こちらは大阪府内の老人ホームが作成したチラシです。
「ご成約手数料キャンペーン。難病指定受けている方120万円」
このお金は、老人ホームが入居者の紹介を行う会社に支払う紹介料です。 なぜ高額な紹介料が発生するのか、介護ビジネスの裏側を取材しました。
■老人ホームの紹介の裏側には別の理由があるかも?
【参加者(79)】「人生を自転車人生と決めたんですよ。毎日20キロ走ってるんですよ」
【参加者(65)】「YouTubeでたまたまドリフトを見て、自分ドリフトやりたいなと思って、B級ライセンスを取ったんです、ドライブの」
大阪市淀川区にあるNPO法人。「多世代型交流」を目的に、高齢者の支援や地域の人の情報交換の場ともなっています。
趣味の話で盛り上がる中、話題は「介護」のことに。
【参加者(55)】「父親が物忘れがひどくなったりとか、言ってることがおかしくなってきて、最終的には要介護5までいって」
去年88歳の父親を亡くした55歳の男性。
男性は紹介会社を通じて、父親が入居する老人ホームを決めました。
【55歳男性】「実家が堺市なので、堺市の施設を1軒、2軒見学させてもらって…。『大阪市内になるんですけど、新しい施設ができるので、施設もとってもきれいなので、そっち見学いきませんか?』と言われまして」
男性は、自宅の近くを希望していましたが、紹介会社から勧められたのは、自宅から遠い施設。
それでも「紹介のプロが勧めるなら」と父親の入居を決めました。
しかし、NPOの代表は、紹介会社には、別の理由があったかもしれないと指摘します。
【NPO法人ここから100 金山佳子代表】「新設やから入居者いれなあかんから、紹介料払うからちょっとでもという感じ」
■100万円を超える報酬を設定する施設が横行
これは関西テレビが入手した大阪府内の老人ホームが、入居者を紹介する会社に配布しているというチラシ。
「特定顧客の紹介料アップキャンペーン120万円」
「一般のご利用者様(要介護1~5)40万円。難病指定受けている方120万円」
常に介護が必要な人や、難病患者を紹介したら、100万円を超える報酬を支払うというのです。
なぜ値段が分けられているのか、高齢者福祉に詳しい専門家は。
【関西福祉科学大学 家高将明教授】「介護保険の制度設計上、介護度が高いほど、その報酬単価が上がっていくことが多い。また医療保険の訪問看護を使った場合は、医療保険の方からの報酬が上がってきて、トータルで収益は上がっていく」
紹介料は入居者が負担するものではありませんが、一部の高齢者施設がこのような高額な報酬を支払うケースが横行しています。
先週の国会でも…。
【日本維新の会 梅村聡議員】「高齢者施設への入所者紹介ビジネス。本当にその人にとって、いい老人ホームかどうかわからないけども、手数料が高いところに誘導されていく。これは地域包括ケアの中で非常に問題ではないかと」
■大阪市にある紹介会社では…
一体、介護の現場で何が起きているのでしょうか。
大阪市にある紹介会社を取材してみると…。
【opsol高齢者・ケア住宅紹介サービス 石津和幸代表】「お父さんだけ先にそういう希望される老人ホームとか施設に入られて、後々、お母さまの治療が終わられて、状態が落ち着いたらそこに合流する」
依頼者からの要望に合わせ、施設見学の設定や入居までをサポート。
さらに、いつでも依頼に対応できるよう老人ホームの空室状況などを直接確認しています。
【見学先のホームの人】「お部屋の方は7.5畳。お1人で生活されてるのは十分な広さだと思います」
一般的に紹介料は老人ホームが設定するため、施設ごとに報酬は異なりますが、こちらの会社では2月、入居者13人を仲介し、1人あたりの紹介料は平均で21万円ほどだったといいます。
しかし・・・
【opsol高齢者・ケア住宅紹介サービス 石津和幸代表】「どこどこは100万なんですけど、うちは120万出しますとか、最高額で150万円、普通に支払うので紹介ありませんかっていうような事業者さんとかも出てきたので」
数年前から、1人あたり100万円を超える紹介料を支払うという老人ホームが増えてきたといいます。
■老人ホーム関係者は「紹介料を払えないと紹介してもらえない」
高額な紹介料のチラシを配布していた老人ホームに取材してみると…。
【高額紹介料のチラシを配布した老人ホーム】「忙しいから対応できません。コメントできません」
一方で、大阪府内のある老人ホーム関係者は…。
【老人ホーム関係者】「紹介料を払えないとなると、もう紹介してもらえなくなる。入居者の9割以上が紹介業者を介しているので、払わざるを得ない。1人あたり120万円以上払ったこともある」
■「手数料が他社に比べ安いと紹介してもらえない」施設側の不安
入居者に値付けしているかのような高額な紹介料の問題。この状況に疑問を持つ老人ホームもあります。
こちらの施設では、紹介会社に支払う料金は、基本的に一律25万円。
そのため、高額な紹介料を支払えないと分かると、紹介をやめる会社もあるといいます。
【KUON東住吉 江口英輝さん】「ここで見学をいついつに決まっているっていう状況にもかかわらず、うちの手数料が他社に比べて安いってなると、その見学すらももうなくなってしまうっていうのはあります」
「他社さんがこう上がっていくと、どうしてもうちも紹介してもらえなくなってしまうんじゃないかなというので、恐怖じゃないけど、置いて行かれてしまうんじゃないかなと」
高齢者施設をめぐる介護ビジネスの裏側。どのような対策が必要なのでしょうか。
【関西福祉科学大学 家高将明教授】「高額な費用がかかっているというところで、そこに上限設定するということも必要になってきますけれども、それだけでなく、今回の問題は高齢者や家族の方が、サービスまたは暮らしの場を選べないということが問題になってきますので、そこをしっかりと考えていく必要がある」
勧められる裏側にあるかもしれない本当の理由。
利用者ファーストの施設選びの仕組みが求められます。
■“高額な紹介料”最終的に「介護・医療保険料にはね返る」ことがあれば問題
高齢者施設から紹介会社に『紹介料』が支払われているという事実を、知らなかった人も多いのではないかと思います。
高齢者施設の中には、より高額な介護報酬や診療報酬を求めて、要介護度の高い人や難病の人などの紹介料を高く設定することで、紹介会社から優先的に紹介してもらおうというところもあるそうです。
このような紹介の流れには、どういった問題があるのでしょうか。
【関西テレビ 加藤さゆり報道デスク】「紹介会社というのは、現在日本に500社ほどあるそうです。必ずしもすべて悪いわけではなく、多くは良心的です。 老人ホーム側がなぜ100万円を超える金額を払ってまで、紹介してほしいのかというと、結局その費用を回収できるからです」
【関西テレビ 加藤さゆり報道デスク】「つまり利用者さんの介護保険や医療保険を目一杯満額で使って、介護報酬を得るわけです。だから過剰な介護サービスや医療サービスが行われることになる。そうすると保険料を払っている人たちに、はね返ってくるところが問題だと思います」
■行政には“無駄のない制度設計”が求められる
紹介会社ですが、高齢化が進んで新しく参入する会社が増えていく中で、届出は不要となっています。
【共同通信社編集委員 太田昌克さん】「まず介護保険料は、始まった時よりもずっと上がっているんです。自治体によって差はありますが、対象者全員が支払っていて、ほとんど税金と変わらない。それでいて紹介会社や高齢者施設といった、事業者ファーストになっている。その理由は恐らく届け出不要であって、行政の監督権が及ばないからです。ぜひ国会でもしっかり議論していただいて、監督する、場合によっては指導すること、せめて紹介会社等に質問する権利を行政に与えるといった法改正が必要だと思います」
必要以上の介護が行われていないか、チェックすることが必要ではないでしょうか。
【共同通信社編集委員 太田昌克さん】「医療の問題も絡んできます。国会でいま高額療養費の問題がもめていて、与野党が正面衝突しています。医療費が年々膨らんでいる背景には、実はこのような実態があるかもしれないので、もっと大きな視野で、無駄のない制度設計を、行政にしっかり政府と一緒にやってもらいたいです」
(関西テレビ「newsランナー」 2025年3月3日放送)