和歌山市の演説会場で岸田前首相を襲撃した、殺人未遂など罪に問われている男の裁判員裁判が始まり、男は「殺意はありません」などと起訴内容の一部を否認しました。
検察側は「爆発物の使用は、人が死ぬ可能性が高い行為を、そのような結果が生じても構わないと思い、行為に及んだ」と公判で木村被告に殺意があったことを立証する見込みです。
■岸田前総理らを殺害しようとした殺人未遂など5つの罪に問われる
木村隆二被告(25)は、兵庫県の自宅で火薬や爆発物を製造し、おととし4月、和歌山市の演説会場で爆発物を投げ込み、岸田前総理らを殺害しようとしたものの2人に軽傷を負わせるにとどまった、殺人未遂の罪、このほか事件当時、包丁1本を所持していた銃刀法違反の罪など5つの罪に問われています。
<木村被告が起訴された罪名>
・火薬類取締法違反(自宅で火薬製造、現場で火薬所持)
・爆発物取締罰則違反(爆発物の製造、現場で爆発物所持)
・公職選挙法違反(選挙の妨害)
・殺人未遂 ・銃砲刀剣類所持等取締法違反
■「事件当時と比べると、痩せた印象」木村被告の様子は
4日に始まった裁判員裁判で法廷に入ってきた木村被告は、次のような姿でした。
・黒髪・短髪・黒のジャケットに少しダボっとしたズボン、カーキ色のシャツ。
・まっすぐ前を見て法廷に入る。
・席に着くと、弁護人と話す。
・事件当時と比べると、痩せた印象。
■「殺意はありません」などと起訴内容の一部を否認
そして始まった初公判で木村被告は、「殺意はありません」などと起訴内容について「殺意」や「選挙を妨害する意図」など、一部を否認しました。
【裁判長】「検察官が読み上げた起訴内容で間違っているところはありますか?」
【木村被告】(沈黙があって)「間違っているところもあります」
【弁護側】「どこのことだかわからないので、具体的に聞いてもらえれば」
【裁判長】「火薬を製造したことについては?」
【木村被告】「火薬を製造したことは認めます」
【裁判長】「殺害する目的は?」
【木村】「人を害する目的ではないです」
【裁判長】「『殺意を持って爆発物を投げ込み、選挙を妨害した』ことについては?」
【木村被告】「選挙をやっていることを知りませんでした。殺意はありません。人をケガさせたりする目的はないです」
また弁護側は殺人未遂罪について、「殺意はなかったが、2名に傷害を負わせたことは認めるので傷害罪に留まる」と主張しました。
■検察側の指摘は
続いて検察側の冒頭陳述では。
<争点について>
・火薬や爆発物を作ったり、投げて爆発させたりといった主な事実関係に争いはない。
・人の身体を加害する目的及び、殺意があったか。
・爆発物を投げた当時、選挙運動としての街頭演説会が行われているという認識があったか。
■事件直前「自民党本部 警備」「内乱罪」などを検索
<犯行に至る経緯>
・2021年に大学を中退し、その後短期アルバイトなどをする。携帯で政治問題や選挙制度について検索
・2022年6月、国に対して「年齢や供託金で参院選に立候補できなかった」と損害賠償を求めて裁判を起こす。この裁判は事件後に敗訴確定。
・同じころ、X(Twitter)で自分の裁判や選挙制度のことを書き込んだほか、市議主催の姿勢報告会へ出席、国会議員と選挙制度について会話
・2022年11月ころに火薬の材料を購入し、製造を始める。
・2023年4月13日 岸田前総理が万博起工式で夢洲へ→被告も夢洲付近へ
・2023年4月14日 「自民党本部 警備」「内乱罪」など検索
・同じ日に遊説日程発表→被告も閲覧、会場の「雑賀崎」を検索
■「爆発物の鋼管40メートル先倉庫に」「キャップの一部60メートル先コンテナに」
<事件当日=2023年4月15日の動き>
・雑賀崎までの経路、「自民党 遊説 警備」、事件当時の補欠選挙に立候補していた、自民・門博文氏のインスタグラムなどを検索
・4月13日以降の検索履歴が入ったハードディスクを屋根裏にしまい雑賀崎へ出発
・午前11時17分頃 岸田前総理が会場に。直後に木村被告も会場に入る。
・午前11時27分頃 事件発生。その後、2個目の爆発物を取り出している時に取り押さえられる。
<犯行後の状況や結果>
・爆発物の鋼管が40メートル先の倉庫に当たる、キャップの一部が60メートル先のコンテナにめり込む
・2人が軽傷
・事件によって、選挙運動は中止、岸田前総理らは避難し、その後の選挙活動にも影響
■検察側「周囲の人を無差別に巻き込んで攻撃対象としたテロ行為」など指摘
<争点に対する検察側の主張>
・爆発物の製造、使用及び所持は、人の身体を害する目的を伴うもの、かつ、爆発物の使用は人が死ぬ可能性が高い行為を、そのような結果が生じても構わないと思い、あえて行為に及んだもの。つまり殺意があった。
<刑の重さを決めるにあたって>
・当時の現職総理を狙い、周囲の人を無差別に巻き込んで攻撃対象としたテロ行為。
・非常に危険な犯行。
・選挙制度の根幹を揺るがす犯行である。
・同じような犯罪を防ぐ必要がある犯行であること。
■弁護側「実験で爆発音や煙は出たが、人を死傷させるような威力はない」
また弁護側は冒頭陳述で次のように説明しました。
・木村被告は、世の中を良くしたいという思いから政治家を志していた。
・日本の選挙制度は「自由選挙」ではなく「制限選挙」であると考えた。
・そこでSNSに書き込んだり、国家賠償請求の裁判などを行って注目を浴びようと思ったが、思惑通りにはいかなかった。
・有名政治家がいるところで爆発物などの騒ぎを起こせば、注目を浴びるのではないかと考え、爆発物2つを製造した。
・2023年3月ごろ、つくった爆発物を近くの山林で爆発させた。
・この実験で爆発音や煙は出たが、人を死傷させるような威力はないと思うに至った。
・被告人は、犯行に至るまでに“岸田前総理が来ることは知らなかった”