未成年でも親の目を通ることなく簡単に作れてしまうクレジットカードがあります。
いまSNSを入り口に、このカードを使った詐欺が横行。
実際に被害にあった中学生とその親が、巧妙な手口を取材に明かしました。
■スマホがクレジットカード代わりになる「バーチャルカード」
「振込め詐欺」や「還付金詐欺」に代表される特殊詐欺。次々とその手口を変えるため、警察との間でいたちごっこのような状況が続いています。
いま「未成年」をターゲットにした新たな手法が広まりつつあります。それはバーチャルクレジットカード=通称「バーチャルカード」を使用した詐欺。
「バーチャルカード」という言葉を知っているか、街の人に聞いてみると…。
【中学生の子供を持つ母親】「知らないです、知らなかったです。この子まだおこづかいだけだから、それはないかな」
(Q.未成年でもクレジットカード作れるのですが)
【中学生の子供を持つ母親】「そうなんですか?」
【中学生】「手元にあったら使いたいですけど」
バーチャルカードとは実物のカードが発行されない、クレジットカードのこと。登録するとスマートフォンをクレジットカードとして利用できるようになります。
ほとんどが事前にお金をチャージする方式で、アプリを使って決済します。 実際に使っている高校生もいました。
【高校生】「知ってます。(使ったこと)ありますね。アプリ入ってます。服とかネットフリックスとかの支払いに使っています。コンビニとかでチャージして使っています」
■詐欺被害に遭った中学生「盗られた瞬間、心がぞわーって急に怖くなった」
このバーチャルカードがどのように詐欺に利用されたのか。
今回、実際に金をだまし取られてしまった神戸市に住む中学生のゆうたさん(仮名・13歳)と父親が取材に応じました。
【ゆうたさん(仮名)】「後悔が一番大きかったです。盗られた瞬間、心がぞわーって急に怖くなって」
中学生のゆうたさんが詐欺被害に遭う入り口となったのは、私たちもよくSNSで見る動画です。
【動画】「コメントしてくれた人全員に2万円入ります」
【ゆうたさん(仮名)】「『お年玉の礼儀正しいやりかた』という動画を見て、お金が欲しい人は私にコメントくださいって。コメントしてみたら『あなたが100万円の当選者になりました』って感じでDM来て」
【ゆうたさん(仮名)】「最初は怖いというよりは、『当たったんだ』と喜びが大きかったですね」
100万円当選の連絡を受けたゆうたさん。ダイレクトメールやLINEを通じてやり取りを重ねると、「vandelアカウントはお持ちですか?」とメッセージが。
このアカウントこそ、バーチャルカードのアカウントだったのです。
■「保護者の同意」チェック入れるだけで登録できてしまう
ゆうたさんも手続きをし登録させられたのですが、なぜ中学生がクレジットカード代わりになるバーチャルカードを作ることができたのでしょうか。
記者が実際に登録手続きをしてみました。
【記者】「試しに未成年で登録しようとすると、保護者の同意が求められました」
未成年に対しては保護者の同意という項目は存在するのですが、実際にはチェックを入れるだけで次の手続きに進めてしまうのです。
【記者】「電話番号と生年月日だけで簡単に登録できてしまいます」
実際、ゆうたさんも…。
(Q.お父さんお母さんに相談は?)
【ゆうたさん(仮名)】「何も言ってないです」
【ゆうたさんの父親】「(被害にあった後)様子がおかしかったんで、『どないした』と言ったら黙ってしまった」
■SNSで指示されチャージした「3万円」抜き取られる
ゆうたさんがバーチャルカードの登録を済ませると…
【LINEのやりとり】 「商品を引き出すにはコンビニエンスストアで残高に3万円をチャージしてください」
「100万円を獲得した後は残高が戻るので安心してください」
ゆうたさんは貯めていたおこづかい3万円をチャージ。クレジットカードに関する知識がないため、重要な情報とは気が付かずに、バーチャルカードの情報を伝えてしまい、3万円は抜き取られました。
そして相手からの返信も途絶えたということです。
ゆうたさんはその後、父親に相談し、被害届を提出。兵庫県警が詐欺事件として調べています。
【ゆうたさんの父親】「ぼくもバーチャルクレジットカードというのは全く知らなくて。13歳でも作れるカードというのがいかがなものかと」
■「バーチャルカード…小中学生あたりがターゲットになる」と専門家
サイバー犯罪に詳しい専門家は「若年層を狙った新たな犯罪の手口だ」と話します。
【神戸大学 森井昌克名誉教授】「バーチャルカードは今のところはあまり悪用されていない。詐欺に使われるという意識が少なくて、小学生、中学生あたりというのがターゲットになるということですね」
【神戸大学 森井昌克名誉教授】「中学生とか高校生とかは、いろいろだましやすいですから、どちらかというと。社会的経験が少ないので」
ゆうたさんのお金を抜き出したSNSのアカウントはすでに削除済みでした。
手を変え、品を変え、私たちに忍び寄る新手の詐欺。便利さの裏にある危険と注意深く向き合う必要があります。
■「バーチャルカード」の中には審査なしで発行できるものも
「バーチャルカード」とはプラスチックの実物のカードを発行することなく、カード情報だけをネット上で発行するといったイメージです。主にネット上の支払いで利用できます。
「前払いのプリペイド式」と「後払い式」などがあり、前払いのプリペイド式は審査なしで発行できてしまうカード会社もあります。
たくさんの会社がすでにバーチャルカードを導入していますが、会社によって払い方の方式や審査方法などは異なります。
詐欺被害について詳しい専門家、神戸大学の森井昌克名誉教授は、「バーチャルカードの利用の拡大で、今後はバーチャルカード詐欺が増えるだろう」とみています。
問題点として、簡単なチェックだけで未成年でも作れてしまう手軽さがあり、年齢制限や審査に時間をかける必要があると森井昌克名誉教授は指摘しています。
■事業者が保護者の同意を慎重にチェックするシステムが必要か
審査がなく発行されるバーチャルカードもあり、実際に被害に遭っている中学生もいて、保護者は気が気ではありません。
【ジャーナリスト 岸田雪子さん】「子供たちが被害に遭って、いま盲点になってしまっているところかと思います。こうした一種の金融詐欺について、高校では金融教育が義務化されました。一方で子供たちの多くが自分のスマートフォンを手にする時期は中学校に入る時期とも言われているので、ぜひこうしたニュースをきっかけに、スマホを通しての詐欺被害や犯罪リスクを、ご家庭で話題にしていただきたいだと思います」
【ジャーナリスト 岸田雪子さん】「保護者の承認プロセスというところがすごく大事です。実際に保護者が承認していなくても、子供が“保護者が承認したかのように”作業して進めてしまうというのは問題で、やっぱりこの点は事業者側も、例えば保護者のメールやショートメッセージに暗証番号が飛んできて、保護者が登録しないと使えないようにするとか、そうしたダブルチェックのシステムを今後進めていく必要があるのではないかと思います」
詐欺の手口が巧妙化しています。十分に気をつけてください
(関西テレビ「newsランナー」 2025年2月12日放送)