聴覚障害のある女の子が死亡した事故の賠償をめぐる裁判で、双方が上告しなかったことから、女の子の逸失利益=将来得られるはずだった収入について、障害を理由とした減額をせずに運転手らに賠償を命じた2審の判決が確定しました。
■聴覚障害理由に「将来得られるはずだった収入」を労働者全体の平均賃金の「85パーセント」に
聴覚障害があった井出安優香さん(当時11歳)は7年前、大阪市生野区で、暴走した重機にはねられて死亡しました。
安優香さんの両親が運転手の男らに損害賠償を求めた裁判で、1審(大阪地裁・武田瑞佳裁判長)は将来得られるはずだった収入=逸失利益を、障害を理由に労働者全体の平均賃金の85パーセントと判断し、両親が控訴しました。
■「言葉を話すことは難しい」と言われても…努力を重ね話せるようになった安優香さん
安優香さんは生まれた当初、医師から「言葉を話すことは難しい」と言われていましたが、努力して人前でも堂々と話せるようになっていました。
それだけに1審の判決後、両親は怒りの声を上げていました。
【父・井出努さん】「結局は裁判所は差別を認めたんだな、と」
【母・さつ美さん】「どんなに努力してもただ聴覚に障害を持っているだけで、その子の人生を否定されなければならいんですか」
■大阪高裁は「安優香さんに高いコミュニケーション能力があった」などとして聴覚障害理由に減額すべきでないと判断
そして先月20日に言い渡された2審・大阪高裁(徳岡由美子裁判長)の判決は、「安優香さんに高いコミュニケーション能力があった」、「近年のデジタル化の進展によって障害者が働きやすい職場環境が構築されている」などと指摘しました。
そのうえで、逸失利益について「減額するのは顕著な妨げがあるとき」として、安優香さんの逸失利益を算定する基礎となる収入は、労働者全体の平均賃金と同額と判断し、賠償を命じました。
■双方の上告がなく判決確定へ
大阪高裁によると、4日の期限までに双方からの上告がなかったことから、2審の判決が確定しました。
■父・努さん 涙ながらに「絶対に100パーセント勝ち取ってやると約束 やっと報われた」
安優香さんの父・井出努さんは、判決の確定を受けて大阪市内で会見を開き、涙ながらに心境を語りました。
【父・井出努さん】「私は、絶対に絶対に(逸失利益を)100パーセント勝ち取ってやると娘に約束しました。大切な我が子を殺されて、そんな差別的な発言(障害を理由とした逸失利益の減額)を言われて許せる親はいますか、絶対いないと思います。
すごく怒りを覚えましたが、そういう感情でいってしまうと、娘の名に傷が付くことになるので、私はその気持ちを抑えてきました。そして、ちゃんと司法というルールで相手側に復讐(ふくしゅう)してやろうと頑張ってきました。やっと報われたなと思っています」
事件から7年。努さんは、「長かった」と振り返りました。
また、これまでの裁判で、運転手側が逸失利益の減額理由として主張した、「9歳の壁(聴覚障害者の学力などは小学校中学年の水準にとどまるとした論文の一部)」という差別的な考え方を運転手側に示した人物がいたとして、誰なのかは特定できていないとしながらも、謝罪してほしいと訴えました。
井出さんを支援してきた、大阪聴力障害者協会の長宗政男会長は判決の影響について、「障害を持っている人やその家族にも勇気を与えた結果だった」、「差別のない社会は、共生社会の実現につながる。今回はその大きな一歩になったと思う」と述べました。