ついに3月10日から、政府の備蓄米の入札が始まりました。これで今後の米の価格はどうなっていくのでしょうか。
米に関係する各現場で「令和の米騒動」の波紋は、今でも広がり続けています。
■米5キロあたりの平均店頭価格は3939円と最も高くなる
ついに10日始まった備蓄米の入札。政府は高騰する米の流通を円滑にするため、21万トンの備蓄米放出を決め、初回入札分の15万トンを放出します。
【江藤拓 農水相】(参院予算委)「政策効果がなければさらに追加もしますし、流通のスタック(停滞)を解消し、消費者のご苦労を解消できるよう努力していく」
「令和の米騒動」と呼ばれて久しい高騰が続く米の価格はいまどうなっているのか。スーパーを覗いてみると・・・
【記者リポート】「スーパーのコメ売り場ですが全ての米が5キロで4500円を超えています」
最も安かった米で5キロあたりの価格を比べると、先月からさらに300円ほど上がっていました。農林水産省によると、米5キロあたりの平均店頭価格は3939円とこれまでで最も高くなっています。
【買い物客】「高いです。お米を食べないようにしているみたいで妻もあんまり買ってこないようになってる。お鍋食べるときに〆もうどんでって」
【買い物客】「ちょっと(買うの)渋ってますわ。きょうは政府米の入札あるから、末に安なるかなって待ってますねん」
■「ふるさと納税」の返礼品で米の寄付額が去年と比べておよそ1.7倍に急増
一向に収まる気配のないコメ価格の高騰。備蓄米放出はどのような影響を与えるのか。専門家は。
【宇都宮大学農業経済学科 小川真如助教】「15万トン全量に近い形で落札されれば米関係者の中でも安心感が広がって、価格が落ちると思われる。(店頭には)3月下旬や4月に販売されるとされている。3800~3900円くらいに落ち着いてくれば政策の効果があったといえるんじゃないか」
「令和の米騒動」が与える影響は価格面だけではありません。京都府京丹後市で大きな変化があったのは「ふるさと納税」。
【京都・京丹後市ふるさと応援推進課 三浦大作課長】「(ふるさと納税の返礼品で)米は令和の米騒動の影響を受けて大きく伸びた。(去年と)同時期で比較すると約1.7倍」
「間人ガニ」といった高品質のカニが全国的に有名な京丹後市では、例年、ふるさと納税の人気商品はもちろんカニ。しかし、ことしは米の返礼品の寄付額が去年と比べておよそ1.7倍に急増。市の担当者は返礼品用の米を生産している農家などと米の確保に追われました。
【京都・京丹後市ふるさと応援推進課 三浦大作課長】「在庫不足だけは避けたいと。(返礼品を)送れないということは避けたいので。寄付が入るたびに(農家に)連絡をとらせていただいて、これだけ入ってますよ大丈夫ですかって話はさせていただいた」
■「田んぼオーナー」制度 オーナー料を支払った人に15キロの米を送る
兵庫県丹波市のコメ農家ではある”サービス”が思わぬ影響をうけました。
【兵庫・丹波市のコメ農家 常石奈穂美さん(65)】「これオーナーさんの田んぼなんです。道挟んで向こう側も全てオーナーさんの田んぼです。私たちが作って、収穫したらオーナーさんにお届けする制度なんです」
常石さんが同級生の男性と5年前に導入したのが、「田んぼオーナー」制度。オーナー料を支払った人に15キロの米を送るほか、希望者には農業体験も提供しています。最近になって店で買うよりも割安なコメの確保を図ろうとするオーナーが急増しているのです。
【田んぼオーナー制度管理者 飛田さん】「(Q去年より増えた?)めちゃくちゃ増えました。倍々(のペースで)できているんで。ただもう面積が決まっているんで、もうそろそろ打ち止めか。去年8月の末ぐらいからは、”1年分の米の確保をされるとか、そういう買い方をされる方もおられた」
■「フードバンク」は米を確保できずに「危機的な状況」に
各所で米の取り合いが起きる中、米を確保できずに、危機的な状況に陥っている現場がありました。
【フードバンクはりま 辻本美波理事長】「「よく出るラーメンとかドリンクとか。これはきのう自治体から入ってきた」
生活に困窮している人たちに食料支援を行う「フードバンク」です。米の管理をしている倉庫に案内してもらうと…
【フードバンクはりま 辻本美波理事長】「今ここ、お米の倉庫で実はもうここいっぱい玄米が並んで、白米もいっぱい並べてるのが通常だったんですけど、今ないんですよね。どれくらいもつやろ、2週間持つかどうか」
多いときは1トン程ある米の在庫は、残りおよそ90キロのみ。フードバンクはりまではこれまで米の寄付に頼っていましたが、今年は大きく減少し、SNSを使って呼びかけていますが集まっていないといいます。
【フードバンクはりま 辻本美波理事長】「だって自分とこの分が確保できにくい状態なので、一般の食べられてる人達も余裕がなくて寄付まで回せない状態だと思います」
■「これまでの米の値段は安すぎた」と専門家 「米は安くて当たり前]という認識
日本の主食、米。その歴史を紐解くと今の「米不足」につながる経緯が見えてきます。
米には戦後、増産に舵をきった時代がありました。しかし農業機械の発達などにより生産効率が上昇。1960年代後半には生産量が消費量を大きく上回る状況に。
そのため生産量を調整する「減反政策」が始まり、なんと2018年までおよそ50年間続きました。その間にコメ農家の数はおよそ7割減ったといわれています。
そして政策の影響と共に米農家減少の大きな要因となったのが…
【宇都宮大学農業経済学科 小川真如助教】「これまでの米の値段は安すぎた。(米農家の)経費が物価上昇で上がる、お米を売って買う生活用品の物価も上がっている。お米だけ上がらないという状態でかなり苦しい状況が続いていたと思います」
現場から漏れるのも「米は安くて当たり前]という認識への本音。現役の農家は最近の価格高騰について…
【兵庫・丹波市コメ農家 常石奈穂美さん(65)】「今までお米ってすごい安いものだっていうイメージっていうか、水と空気と同じようなもんやと。お米作るのにどれだけの経費と労力がいるかっていうのを全く考えていただけてなくて。今やっとちょっと見直されてきたのかなっていうのが本音かな」
■3年前に米農家を辞めた男性「何十年ずっと赤字続きで農地守るために補てんしてきた」
3年前に米農家を辞めた男性は取材に対し、長年続いた厳しい現実を語りました。
(Qいつくらいから赤字?)
【3年前に米農家を辞めた男性(76)】「何十年ずっと赤字続きで夫婦共稼ぎで、農地守るために補てんしてきたということです」
米の買取価格が下がり、30年近くも続いたという厳しい収支状況。米農家を辞めた今、「令和の米騒動」に思うことは…
(Q辞めると判断した当時に今くらいの金額がついていたら?)
【3年前に米農家を辞めた男性(76)】「子供の時からずっと農業やっているので農地も大事ですし、拡大もしていきたいっておりましたので、80歳ぐらいまでは続けていきたいと思ってはいました」
上昇が止まらない価格と各所への影響。そして農家の現実。 主食・米のあるべき姿を私たち消費者も考えることが求められています。
■新潟のJAが今年買い取り価格の大幅アップを提示
消費者にとって米の価格は安い方がいいのですが、それでは農家にとっては厳しいという話がありました。米は私たちの主食ですから、将来も見据えて考えていかなければいけない問題です。
新潟では米価格に影響しそうな動きがありました。JA全農にいがたは、激しい集荷競争を受けて、2025年産のコシヒカリの最低買い取り額(60キロ当たり)、前年と比べて6000円高い、2万3000円を提示しました。
これを受けて米価格が今後どうなっていくのか、宇都宮大学農業経済学科・小川真如助教によると、「この動きが他府県にも波及すれば、米価格は維持もしくは上昇が見込まれる」ということです。
【関西テレビ 加藤さゆり報道デスク】「政府は今回の備蓄米の放出に関して、放出した分は買い戻すという条件をつけて放出しています。今度どういった価格で買い戻してくれるのかというところに、恐らく市場が影響されると思います。その価格によっては、上がったり、下がったりするわけです」
【関西テレビ 加藤さゆり報道デスク】「今日もそれに関して国会の答弁がありまして、政府は急いで買い戻すつもりはない、1年を超えてもいいということを言っています。買戻しの時期が延びるとなれば、農家側もそれによって判断を変えることにもなり、この先の動きに注目です」
■「米は食料安全保障の根幹」と太田昌克さん
政府がどこまで介入するのかというところが、議論になります。
【共同通信社 編集委員 太田昌克さん】「もともと食糧管理法がありまして、自由化する前はかなり政治の思惑もありました。農水族議員が『もっと米を買って、米価格を支えろ』と言ったら、政府がそれを国家支出(税金)で払っていたという時代もあったんです」
【共同通信社 編集委員 太田昌克さん】「一方で、減反政策のように、農家の皆さんが国策に振り回されてきたという経緯もあります。そして気付いてみれば、大切な農地を保全するのがコスト高で難しくなってきた時代になるわけです」
【共同通信社 編集委員 太田昌克さん】「米というのは、主食でもあり、食料安全保障の根幹です。私たちの安全保障の一環なんです。『令和の米騒動』を機会に、令和の米作り、農業改革というものを、国はしっかり考えなきゃいけない。どうやって適正な価格で消費者の皆さんに米を提供しながら、なおかつ日本の農業をどうサステナブルな形で続けていくのかということです」
【共同通信社 編集委員 太田昌克さん】「例えばエネルギー高で電気料金が高くなった場合などに農家に補填するとか、いろんな形できめ細かく農業・農家をケアをしていってほしいと思います」
持続可能な米作りのあり方が今問われています。
(関西テレビ「newsランナー」 2025年3月10日放送)