兵庫県知事選挙で斎藤知事の陣営がPR会社に報酬を支払い、SNS運用などを依頼したとして、刑事告発された問題。
新たに選挙当時、斎藤陣営に支援を申し出た人からの証言が相次いでいます。
■斎藤知事とPR会社社長が刑事告発されるも法的な問題ないと主張
21日会見を開いたのは、選挙当時、斎藤陣営に接触していたという人物です。
【支援を申し出ていた川田正敏さん】「斎藤さんに誠実に問題に向き合ってほしい」
去年行われた兵庫県知事選挙。選挙後に西宮市のPR会社が「斎藤知事のSNS運用など広報全般を請け負った」とインターネットに投稿しました。
PR会社にはポスター制作などの対価として斎藤知事の陣営から71万5000円が支払われていて、この支払いが公職選挙法上の「買収」に当たるとして、先月、斎藤知事とPR会社の社長は刑事告発されました。
一方、斎藤知事側はこれまで、「SNSの運用はボランティアとして無償で提供されたもの、広報全般を任せた事実はない」などとして、法的な問題はないと主張していました。
■「SNS監修はPR会社へ依頼した」と断られていたことを明かした神戸市議
PR会社は、斎藤知事陣営のSNS戦略においてどのような役割を担っていたのか?
ここにきて選挙当時、斎藤知事に支援を申し出た人からの証言が相次いでいます。
まず先週、神戸市の市議会議員は、選挙前に陣営に動画編集などの支援を申し出たものの、「SNS監修はPR会社へ依頼した」と断られていたことを明かしました。
【上原みなみ市議】「試しに撮影してほしいと依頼され1本動画を作りました。しかし、翌日6日朝、広報担当者K氏から『SNS監修は(PR会社)にお願いする形となりました』というラインが届きました」
■ 「詳細を説明してほしい」と上原議員を斎藤知事陣営に紹介したという男性
そして21日、上原議員を斎藤知事陣営に紹介したという男性が会見を開きました。
上原議員と同様、「SNSの依頼はすでに決まっている」と連絡をもらったと証言した男性。後に斎藤知事が会見で「SNSは斎藤事務所が主体的にしていた」など発言したことを受け、その真意を電話で聞いたということですが・・。
【支援を申し出ていた川田正敏さん】「みなさんと同じように『弁護士さんに話してください』と一点張りでした」
男性は知事に対し、「詳細を説明してほしい」と訴えました。
【支援を申し出ていた川田正敏さん】「誠実に真実を答えていただくことが、これからの兵庫県を前に進めていくことだと思うんですよ」
選挙の結果が出てから2か月がたっても混乱が続く中、事実はいったい何なのか、解明が待たれます。
■食い違う双方の主張 ポイントは「斎藤陣営側から証拠が出てきている」こと
この問題について、元大阪地検検事で数多くの刑事・民事裁判を手掛ける亀井正貴弁護士が解説します。
兵庫県知事選挙をめぐるSNS監修の問題について、上原神戸市議、そして川田氏は、選挙前に斎藤陣営にSNS監修の支援を申し出るも、「SNS監修はPR会社に依頼したと断られた」と発言しています。
一方、斎藤知事は「SNS戦略の企画立案をPR会社に依頼した事実はない。代表は個人のボランティア。ポスター制作などにおよそ70万円を支払った」としています。
双方の主張が食い違っています。
上原神戸市議は「SNS監修はPR会社に依頼した」ことが事実だということになると、主体的に選挙運動に関わったとみられかねないと思います。
【亀井正貴弁護士】「このままだと選挙運動になってくると思います。大事なのは、これが斎藤知事を支持し支援を申し出た陣営側からこの証拠が出てきてるというのが重要なポイントです」
違法性を問われるのは、PR会社になるのでしょうか?
【亀井正貴弁護士】「これがSNS関係の行為に対して、対価が払われてるんだったら買収にあたり、公職選挙法になります。対価が払われていないんだったら、政治資金規正法における寄付の違反になってくるんですね。PR会社が行った寄付自体が政治資金規正法違反になってくるということですね」
(Q行為が寄付になるということ?)
【亀井正貴弁護士】「PR会社のこの(SNS監修)サービスは、おそらく数百万単位だと思います。他でも同じようなことをやって、数百万例えば500万円、600万円で受けてましたとなってくると、500万円、600万円の寄付を斎藤陣営にしたことになってきます。一定金額以上は寄付自体をしてはいけないので、年間で寄付する金額の上限が決まっているんです。そうなると政治資金規正法違反になってきます。
あとPR会社が元々、兵庫県との間に密な、重要な、利益の高いような契約をしていたら、もう寄付自体がダメになる。これは公職選挙違反になるということです」
■支払われた報酬70万円の違法性は「一番最初の話し合い」が重要
そして支払われた70万円余りという報酬には違法性はありますか?
【亀井正貴弁護士】「これはSNS戦略に対して払われたものか、どうかということですね。それを決めるのは、一番最初の段階でどういう話し合いがあったかということと、その話し合いを基礎づけるような裏付けになるような物証があるかどうか。
見積もりの段階で、SNS戦略において例えば、『これも含めて100万円で受けられます』という見積もりが出てれば、これも入ってくる可能性がありますし、逆にLINE、メールで『SNSはボランティアでないなら違法だから、これはボランティアでやってください』と。だけど他のものについては70万円でやってくださいというのが、LINEやメールで(やり取りを)やっていれば、むしろ『ボランティアだ』という斎藤知事の主張を裏付けるわけです。だから、最初にどういうブツ(物証)が出てくるかです」
こうした点については、これから捜査が進められるということです。
■死者に対する名誉棄損 「確かな根拠がなくても一定の根拠があって『これは本当だ』と思ったら罪に問われない」
そして兵庫県政をめぐってはこのような問題もありました。
1月18日、百条委員会の委員だった、兵庫県議会の竹内英明元議員が亡くなりました。自殺とみられます。
竹内さんは去年、ネット上での激しい中傷などを理由に議員を辞職していました。
19日には、NHK党・立花孝志党首がYouTubeで、「逮捕が怖くて命を絶った」と発信しました。
しかし20日、兵庫県警本部長がSNSでの発信を否定するという異例の対応を取りました。「逮捕するという話は全くない」としています。
これを受けて、立花党首は発言を訂正し謝罪しました。
事実でない情報を立花党首が発信し、それについては謝罪をしましたが、この行為は名誉毀損(きそん)などの罪には当たらないのでしょうか?
【亀井正貴弁護士】「これちょっとポイントがありまして。名誉毀損(きそん)は“生きてる人に対する名誉毀損”と“死んだ人に対する名誉毀損”のハードルが全然違います。
生きてる人の場合には、その事実が真実であろうがなんであろうが、社会的に名誉を損なえば名誉棄損罪は成立するわけです。ただよく言われている、『真実相当性』と言って、『真実であることを客観的証拠をもって信用』したんだったら、それは違法性が退けられるという次元なんですよね。
ところが死者に対する名誉毀損は、あくまで虚偽であること、かつ、『うそだと分かった上で公表、指摘しました』ということが必要です。だから具体的な、確かな根拠がなくても、立花氏が一定の根拠があって『これは本当だ』と思ったんだったら、犯罪は成立しません。
その立証責任を負うのは、死者の場合には、捜査側が負います。『うそだと認識した上でやった』ということを捜査側が負うわけです。
逆に生きている場合は、被疑者が『自分はちゃんと信用したんだ』という立証責任を負います。
立証責任が転換されるので、その意味で捜査側のハードルが高くなります」
■今後の選挙戦で同じことが発生しないようにするには
今回のこの一連の状況から番組コメンテーターの大阪大学大学院の安田教授は「切り抜き・切り取り動画」の規制を提案しました。
【大阪大学大学院 安田洋祐教授】「名誉毀損、亡くなってる場合難しいという話がありましたけれども、生きてる場合でもやっぱりなかなかハードルが高いと思うので、ここを少しルールを変えていくとうのも一つのアイディアだと思います。
あとはSNSならではってということであれば、切り抜き、切り取り動画ってありますよね。あれを通じて、本人ではなくて、例えば立花さんが話した内容を、別の人がさらに拡散して、多くの閲覧があるとそれによって収益が得られるという構造がSNSの中にあるので、そこを少し見直していくという、経済面から多少、規制かもしれないですけど、ルールを変えていくってことも考えてもいいかもしれない」
表現の自由を守りながらも変える所は変えていく。これが大切だということです。
(関西テレビ「newsランナー」2025年1月21日放送)