コメの価格高騰がとまりません。
2月2日までの1週間でコメの店頭価格が、これまでで最も高くなったことが明らかになりました。
そんな中、政府が決めたのは備蓄米の放出。
ニッポンの米作りは一体、どうなるのでしょうか。
■「朝と夜に1キロごはん」野球強豪校 コメの価格高騰で「寮費」値上げ検討
皿によそう“山盛り”ごはん!
(Q.1人分?)
【高校生】「はい」
(Q.毎回この量?)
【高校生】「そうですね、毎回」
モリモリごはんを食べるのは…高校野球の強豪、神戸国際大学附属高校の野球部。
強い体をつくるために、朝と夜にそれぞれ“1キロのごはんを完食する”ことを目標にしているのです。
この日の献立、「ハンバーグ」と一緒に食べ尽くします。
【高校生】「めちゃくちゃうまいっす」「ご飯が余ったらこれ(ノリの佃煮)使おうかなって。必殺技です」
【中上雄介コーチ】「監督が、“コメ入れる量が勝ちたい量や”って言ってるんで、だからみんな結構食べます」
しかし、その一方で頭を抱えているのがコメの価格高騰です。
【約20年料理を担当 藤田将行さん】「おととしの12月に比べたら、今の仕入れは金額でいうと2倍を超えました」
牛肉を鶏肉に変えたり、食べ放題だった卵をなくしたりと、コメの値上げに合わせてさまざまな対策をとっていますが、不安は尽きません。
【約20年料理を担当 藤田将行さん】「しっかり食べてもらって、精いっぱい野球もやってもらうのが一番。現状だとお米の値段が下がるのを待つしかできないので、ここは耐えて」
物価高で去年、「寮費」を上げましたが、ことしもさらに上げるか検討しているといいます。
■令和のコメ騒動 新米の時期に解消と言われていたが…
去年8月、スーパーからコメが姿を消し、“令和のコメ騒動”とも言われた事態。
「9月になって新米が入荷すれば価格は落ち着く」と言われていましたが…
【記者リポート】「こちら大阪市内のスーパーなんですが、コメを見てみますと、全て税込み4000円超え、中には5000円超えのものもあります」
去年8月は5キロで税込み3218円だったのが、12日は一番安いコメでも、税込み4190円と1000円ほど高くなっています。
農林水産省によると、2月2日までの1週間のコメ5キロあたりの平均店頭価格は、前の週より38円値上がりし、3688円に。これまでで最も高くなったことが分かりました。
【フレッシュマーケットアオイ昭和町店 石上一隆店長】「入ってくる量は、何かしらはあるけれど、出てくる量は少ないですし、需要と供給の世界なので、なかなか値段は上がってしまうのかな」
■家計を直撃するコメの高騰 「少しずつ炊く…」
コメの高騰は家計を直撃しているようで…。
【街の人】「昔10キロが3000円台、倍くらいになってる。下げてほしい。石破さんに言っといて!」
【街の人・子】「卵かけご飯とか、お茶漬けとか」
【街の人・母】「炊くときに、少しずつ炊くようにしてます」
【街の人】「やっとお店には並んでるけど。お米派だもんね。『パンにするか』と言ってたけど、絶対無理」
■JAも異例の対応 農家訪問で「少しでも出してくれないか?」
なぜ、ここまで高騰が続いているのか?
滋賀県愛荘町のコメ農家を訪ねました。
【カネク久 保田九社長】「これが、うちに残っている在庫です。これで大体500袋ぐらいですね」
積み上げられたコメはすべて販売先が決まっていて、余っているものはゼロ。
しかし、一度コメを納めた後にも、JAから追加の出荷依頼があったということです。
【カネク久 保田九社長】「毎年だとチラシで『農協(JA)に出荷してください』という感じですけど、ことしは訪問して『少しでも出してくれないか』と。大規模農家に回ってるような感じです」
(Q.実際に、その当時余っていたコメは?)
【カネク久 保田九社長】「ないです」
■”消えたコメ問題” 収穫量は上がったのに集荷量が減る
農林水産省によると、去年の全国のコメの収穫量は、679万トンと前の年より18万トン増加。なのに、コメが足りていないというのです。
理由は一体何なのか。専門家は…。
【宇都宮大学農業経済学科 小川真如助教】「コメの収穫量は増えたけれども、米の集荷量は減ってるという、“ねじれ現象”が起きています。農林水産省が普段、行っている調査の対象外となるような中小規模の卸だとか、個人(の卸)だとかが、コメを多く集めてるのではないかと。どこか一部の人々がコメを蓄えてるんじゃないかと」
いわゆる”消えたコメ問題”です。
収穫量は前の年よりも増えたのにも関わらず、JAなど主な集荷業者が生産者から集めたコメは、前年より20.6万トン減少。
つまり、投機目的で一部の卸売業者などが、より高く売れるタイミングまで、コメをストックしているため、市場に出回らず価格が高騰しているのではというのです。
■政府が保管する「備蓄米」を放出すると発表
農林水産省もこうした状況を問題視。そして先週、発表したのが…。
【江藤拓農水相】「政府備蓄米の活用につきましては、4日の閣僚懇談会におきまして、総理から私に対しまして、早急に進めるように指示がありました」
政府が保管する「備蓄米」を放出するという一手です。
農林水産省は、14日に入札で売り渡す数量などを示し、その後、備蓄米を売り渡す方針です。
流通を円滑化するために打ち出された備蓄米の放出。
実際に価格は下がるのでしょうか。
■「備蓄米」の放出は実際どう影響? 専門家が解説
毎年集められている備蓄米は、合計およそ100万トンあります。これは国内需要の1カ月半から2カ月分を満たすものです。そして農水省は14日、備蓄米の放出の詳細を発表すると決めました。
ただし一年以内に放出量と同じ量を買い戻すという条件付きです。
備蓄米の放出がされたら、実際いつ頃市場に出回ってくるものなのでしょうか。農業経済学が専門の宇都宮大学小川真如助教が解説します。
【宇都宮大学 農業経済学科 小川真如助教】「過去の事例で言えば、備蓄米の放出決定を公表してから落札者が受け渡しを受けるまで、だいたい3カ月ほどでした。今回はそれよりもスピーディーに行われるかどうかが注目されています」
■「米の流通を円滑化させるため」の備蓄米放出
農水省がなぜ放出に至ったかというと、「コメの流通を円滑化させるため」。コメ価格が高騰している原因の一つとして指摘されている「消えたコメ問題」の解消です。
農家がつくったコメは、JAなどに出荷され、卸売業者を通じて、さらにスーパー、小売店などを経て、私たちの手元に届きます。
「コメ不足」が問題となった去年ですが、生産量は前の年より18万トン増えたのに、集荷量は前の年よりおよそ21万トンも減ってしまいました。
これは一部の業者が高く売るために、コメをストップしているとみられ、円滑に流通しない状態が起こってしまったということです。
これが「消えたコメ問題」です。
■”売り渋り業者”は「米を手放さずしばらく様子見」か
それでは放出によって、コメの価格は下がるのでしょうか。
【宇都宮大学 農業経済学科 小川真如助教】「どのぐらい放出するのかは、14日に決まります。大量に出すと、大きく価格が落ちると予想されますが、国は『コメは足りている。流通が滞っている』としていますから、多く出すのは難しいと予想しています。
国としては理想としては、何とか少ない量を出して、売り渋っている業者や個人が米を手放すことを狙っていると思います。そうすると米の流通段階での価格は非常に上がっていますが、これを冷却、価格を抑えたいと考えます。
そうなると、小売価格は下がるか、どちらかというと横ばい、若干下落する程度になるんじゃないかと思います。 流通段階で起きている価格の高騰が小売価格に移るのをなんとか防ぐことが一番の成功シナリオではないかなと思っています。
現実的な予想では、少量を放出したところで本当に売り渋っている業者などがコメを手放すか、かなり懐疑的で、実際には手放さずしばらく様子を見るということが考えられます。
そうすると、『備蓄米が出ているのになかなかコメが出てこない』となると、『コメを集めておかないと不安』だという不安感を関係者が持つことになれば、流通段階の価格がさらに高くなっていくというようなシナリオも考えられます。結果として私たちがスーパーで買うコメも価格が上がってしまうシナリオも考えられます」
■「備蓄米放出を検討するというカードを切るのが遅かった」と専門家
備蓄米が放出されたとしても、結局米の価格は上がる可能性もあるようです。
newsランナーコメンテーターでジャーナリストの岸田雪子さんは、「農水省を取材したところ、リアルタイムに需給や価格帯を把握できるシステムがないから、数カ月経ったいまになって対策するのでは」と指摘しました。
ではもう少し早いタイミング、品薄が続いていた去年の夏から秋に「備蓄米放出」を決断していたら、より効果があったのでしょうか。
【宇都宮大学 農業経済学科 小川真如助教】「去年8月、大阪の吉村知事が備蓄米の放出を要請した時期は、コメは国全体では足りていました。そこで出さなかった判断は正しかったと評価しています。
一方で、国は去年の夏のコメの品薄に関して、分析結果を秋に出すと発表して、10月末に分析結果を発表したんですが、例えば備蓄米放出について、『今の法律を変えずに出せるかどうか検討したい』とか一文あれば、去年末から今年に入っての価格の高騰は抑えられたのかなと思っていて、備蓄米放出を検討するというカードを切るのが遅かったなと思っています」
■米作りの実態や全体像をつかむのは難しいが…
【宇都宮大学 農業経済学科 小川真如助教】「米作り自体が家族経営など全国で行われていて、たくさん作られてますし、流通も自由なのでなかなか補足が難しくなってきたのが現状です。実際統計分析などでサンプル調査などしていたりしますが、それで全体像が分かるかというと、難しい実態があります。
先ほどの集荷量が減っているという情報も、大規模な卸業者、出荷業者、集荷業者のデータであって、中小規模のデータは入っていませんので、なかなか難しいのかなと思います。ただ今回の事態をうけて、毎月行っている大規模な調査に加えて、農水省は生産者や小規模の集荷業者、卸業者の在庫状況も調査をした上で、どうやらマネーゲームのような形で持っている人たちがいそうだということをなんとなく掴んで、今回の決定に至っているようです」
■「食料安全保障から見るとある程度偏りなく米が作られていることが必要」
今回のような事態を招かないために、国としてどんなことに取り組むべきなのか、小川さんが提言します。
【宇都宮大学 農業経済学科 小川真如助教】「米生産の偏りを無くせということです。日本の中で米の生産量にかなり偏りがあって、今は東日本が盛んになっています。
基本的に今の農業政策はここ30年間で、コメの流通を自由にして、価格形成も自由にしようと。『国は関与しませんよ』というスタンスでこれまでやってきた流れがあります。流通を自由にすることによって、消費者はコメを自由に手に入れやすくなりましたし、産地間の競争が激しくなって、お米のブランドが育ちました。
一方でリスクもあって、例えば去年のコメの品薄の原因としては2023年の猛暑がありました。偏った産地で被害を受けると、全体が被害を受けやすくなるということがあると思います。特に最近台風の通り道も変わってきて、東日本も被害を受けるようになっていると。そのため、食料安全保障から見ると、ある程度偏りなくコメが作られていることが必要と考えます」
(関西テレビ「newsランナー」2025年2月12日放送)