『心理学のプロ』が常駐する保育園 コミュニケーションが苦手な子ども 泣かずに要求を伝えられるよう「やりたいことを示すまで待つ」作戦で見えた変化 2024年07月21日
心理学のプロが常駐で働く保育園が京都にあります。彼らが支援の対象とするのは、発達の遅れが気になる子どもたち。
“プロの目線”は、そんな子どもをどう変えていくのでしょうか?
■コミュニケーションが苦手な3歳の女の子
京都市伏見区にある「みぎわ保育園」。ここへお母さんとやってきたのは、3歳の「ちあちゃん」です。
体を動かすことが大好きなちあちゃん。いつも保育園に着くと、すぐさま園庭へ!
そんなちあちゃんは、他の子どもや先生たちと会話をすることは、ほとんどありません。年齢に比べて発達が遅く、コミュニケーションを取ることが苦手なのです。
【ちあちゃんの母親】「言葉がまだ遅いので、少しずつ出てきてくれたらと思うんですけど」
この保育園に通い始めておよそ1年。ちあちゃんが保育園で楽しく過ごせるよう、支えている人たちがいます。
【公認心理師 藤原朝洋さん】「彼女の特徴が出るコミュニケーション面。どういう風に要求したり、相手に伝えたり、どういう風に意識しているかをメモしていました」
藤原さんは、心理学の専門家である国家資格の公認心理師。
みぎわ保育園では3人の心理士が、発達障害などが疑われる子どもの行動や特徴を分析し、特性に合ったサポートをしています。
【公認心理師 松田采実さん】「ちあちゃん、ご飯行こう」
お昼の時間になり、遊んでいるちあちゃんを促す松田さんも公認心理師です。
■行動を観察して分析 対応法を提案する公認心理師
ちあちゃんの大きな問題。それは給食の時間にも表れます。
大好きなカレーを前に突然、涙を流し、床に寝そべって大泣き。そして、みんなで「いただきます」をするよりも先に食べ始めてしまいました。
公認心理師がこうした行動を観察して気づいた点は、保育士とも共有されます。
【公認心理師 藤原朝洋さん】「待つのが難しい。座るのはできても、その後、何をやっていいか分からない。この後にご飯を食べると思うんだけど、ご飯を食べられる様子もないし、みたいな感じで不穏になっていった気がする。食べられない状況が続くことで、カレーを見て、松田先生を見て、通常よりも分かりやすい形で要求を何とか伝えようというのが出ている」
「欲求は出ているけれど、『わーっと泣いたからカレーがもらえた』と受け取りかねない」
【公認心理師 松田采実さん】「『ぎゃーっ』と泣いたから言うことを聞くのは嫌だなと思うんですよね。でも『ぎゃーっ』となったから仕方ないなという時もあるんですけど…」
おもちゃで遊んでいても、また大泣き。
そこで松田さんがおもちゃを差し出します。
【公認心理師 松田采実さん】「ちあちゃん、どっち?あ、これやな」
ほしかったおもちゃをもらった途端、涙はピタリと止まりました。
公認心理師たちは、泣くこと以外の方法で「お願い」を伝えられるよう、心理学的な視点から考えた対応方法を提案し、保育士たちと実践していきます。
それは“やりたいことを示すまで待つ”作戦。指をさしたり、ジェスチャーをしたりする方が、要求をかなえやすいと覚えてもらうためです。
こちらから意図をくみ取ってやってあげるよりも「我慢」や「待つこと」で、意思表示をする機会が増えると考えられています。
【公認心理師 松田采実さん】「自分がやったことで何か返ってくるのが大切。ちあちゃんに『どっち?』と提示した時に手を伸ばしたり、指さしなど、何かしらアクションがあれば『どうぞ』と。やる前にどうぞとすると、(意思表示の)機会をうばってしまうのがもったいないので、待つ」
根気は要りますが、保育士とともに行う日常的な支援が成長を促すのです。
しかし、こうした環境はまだまだ限られています。
宇治市の療育施設「ころぽっくるの家」に通う4歳のかいくん。
近くの保育園と並行して、お母さんと一緒にこの施設にも通っています。
「ころぽっくるの家」では、発達段階で支援が必要な未就学児に対して、特性に応じた療育が取り組まれている他、就学後も18歳まで継続してサポートが行われます。
今は施設でのびのびと過ごしているかいくん。
しかし、コミュニケーションが苦手という特性が分かってからも、施設に空きが出て入所できるまで、約1年間待たなければなりませんでした。
【かいくんの母親】「(保育園の)お友達に気持ちを伝えられないとかで、手が出るとか、噛むとか、押すとか、そういう手段で自分の思いを相手にぶつける。どのような支援があれば友達とやりとりができるかとか、周りの保護者も同じ悩みを持っていたので。早い段階で打てる手だてがないかなと、いつも考えていました」
■指をさして意思表示 小さな変化も確かな成長
子どもの課題に向き合おうと、「みぎわ保育園」は公認心理師に託しています。
取材を始めて2カ月がたった頃、ちあちゃんに少しずつ変化が見えてきました。
おもちゃで遊んでいる時、指をさしたちあちゃん。
【公認心理師 松田采実さん】「あ、おうち(のおもちゃ)?じゃあ出そうか」
泣くこと以外の形で「ほしい」という思いを伝えることができるようになっていました。
さらに、職員室の扉の前で、扉の鍵に手を向けたり、指をさす動作を見せます。
最終的には泣いてしまいましたが、ちあちゃんの変化に松田さんもしっかりと気づいていました。
【公認心理師 松田采実さん】「前は“泣いて抱っこ”だったんですが、そうじゃなくて『ここを開けてほしい』っていう、明確な意思表示がだいぶ出てきたのかなと」
お母さんも、その成長に喜びの笑顔を見せていました。
【ちあちゃんの母親】「ずっと1人の世界になる感じだったんですけど、周りの大人とか子どもたちとかかわることが増えてきたのかな。成長しているなと感じました。小学校の普通クラスに通えるのか分からないし、そういう面では不安がありますけど、卒園するまでに伸びてくれたら、すごくうれしいな」
公認心理師が考える、苦手を乗り越えていく保育。
みんなと一緒に成長できるよう、そっと後押ししています。
(関西テレビ「newsランナー」 2024年7月16日放送)