ウソ通報で「SNS凍結」と主張 知事選で敗れた稲村和美さん後援会の刑事告訴『受理』 警察が通報に至るまでの経緯など捜査 「Xが発信不能となったことは、民主主義の核心となる選挙活動そのものを揺るがす重大な行為」と弁護士 2024年12月23日
兵庫県知事選挙に立候補していた稲村和美さんの後援会がSNS上での妨害があったとして提出していた刑事告訴・告発が、警察に受理されました。
先月、投開票された兵庫県知事選挙で、斎藤元彦知事(47)に敗れた稲村和美さん(52)は、選挙期間中に後援会が運営する公式Xが2回にわたり凍結されました。
後援会は不特定多数のアカウントがXの運営側に対し、「SNSのルールに違反している」などのウソの通報をしてアカウントが凍結されたと主張し、「ルールに反する行為はなく不当な選挙妨害だ」として先月、偽計業務妨害と公職選挙法違反の容疑で、刑事告訴・告発していましたが、20日、兵庫県警に受理されたと発表しました。 警察は今後、通報したアカウントの特定を進めるなど経緯を捜査する方針です。
■「SNSの利用は適切にやってほしい」と斎藤知事が呼びかけ
稲村さんの後援会がSNS上での妨害があったとして提出していた刑事告訴・告発が、警察に受理されたことを受けて、兵庫県の斎藤元彦知事は20日記者団の取材に対し、「県でSNSの誹謗中傷に関する条例制定への準備や、国の法整備も進んでいるが、県民はSNSを適切に利用してほしい」とする考えを示しました。
Q.稲村さんの後援会の刑事告訴・告発が受理された受け止めを
【斎藤知事】「SNSについては、適切に県民の皆さん国民皆さんがご利用されるということが大事だと思います。 「良い面、情報がしっかり伝わるという面もありますけども、誹謗中傷といった人を傷つける面は好ましくないと思いますので、兵庫県でも条例の制定とか、今準備を進めてますけども、そういった適切なSNSの利用がされる社会を、これは国の法整備が進んでいるという風に思いますので、そういった形でしっかり対応していくということが大事」
Q.県民に呼びかけることは?
「SNSについては、良い利用の仕方で、社会に対するメリットも大変ありますが、やはり誹謗中傷であったりとか、人の名誉を傷つけることは好ましくので、国民の皆さん、そして県民の皆さんもSNSの利用については適切にやっていただきたいと思っています」
後援会の共同世話人だった津久井進弁護士は、20日午前の会見で「Xが発信不能となったことは、民主主義の核心となる選挙活動そのものを揺るがす重大な行為」としたうえで、「選挙結果そのものに疑義を唱えるものではない。これらの今後の選挙のあり方に一石を投じる、人権などが損なわれるようなことのない、そういった選挙制度を目指す、その活動に資することを目的として告発した」と語りました。
【津久井弁護士】「この約1カ月の間、兵庫県警本部と連絡を取り合いながら、法的課題を整理し、そして補充的に情報提供を県警に対して行ってまいりました。本日(20日)9時過ぎに、最終的な補充資料を提供して、それをもって受理に至ったということでございます」
「偽計業務妨害罪については、氏名不特定のまま受理をされました。また、公職選挙法違反についても、こちらについては一定の対象者の絞り込みをした上で、受理をされました」
「SNSが重要な発信媒体となっているということは、皆様ご承知の通りであり、今回の兵庫県知事選挙でも大きな存在感を示しました」
「その中にあって、私たち稲村和美本人の動画や、Xなどの発信媒体の方は大丈夫だったんですが、それを応援する後援団体のX(元ツイッター)の発信が不能の状態に陥ることになったということで、これは表現の自由であるとか、選挙活動の自由といった人権に対する直接的な侵害でありますし、民主主義の核心となるこの選挙活動そのものを揺るがす重大な行為だと考えております」
■「県警などと協議し、一定の絞り込みを行った。氏名や属性を明らかにする予定はない」
【津久井弁護士】「(公職選挙法については)SNSを利用した選挙活動、新しいタイプの選挙活動からだからこそ、この犯罪類型にスポットを当てて、きちんとあるべき姿を追及して欲しいということでありました」
「もともとデマといっても本当に無数にあって、そのうち誰をどのような形で選定するかということは難しい問題ではあったのですが、県警などとも協議の上、一定の絞り込みを行ったということです」
「ただ、この絞り込んだ結果、どのような人、例えば氏名や属性、こういったものについて明らかにすることは、捜査の支障になるということですので、今日も、また今後も私どもの方からこれを明らかにする予定はございません」
■「選挙結果そのものに疑義を唱えるものではない」
【津久井弁護士】「私たち後援団体『ともにつくる兵庫未来の会』としては、今回の選挙結果そのものに疑義を唱えるものではないということを強調させていただきました」
「私たちはこの選挙結果、いや、またさらに言えば、特定の個人に対して処罰感情を持って告訴告発したのではないということを強調しておきたいと思います」
「私どもの目的は、今回様々な課題、また教訓があったことは、誰しもが感じているところでありますが、これがきちんと制度であるとか、今後の選挙は、これからも地方選挙も含めて多々あるわけですが、これらの今後の選挙のあり方に一石を投じる、誰もが自由で多様な意見を収集でき、それぞれの投票者が自分の考えで判断をして、人権などが損なわれるようなことのない、そういった選挙制度を目指す、その活動に資することを目的として、今回告訴告発に及び、今後もそのような対応であるということを申し添えておきます」
■「4つのデマに絞り込んだ」
【津久井弁護士】「公職選挙法違反ですが、告発をした段階から何がデマなのか、そしてそのデマであることを故意にやっていないと、犯罪が成り立ちませんので、私たちとしては2つの基準を設けました。1つは、様々なデマがある中で『4つのデマ』に絞り込みました」
①『県庁の建て替えに1000億円をかける』という内容のデマ
②『緑の党に属していたというデマ』
③『外国人参政権を稲村さんが推進している』というデマ
④『尼崎市長時代に退職金を大幅に増額させた』というデマ
「4つのデマに絞り込んだ理由は、11月9日に稲村氏の公式のホームページ、あるいはXなどでこの4つについては、公の形で『これらは事実と違うからファクトではないからデマです』ということをはっきりと言いました」
「それをご覧になっているということを前提に、時間軸で11月9日以降、そして内容的にこの4つのデマに絞って私たちが認知できる情報を県警に届けた次第です」
■「デマが稲村和美を当選させたくないという目的とワンセットになると、犯罪に当たり得る」
【津久井弁護士】「このデマが、公職選挙法235条の条文に当てはまるであろうと弁護士、弁護団である私たちとしても判断をし、今回告発に及んだわけですが『内容は当選をさせない目的』ということでまず『目的犯』であるということです」
「例えばAさんを当選させたいがためのデマであれば、当てはまらないわけですが、稲村和美を当選させたくないという目的とワンセットになると、犯罪に当たり得るわけです」
「そして公職の候補者または公職の候補者になろうとするものに関し、ということですから、これはもう当たることが明らかでして、虚偽の事項を公にする、または事実をゆがめて公にすると、SNSは公にするメディアでありますので、XやYouTube、TikTokなどで公表した時点で公にしたというところはクリアされますから、残りは虚偽か、あるいは事実をゆがめたかということになります」
「虚偽については、もうご理解いただけてる通りだと思うので、ゆがめてというところについて補足をしますが、公職選挙法のコメンタール(注釈)では、虚偽の事実に至らないけれども、虚偽の事実を付加するとか、著しく誇張するとか、色を加えるというようなことを意識的にやることで事実をゆがめたものは、これに当たると書いてあります」
「判例もあり、『噂があったからそれを書いただけだ』というような弁明があったようですが、『いやいや噂の中身自体がゆがめられてるのではないか』と、『いやいやそうじゃなくて、噂は事実なんだろうけれども、その噂があったということをゆがめてるんではないか』と、こういうことが、判例になったようですけれども、『いずれにしてもどちらもアウトです』と、こういう判決が昭和51年(1976年)に出ています」
■「新しい規制による制限は一定のリスクがあると考えるが、人権を揺るがす、傷つけることが許されていいわけがない」
【津久井弁護士】「SNSどころか、今のような選挙活動が全くない時代のことですので、直ちに参考にはできないということで、これまではあまりこの犯罪類型は使われてこなかったわけですが、むしろSNSを主とする活動になったこの時代においては、むしろこれが存在感を増すのではないかと」
「今国会で新しい法制を作ろうという動きもありますし、兵庫県議会でも誹謗中傷などについて、新しい制度を作って欲しいという議会の決議がこの前、出されたところでありますが、私たち法律家としては、新しい規制が次々とできることで、人権あるいは自由というものが制限されることは一定のリスクがあると考えています」
「だからといって、野放しに、他の人権を揺るがす、傷つけるということは許されていいわけではありません」
「となれば、今ある規制の中で使えるものを弾力的に、時代に合った形で適用することで、こうした被害を防ぐというのが筋ではなかろうかということで、今回告発に及んだということを申し添えておきます」