「紀州のドン・ファン」と呼ばれた資産家の男性に覚醒剤を摂取させ殺害した罪に問われている、元妻の裁判員裁判。
8日から被告人質問が始まり、元妻は、男性から頼まれて覚醒剤を購入したと語りました。
■「お金をくれるしラッキー」毎月100万くれるならと結婚を承諾した須藤被告
【須藤早貴被告】「(野崎さんが)真剣な顔で『結婚してください』と言ってきた。私は冗談だと思ったので『じゃあ毎月100万円くれるんだったら、いいよ』と言った」
8日から3日間の予定で始まった被告人質問。黒のパンツスーツ姿で法廷に現れた須藤早貴被告(28)は、9月の初公判以来の証言台で何を語るかが注目されました。
【須藤早貴被告】「『兄弟の仲が悪く、兄にいじめられていたので、遺産とか兄弟にいくのが嫌だから、君にもらってほしい』と言われた」
【弁護人】(Q野崎さんとの関係をどうしようと思いましたか?)
【須藤早貴被告】「お金をくれるしラッキーと思った。うまく付き合っていこうと思った」
■伝説上の「プレイボーイ」 資産家野崎さん 55歳下の被告と結婚後死亡
須藤被告(28)は6年前、和歌山県田辺市で元夫で資産家の野崎幸助さん(当時77歳)に覚醒剤を摂取させ、殺害した罪に問われています。
【野崎幸助さん(2016年)】「1億円くらいは紙切れみたいなもんや、私にとっては」「(女性とは)アバンチュールですね」「それが私の脇の甘いところ」
自由奔放な生き方で、スペインの伝説上のプレイボーイになぞらえ、”紀州のドンファン”と呼ばれた資産家・野崎幸助さん。2018年、55歳年下だった須藤早貴被告(28)と結婚。しかし、その3カ月後、自宅で死亡しているのが見つかりました。
【須藤早貴被告(2018年)】
(Q悲痛な心境だと思いますが?)「・・・」
(Q今の心境を一言だけ)「・・・」
野崎さんの死因は急性覚醒剤中毒でしたが、遺体には注射の跡がないことなど、直接的な証拠がないため、警察の捜査は難航しました。
■事件から3年後元妻が逮捕 裁判では無罪を主張
しかし3年がたった2021年。
【記者リポート】「今、被疑者が移送されていきます」
警察は野崎さんと当時自宅で2人きりだった須藤被告が、致死量の覚せい剤を口から摂取させて殺害したとして逮捕しました。
逮捕からさらに3年、ことしようやく始まった裁判員裁判の初公判で須藤被告は…
【須藤早貴被告】「私は社長(野崎さん)を殺していませんし、覚醒剤を摂取させたこともありません。私は無罪です」
起訴内容を否認し、無罪を主張しました。
■異例の28人の証人が出廷 薬物の密売人も
検察側は、須藤被告は事件前、スマートフォンで複数回「老人 完全犯罪」「覚醒剤 過剰摂取」などと検索していたことや、密売人とみられる人物から覚せい剤と思われるものを入手していたなどと指摘。
一方、弁護側は、「そもそも、殺すのに覚醒剤を選ぶのか。野崎さんが自分の意思で飲んだことは完全に否定できるのか」と反論していました。
これまでの裁判では異例ともいえる28人の証人が出廷し、直接的な証拠がない中、検察側は状況証拠を積み重ねて有罪を立証しようとしています。
証人の中には須藤被告と見られる女性に薬物を渡していたという密売人も出廷。
■野崎さんに「覚醒剤買ってきてくれ」と頼まれたと証言
そして8日。被告人質問で須藤被告は、薬物の購入について、性的機能の衰えた野崎さんから次のように依頼されたと証言しました。
【須藤早貴被告】「社長から『もうダメだから覚醒剤買ってきてくれませんか』と言われた。冗談だと思い『お金くれるならいいですよ』と言ったら、20万円渡してくれたので、受け取った」
【弁護人】(Q:買おうとしたんですか?)
【須藤早貴被告】「買い方が分からないから放置していたら、社長から催促された。『あれどうなった』って」
その後、須藤被告は薬物について販売している密売サイトなどを検索し、購入したと説明しました。
■野崎さんに「偽もんや。お前には頼まん」と言われた
【須藤早貴被告】「次の日、夕方ぐらいに(社長に)渡した」
【弁護人】(Q:野崎さんの反応は?)
【須藤早貴被告】「『ありがとうございます』と」
【弁護人】(Q何か話題になった?)
【須藤早貴被告】「翌日夕食の時に『あれ使いもんにならん。偽もんや。もうお前には頼まん』と言われた」
覚醒剤をめぐっては、販売した売人は覚醒剤と認めているものの、準備した別の売人は「氷砂糖だった」と法廷で証言しています。
■「署名も押印もなかった。パフォーマンスかと思いました」野崎さんから受け取った離婚届
一方、これまでの裁判で検察側は、須藤被告が財産目当てで結婚し、莫大な遺産を得るために殺害したと指摘していました。
裁判では「野崎さんが離婚したがっていた」という証言もあります。
これについて須藤被告は、野崎さんから離婚届を受け取ったことは認めるも、真に受けていなかったと話しました。
【須藤早貴被告】「必ず自分で書くようにとある署名欄に、署名も押印もなかった。何の意味があるのか分からなかった。パフォーマンスかと思いました」
これまで検察側が積み上げてきた状況証拠を否定した須藤被告。 来週は、検察側による被告人質問が行われる予定です。
■野崎さん亡くなる直前に「死にたい」 様子がおかしくなったと須藤被告
和歌山地裁前から樋口記者が報告します。
【関西テレビ 樋口諒記者】「午前10時40分から始まった裁判ですが、予定の時間をオーバーして、午後5時を過ぎた今もまだ続いています。須藤被告は、基本的には裁判官の方をまっすぐ見て話していましたが、時折自信なさげに弁護側の方を見て話す場面もありました。8日の被告人質問では、野崎さんと須藤被告の出会い、結婚生活や、さらには野崎さんが亡くなった日のことまで、弁護側が時系列に沿って質問をしていました」
須藤被告の様子について印象に残っていることはありますか?
【関西テレビ 樋口諒記者】「結婚後も和歌山と東京を行ったり来たりしていた須藤被告ですが、それに対して野崎さんは頻繁にメールや電話で連絡を取っていました。
ただ少し会えない期間が続くと、野崎さんから『自分らの関係はもう終わりだな』と急に態度が変わることがあったそうです。須藤被告は、『態度がコロコロ変わるコロちゃん。子どもだなと思った』などとはっきりと自分の思ったことを話している印象でした。そして話がコロコロ変わるというところに関連して、須藤被告の方から野崎さんに対して『離婚します』と伝えたこともあり、野崎さんから引き止められることもあったということです。
また亡くなる直前の話も裁判の終盤では出てきましたが、亡くなる直前に野崎さんの愛犬が死ぬということがありました。それから野崎さんは、周囲に『死にたい』と話すようになったり、さらにその後は『会社の従業員が自分のお金をくすねている』と、周りに被害妄想を話すようになったり、亡くなる当日に関しては、いきなりハウスキーパーに電話をかけて怒鳴るなど、様子がおかしくなったと須藤被告の口から語られました」
■殺人事件なのか、須藤被告が犯人なのかが争点
今後の裁判の争点について教えてください。
【関西テレビ 樋口諒記者】「まず一つ目はそもそもこれが殺人事件なのかということ。そして2つ目が、仮に殺人事件だったとして、須藤被告が犯人なのかということです。
直接的な証拠がない中で、これまで検察側が状況証拠を積み重ねてきました。須藤被告のスマホの検索履歴をあげて、『完全犯罪』、『老人 死亡』などと検索していたことを指摘しているんですが、8日の裁判ではこれに関する質問は出ませんでした。来週も被告人質問が続き、検察側からの質問が続くことになるんですが、この部分がどう問われるのか、須藤被告がどのように答えるのかが注目されます」
■今後はじまる「検察側」の被告人質問に注目
【ジャーナリスト 浜田敬子さん】「ずっと黙秘されていたので、ほぼ初めて具体的な話が出てきて、実際に覚醒剤の入手方法を探して、自分で入手したところまで話したわけですよね。でもそれは頼まれてやったことだと。
今回の場合は検察側は殺人事件だとしていますが、具体的な殺害方法が、口から摂取しているとなっています。口から飲むと非常に覚醒剤は苦かったりなどして、気づくんじゃないかとも指摘されています。そのあたりの殺害方法まで、きちんと検察側もまだ立証できていないところでの裁判になっていて、難しいだろうなと思いますね」
【関西テレビ 神崎博報道デスク】「8日の被告人質問はあくまでも弁護側、つまり須藤被告側からなので、須藤被告の犯人性を否定するとか、無罪方向で主張するような質問だったんですね。でも、次回以降は検察側、逆に須藤被告の犯人性を立証する側の質問になってくるので、須藤被告がどういう証言をするかがポイントになってくると思います」
直接的な証拠がない中で須藤被告が何を語るのか注目されます。
(関西テレビ「newsランナー」2024 年11月8日放送)