身 游さん】「あんまり友達いなかった」
およそ20年間、社会から孤立した生活を送っていた游さんが変わるきっかけとなった存在が、奥 尚子さん(34歳)です。
2人が出会ったのは、外国人向けの生活相談会。奥さんは当時、外国人支援について学ぶ大学生でした。
【奥 尚子さん】「出会った時は困りごとを聞いて、自分に何かできることないかなと。電車に乗るのが怖いとか、旦那さんとしか関係がなくて、友達もいないので、困った時に相談する人がいないとか」
生活に苦労する游さんたちと何度か会ううちに、奥さんは外国出身の女性ならではの“ある強み”を見つけました。
【奥 尚子さん】「だんだん仲良くなっていくと、お弁当を作ってくれるようになって、その国のお弁当でおいしくて、お母さんたちは普通に作っているけど、私にとっては食べたことないものだったので、“これ(料理)を使って自信をつけられることをできないかな”と」
異国の地で、言語や文化の壁に悩んでいた外国出身の女性たち。彼女たちの力が発揮できる母国料理で、自信をつけてもらいたい…。
そんな思いで、奥さんは8年前、アジア料理店「SALA」を開きました。
大切にしていることは、外国出身の女性たちの思い出の味を貫くこと。あえて日本人好みには寄せません。
調理場には各国の調味料がずらりと並びます。
【奥 尚子さん】「インドネシア、台湾…。ナンプラーはアジア系の共通のもので、フィリピンの酢とか醤油とか…、醤油だけで6本あって、お酢で3本とかですね。醤油でも全然味が違って、その国の懐かしさとか料理を感じる部分はそこ(調味料)がポイントなのかなと」
今はアジアだけでなく、モルドバを含む4カ国出身の女性たちが日替わりでシェフを務めています。台湾出身の游さんも、その一人です。
【台湾出身 游さん】「お母さんが(料理を)やっている時にいつも見ていたから」
【奥 尚子さん】「すごいよね、それ」
【台湾出身 游さん】「お母さん、焼きビーフン得意やねん」
Q.日本に来て初めての仕事がSALA?
【台湾出身 游さん】「うん。前は主婦で家の中ばっかり。大体20年こもっていた。尚子さんと知り合ってから表に出て、今は電車乗れるし、言葉も上手になった」
游さんにとって、SALAは同じ境遇の女性や日本人との交流の場。働くようになって、次第に前向きになっていきました。
■「働きたい」外国人が増加…雇用の拡大が課題に
SALAの評判が外国出身の女性たちの間に広がる一方、奥さんは課題も感じていました。
【奥 尚子さん】「最近、めっちゃ来るんです、留学生とか。仕事に困っている人が多くなっていて。1人暮らしの一部屋に6人くらいで住んでいる人たちが『働けない』って、しょっちゅう来ます。ごめん、ごめんって、雇えないので断っていて、そこが歯がゆいところではあります」
25席のSALA、1店舗だけでは雇用を拡大できず、外国出身の人たちの「働きたい」という声に応えきれないのです。
実際に、日本に住む外国人は全国的に増えていて、神戸市でも、人口は減少していますが、外国人の数は急増しています。
そこで奥さんは4月、新たに宅配弁当専門のキッチンを作りました。コストを最小限に抑えながら、無理せず雇用を増やすことにしたのです。
働く場所が増えたことで新たに仲間入りしたのは、インドネシア出身のアユさん(34歳)。
イスラム教徒のアユさんも、日本で生きづらさを抱えていた一人ですが、SALAでは壁を感じることもありません。
【インドネシア出身 アユさん】「イスラム教だから頭(にヒジャブを)かぶるんですけど、ヒジャブをかぶると、仕事がなかなか難しいんですよ。『取ってくれる?』とかいろいろ聞かれるので。SALAは『全然問題ない』って言ってくれたから、本当にありがたいです」
この日、アユさんが作った弁当は、市内の企業に届けられました。
【インドネシア出身 アユさん】「働いて本当に良かった。本当に毎日が楽しい。お客さんも日本人もいて、外国人もいて。みんな優しくて、いろいろ支えてくれるから」
【奥 尚子さん】「本当はSALAがもう1店舗あれば働く人も増えて、交流できる場所もあるんですけど、ビジネスっていう面がまだ弱くて。ここが軌道に乗って成り立てば、今度はSALA2号店みたいなところを作りたいな。(女性たちが)活躍できる場所がもっと増えたらいいなっていう気持ちです」
外国出身の女性たちが笑顔を取り戻せる場所は、これからも続いていきます。
(関西テレビ「newsランナー」 2024年5月8日放送)