「紀州のドンファン」と呼ばれた資産家を殺害した罪に問われている元妻の須藤早貴被告。5月10日、殺害事件とは別件で、男性から現金をだまし取った罪に問われた裁判が始まりました。逮捕されて以来およそ3年ぶりに法廷に出た須藤被告はどんな様子だったのか。そして「紀州のドンファン事件」の進展はあるのでしょうか。
和歌山地裁前から、裁判を傍聴した秋山記者が報告します。
【秋山記者リポート】「午後2時から始まった初公判は、午後3時半前に閉廷しました。今回の詐欺事件において、須藤被告は当初黙秘していたため、今日法廷で何が語られるのか注目されていました。詐欺事件の犯行当時、須藤被告は19歳だったため当初はついたてなどで様子は確認できないと思われていましたが、実際についたてなどはなく、姿を見ることができました。服装は黒いワンピースに黒のカーディガン、ストレートの黒髪が腰まで伸びた状態で、以前よりも痩せた印象でした。法廷で須藤被告が何を語ったのか取材しています」
■須藤早貴被告の裁判に多くの人が注目
【記者リポート】「午前11時前です。和歌山地裁には裁判の傍聴券を求める人の列ができています」
【傍聴に訪れた人】「連日のようにニュースで見ていたし、1人で全部お金の件、殺人の件ができたのか。バック(背景)に何かがあるのか。すごく興味があります」
多くの人が注目する中で10日に始まった、「紀州のドン・ファン」と呼ばれた資産家・野崎幸助さん(当時77)の元妻・須藤早貴被告(28)の裁判。
須藤被告は2015年から2016年にかけて、当時61歳だった別の男性から海外留学などの名目で、現金合わせて約2980万円をだまし取った罪に問われています。
須藤被告は裁判官に起訴内容について問われると…
【須藤早貴被告】「私が金を受け取ったことは事実。うそもつきましたが、それを分かった上で彼は私の体をもてあそぶために払ったと思っています」
現金をだまし取ったことを否認。弁護側は争う姿勢を示しました。
■須藤被告は「紀州のドン・ファン殺人事件」でも逮捕・起訴
須藤被告は、この事件の2年後に、和歌山県田辺市で起きた殺人事件でも逮捕、起訴されています。それが「紀州のドン・ファン殺人事件」です。
【野崎幸助さん 2016年2月】「1億円ぐらいは紙切れみたいなもんや、私にとっては」
「紀州のドン・ファン」と呼ばれた和歌山県の資産家野崎幸助さん(当時77)。金融業などを営み、総資産は50億円とも言われていました。
そんな野崎さんは2018年2月、55歳年下の須藤被告と結婚しました。しかし、その3カ月後、自宅にいた須藤被告と家政婦が2階の寝室で野崎さんが死亡しているのを発見。死因は急性覚醒剤中毒でした。
【野崎さんの会社の元従業員】「覚醒剤の『か(の字)』も出てこなかったんでね、社長とあれだけ一緒にいたけど。そういうことしてるなら周りに悪い人がいるでしょ。そういう人も見当たらなかったですから。社長は自分でやったんじゃないと思う」
警察は、野崎さんの遺体に注射の痕がないことなどから、何者かが口から覚醒剤を摂取させた疑いもあるとみて捜査を続けました。
(Q悲痛な心境だと思いますが?)【須藤早貴被告 2018年6月】「…」(Q今の心境を一言だけ)「…」
野崎さんが亡くなってから無言を貫いてきた須藤被告。事件からおよそ3年、急展開を迎えます。須藤被告が、野崎さんに何らかの方法で覚醒剤を飲ませ殺害した疑いなどで逮捕されました。
2人をよく知る人は…
【野崎さんの会社の元従業員】「悲しむところ見たことないです。葬式でも泣いてなかったからね。彼女は常にスマホばっかりいじっていましたからね」
【2人をよく知る人】「向こう(須藤被告)があまりに冷たくし過ぎるから嫌気さしたんでしょうね多分。最後の方、亡くなる前は『離婚する』みたいな感じで、怒っている感じでしたよね、野崎さんが」
和歌山地検は、野崎さんが死亡する直前に、須藤被告と2人きりの時間があったことや須藤被告が覚醒剤の密売人と接触したとみられることなどから、立証は可能と判断し、殺人などの罪で起訴しました。須藤被告は逮捕されてから容疑を否認した後、事件への関与について供述しておらず、いまだ裁判が始まる見通しも立っていません。
■今回始まった裁判は、須藤被告が19歳当時に別の男性から約2980万円をだまし取った詐欺の罪
そんな中、10日に始まったのは、別の男性をめぐる詐欺罪の裁判です。須藤早貴被告(28)は、2015年から2016年にかけて3回にわたり、札幌市に住む当時61歳の男性に海外留学の準備金や弁償金などの名目で、現金合わせて約2980万円をだまし取った罪に問われています。
裁判で検察側は、須藤被告は2014年、札幌市のすすきののキャバクラで働いていたとき、客として来た男性と出会ったと説明。須藤被告は美容関連会社の社長のつてで海外に留学したいと、現金約1500万円を要求するなどし、男性をだまして現金を振り込ませたと主張しました。
一方で弁護側は、男性はだまされたのではなく、須藤被告と性的な関係や心理的支配感を得たいがために、現金を振り込んだと主張しました。
世間を大きく騒がせた「紀州のドン・ファン殺人事件」の捜査の中で明らかになった今回の詐欺事件。今後、事件の真相は明らかになるのでしょうか。
■10日の法廷での須藤被告の様子は…
再び和歌山地裁前から、10日の法廷での須藤被告の様子について裁判を傍聴した秋山記者が報告します。
【秋山記者リポート】「須藤被告に派手さはなく、終始落ち着いた様子でした。裁判官から質問された際には、声は小さかったものの、聞かれたことに対してはすぐに答えている印象がありました」
裁判を傍聴していて特に印象に残ったことはありますか?
【秋山記者リポート】「検察側の証拠調べの中で、須藤被告が通ってい美容専門学校の担当者の証言がありました。専門学校2年生の頃から生活が派手になったという話が出ました。担当者によると『須藤被告は2年生になった頃から、高価なブランド物を持つようになり、すすきののタワーマンションに暮らしていると聞いた。海外旅行に行くと言って授業も度々休んでいた』ということです。今回の裁判では詐欺罪が成立するかどうかが争点となっていて、今年9月に判決が言い渡される見通しです」
今日は詐欺罪での裁判ということですが、野崎さんを殺害した罪に問われている殺人罪での裁判の見通しは立っているのでしょうか?
【秋山記者リポート】「須藤被告はこれまで取り調べに対し、殺人罪については事件への関与を否認しています。まだ審理の見通しなど何も明らかになっていない状況で、今後開かれる裁判でどんな主張がされるのか注目されます」
■「紀州のドン・ファン 殺人事件」始まらない裁判
須藤被告、詐欺の裁判が10日に始まり、証言にはなまなましいものがありました。ですが野崎さんを殺害した殺人罪の裁判はまだ始まっていません。
逮捕から3年がたってもなぜ裁判は始まらないのか。
・2018年5月 野崎さんが亡くなる
・2021年4月 殺人と覚醒剤取締法違反の疑いで須藤被告が逮捕
・2021年5月 須藤被告が起訴される
現在は裁判員裁判をスムーズに進めるために、争点や証拠を整理する公判前整理手続の途中で、起訴から3年たっても裁判は始まっていません。
元検察官の亀井正貴弁護士によると、「間接証拠が多い事件で、時間はかかると思う。とはいえ時間がかかり過ぎている。何か要因があるはずだ」ということです。
【関西テレビ 神崎報道デスク】「覚醒剤の密売人と被告が接触したことは分っています。それから防犯カメラの映像で外部から他の人の出入りがなかったことも分かっています。あとスマートフォンの検索履歴で『殺害』『覚醒剤』というキーワードを検索していました。全て間接的な状況証拠で、一番ポイントとなる野崎さんにどうやって覚醒剤をのませたかが不明で、2000本あったビール瓶を全部調べたけど、そこからは覚醒剤が出てこなかったということです。大事な部分の立証が難しく、かなり時間がかかってるのだと思います」
【ジャーナリスト 浜田敬子さん】「一方で記者の方に聞いた話で、須藤被告はこう留されているんですね。ずっと否認していることもあって、保釈されてない。ある種の『人質司法』とよく言われる、否認していると保釈請求してもなかなか外に出られない。そういった捜査のあり方みたいなものが、もしかしたら今後議論の焦点になるかもしれないです」
10日始まったのは詐欺罪に関する裁判です。この詐欺罪の裁判が野崎さん殺害に関する裁判に影響するのかですが、亀井正貴弁護士によると、「別件なので影響はない」ということです。
【関西テレビ 神崎報道デスク】「今回の詐欺罪の裁判はいわゆるプロの裁判官でやります。野崎さんの殺害に関する裁判は裁判員裁判でやることになる。本来であれば完全に別物なんですが、例えば詐欺罪で有罪判決が出たりすると、裁判員の人の印象として、悪い印象がついてしまうことが危惧されます。そこは裁判所はちゃんと『別ですよ。前の裁判の報道は気にしないでください』と言うとは思うんですけど、もしかしたら影響が出るんじゃないかというところは心配です」
野崎さんの不審死から6年がたちました。
真相解明は一体いつになるのでしょうか。
※須藤被告は詐欺事件の当時19歳でしたが、その後の殺人事件で成人の被告人としてすでに実名報道されていることなどから、実名で報道します。
(関西テレビ「newsランナー」 2024年5月10日放送)