医療費が高額になった場合に患者の負担額を抑える「高額療養費制度」。
昨年12月、政府は自己負担額の上限を、今年8月から段階的に引き上げる方針を固めた。
しかし、患者団体などから「治療を続けられなくなる」と見直しを求める声があがり、石破首相は4日の衆院予算委員会で対応を検討する考えを示した。
病気は他人事ではない。
「高額療養費制度」がどれだけ重要なセーフティネットなのか、34歳で直腸がんと診断され、1年に渡る抗がん剤治療を終えたばかりの樋口貴弘さんに話を聞いた。
■「ボリュームゾーン」「働き盛り」を狙い撃ち 不安しかない
【樋口貴弘さん】
2022年6月、34歳の時にステージ1の直腸がんと診断され、手術をしました。
その後、肺転移が見つかり再び手術。
23年12月から1年間、抗がん剤治療を行いました。
我が家は妻と6歳の長女、昨年生まれた長男との4人家族です。
負担上限額が引き上げられた場合、現在の約8万円から11万円超になります。
今回の改正案は、年収約510万円から約770万円までの引き上げ幅が非常に大きくなっています。
ちょうどボリュームゾーンの、働き盛りの人たちが狙い撃ちされていると思います。
なぜ、子供の教育やマイホームなど、何かとお金が必要な世代の負担を上げようとするのか。
とても納得がいきません。
もちろん、地域によって年収の違いはあるでしょうが、都市部は物価も高いので、多少収入が良くても余裕はありません。
給与は少しずつ上がっていますが、物価上昇に追い付いていない。
その状況でこれをやるのかという気持ちです。
昨年12月のCT検査で、みえる範囲の病変はなくなり、抗がん剤治療もいったん終了となりました。
第二子も生まれ、家族のために頑張って行こうという矢先に、高額療養費制度が変わると言われ、どうしようかと。
不安しかないです。
■抗がん剤の薬価は『1回100万円』 「見捨てる制度改悪」過言ではない
私の場合、2週間に1度、抗がん剤を投与したのですが、薬価は1回あたり100万円。
3割負担なので、月に2回だと60万円ほどかかります。
これが、高額療養費制度で8万円程になりました。
抗がん剤治療をすると、どうしても体調が悪くなって、仕事を休まざるを得なくなります。
私の場合、20日ある有給は、検査や入院で使い切ってしまい、その後の治療や体調不良は欠勤になりました。
給与は引かれるし、ボーナスも減る。
収入が減ったのに、治療費がかかるのです。
そんな状況で、さらに負担額の引き上げというのは、私のような人を「見捨てる制度改悪」と言っても過言ではないと思います。
病変がなくなったといっても、再発の不安はずっとつきまとっています。
この先、再発したらどうなるのだろう。
負担額が11万円になると思うと、「治療を諦めなければいけなくなるかもしれない」、そんな風に考えてしまいます。
■高額療養制度の対象にならなくなるかもしれない
高額療養費制度には「多数該当」というのがあり、過去12か月以内に3回以上、自己負担限度額に達した場合、4回目以降は負担限度額が引き下げられます。
私も、抗がん剤治療が始まって最初の3か月は8万円の支払い、4か月目からは多数該当で4万4400円になり、ずいぶん助かりました。
負担の上限額の引き上げは、ここにも関わってきます。
例えば、抗がん剤の薬価は種類によって様々。
4万円の治療を月に2回受けたとして、現状の上限額(8万円)なら4か月目から多数該当で支払い額が下がります。
ところが、上限額が11万円に引き上げられたら、4万円×2回=8万円だと、そもそも高額療養費制度の対象になりません。
その場合、単純計算で1年に30万円以上多くの支払いが必要になるのです。
■パイの奪い合いではなく、パイを増やす政策を!
高額療養費制度はすべての人にかかわるものだと思います。
今、健康な人もいつ病気になるか分かりません。
私も以前は自分の健康を疑ったことがありませんでした。
そして、みんないずれ高齢者になるのだから、「高齢者の医療費がかかりすぎ」と削るのも違うと思います。
社会保障費の増大が問題というのであれば、『社会保障費を削減する、誰かの負担額を増やす、といった、パイの奪い合いの政策』ではなく、『景気を良くし、国民の所得を底上げすることで、社会保険料全体の納付額を増やすような、パイを増やす政策』を政府にお願いしたいです。
皆が安心して医療を受けられる社会であって欲しいです。
(樋口貴弘さん)