同性カップルの「結婚」は認められないのか―。
民法の規定が違憲かどうか争われている裁判で、3月25日、大阪高等裁判所の判決を迎えます。 一審で唯一大阪地裁だけが「合憲」とした同性婚訴訟。
■連れ添って17年 日本で婚姻関係認められず「同性同士の結婚を認めてもらいたい」
2歳の女の子を愛おしそうに見つめる2人の女性。
娘を生んだ女性は、主に育児を、パートナーの女性は、家事を中心に担っています。
“両親”として育てていても、法律的に親と認められるのは1人だけです。
【坂田テレサさん】 「パートナーに親権がないから、何かがあったら、本当に娘は大丈夫なのか。ちゃんと法的に守られるのか、不安がすごくあります」
【坂田麻智さん】「周りに言わないほうがいいのかなと、娘には悩んでほしくないと思っていて。本当に特別なこと何も訴えてなくて、(男女の夫婦と)同じように扱ってください。それだけなんですと思ってる」
京都市の一軒家で暮らす、坂田麻智さん(46)とテレサさん(41)。
連れ添って17年、ご近所でもカップルとして公認の2人です。
2人は10年前、テレサさんの故郷・アメリカで結婚しましたが、日本では「婚姻関係」と認められていません。
「家族ではない」ため、手術や入院の手続き、相続など何かあった時への不安を抱えています。
2人が声を上げたのは6年前。
同性同士の結婚が認められない法律は、憲法で定める「法の下の平等(14条)」や、「婚姻の自由(24条)」に違反しているとして、国を訴えました。
裁判所に「憲法違反」と認めてもらうことで、法律が変わるきっかけになると信じています。
【坂田麻智さん】「同性愛者ということで、少なからず負い目を持って日々過ごしてきているんです。同じ権利が与えられていない。私たちはここにいるし、同じ社会に住んでいるし、身近にいる存在なので、これ以上いないことにはしないでください。ちゃんと存在を認めたうえで、必要な制度や理解を社会全体で進めてほしい」
一方、国は「結婚は男女を指すことは明らかで、“同性婚は想定されていない”」と一貫して主張。
■唯一の合憲となった大阪地裁判決
一審の大阪地裁の判決は…「合憲」。2人の願いは届きませんでした。
「差別は民主的な過程で解消されるべき」と、国会での議論を促した上で、「異性カップルとの差は、婚姻類似の制度や他の手当てで緩和できる」などとして、“憲法違反にはあたらない”と判断したのです。
【原告・坂田麻智さん】「国が逃げているからこそ、この司法の判決で立法するような判決になってほしかったと心から思ってましたし、応援してくださっている皆さんもそう思ってくれていたと思うのに、こういう結果になってしまって、本当に残念です」
なぜ、当たり前のことが認められないのか、納得できない判断に、2人は裁判を続けていくことを決めました。
■娘の誕生 幸せの一方で直面する手続きの壁
判決から約半年。迎えてくれた2人の間には、赤ちゃんの姿が。
友人から精子の提供を受けて、テレサさんが女の子を出産していました。
ミルクを飲ませて、げっぷをさせて…2人で協力して子育てをしています。
【坂田麻智さん】「親として育て上げないといけないかなってのはある。お宮参りに行ったときも、思いつく言葉が『すくすく成長しますように』ってことしか思いつかなくて。それで十分だなと思ってる」
“2人で子どもを育てる”という長年の夢が叶い、幸せを感じる一方、現実には、異性カップルとの差が次々と立ちはだかりました。
【坂田麻智さん】「(出生届に)私には書くところがないと。母のところの欄にテレサだけ。(法務局に)『私は名前を書けないんですか』と聞くと、『男性ではないので書けない』と」
さらに娘の名前をめぐっては…。
【坂田テレサさん】「『漢字は登録できません、外国人なので』って言われて。漢字も最初の文字は、麻智のお母さんの名前から一文字を借りてつけた名前なので、名前の件は全然、何も知らなかったから、『それもか…』って…」
アメリカ人のテレサさんの娘は日本国籍がなく、出生届に漢字が登録できない。
“親と認められない”麻智さんには育休も認められない…。
異性カップルでは当たり前のことでも、2人にはできないことがたくさんありました。
【坂田テレサさん】「知ってるのに、なんで子どもを産んだのか疑問を持つ人はいると思うんですけど…、本来は『2人親で子どもで3人家族』っていうシンプルなことなのに、なんでシンプルにできないんだろうなって不思議に思ってる」
ただ、相手が同性なだけ。夫婦として認めてほしい…。
控訴審では娘とともに裁判に臨み、子育てする上での不利益も訴えました。
■“違憲判決”相次ぐ 対して、国は変わらず“注視”し続ける
“同性婚”の実現を求める裁判は、全国で起こされていて、一審では判断が分かれているものの、控訴審ではこれまで、いずれも明確な「違憲」と判断されています。
さらに高裁判決では、「男女と同じ結婚制度でないと、差別は解消されない」など、国に法改正を強く促しています。
しかし…。
【石破茂首相】「同性婚に関する訴訟の状況を注視していく必要がある」
政府の反応は鈍く、「注視」という言葉を繰り返すばかり。
当事者たちは、国会議員に直接、切実な思いを訴え続けてきました。
【東京1次訴訟 原告・小野春さん・西川麻実さん】「いつまでも『注視』と言われ続けて、先延ばしにされることに、現実と法律の狭間に多くの当事者が巻き込まれています」
【仙台家事審判申立人 小浜耕治さん】「(後期高齢者のパートナーの)お葬式を私が出せるのか、彼名義のマンションの相続はうまくいくのか。私たちにはもう時間がないってことです」
【東京2次原告 藤井美由紀さん】「マイノリティの人権を守るのは、誰の仕事なんでしょうか。私たちのことを本当にもう後回しにしないでください」
25年2月開かれた集会には、衆議院と参議院から70人もの国会議員が参加。理解を示す議員は増えているものの、法改正には至っていません。
■原告の背中を押す高裁判決で“4連続違憲” 「結婚制度が利用できないと子の生命・身体に不利益」
いつまでも変わらない国に対し、25年3月、名古屋高裁は、当事者たちの背中を押す判決を言い渡しました。
「同性カップルが結婚制度を利用できない」ことが「違憲である」とする、4例目となる高裁判決であり、同時にさらに踏み込んだのです。
原告カップルが里子を迎え、2人の子供として育てていることに着目し、「結婚制度が利用できないと、特に医療行為で養育している子の生命・身体に不利益が想定される」と言及したのです。
【坂田テレサさん】「うちらだけが不利益を受けてるんじゃなくて、子供が生まれて、子供にも影響があることを主張したので、同じように主張が判決文に取り入れられたのは、すごく期待できるポイントだなと思って、ぜひ大阪(高裁判決)にも取り入れてほしいと思った」
3月25日は、大阪高裁の判決。
一審、大阪地裁が立法府に委ねたものの、何も変わらない現実に司法が下す判断は。
■大阪高裁判決へ 「珍しくても悪いことではないよって思ってほしい」
麻智さんとテレサさんの娘は2歳になりました。
愛情を受け、すくすくと成長した娘。2人が言うことも分かるようになってきました。
【娘】「レモン!」
【坂田麻智さん】「すっぱいよ!」
【娘】「あ~すっぱい!!」
【坂田麻智さん】「濡らさないよ。マミーにパスタ入れてもらい」
【娘】「マミー、レモンとパスタ!」
【坂田テレサさん】「(娘は)多分大きくなったら、自分の家族が他の子と違うって認識が出てくるだろうけど、できるだけ珍しくても、悪いことではないよって思ってほしくて」
【坂田麻智さん】「気にしないでくれるのが一番いいなと思う」
【坂田テレサさん】「うちらが結婚できる状況だったら、普通に法律上であり得る家族の形になる。胸張って、『私は2人ママがいるよ』って言える環境になると思います」
■25日の大阪高裁の判決 注目ポイントは
同性婚訴訟は各地で起こされています。
札幌高裁で去年3月、東京高裁で去年10月、福岡高裁で去年12月、名古屋高裁で今月7日に違憲判決が出ています。
この流れについて、憲法学者の慶応大学・駒村圭吾教授はこれまでの判決が国会に立法措置を促しているものの、進まないことへの批判的なメッセージ。司法界の「怒り・不満」の表れと分析しています。
こうした中で迎える25日の大阪高裁の判決の注目点をまとめました。
1つ目は、大阪地裁の合憲判決を覆して、5例目の違憲判決となるかどうか。
2つ目に、同性同士でも法律婚できるように法改正すべきか。また、パートナーシップ制度のような別の制度で対応すべきか。
3つ目に「国会の不作為」について言及するかどうか。法律を変える動きが一向にないことをどう評価するかも大きなポイント。
■「政治家は今すぐ行動を起こすべき」
社会の理解は進んでいる一方、立法がなかなか動かないという現実があります。
共同通信社編集委員の太田昌克さんは、「何の罪もない子どもが不利益を被ってはいけない。政治家は今すぐ行動を起こすべき」と指摘しました。
【共同通信社編集委員 太田昌克さん】「坂田さん2人のママは自分たちの存在を認めてほしいとおっしゃっている。2021年の札幌地裁で初めて「違憲」という判決が出る。おそらくお二人は、札幌地裁の判決にも励まされて、お子さんを育てていこうと決意されたと思うんですよね。
しかしずっと国会は手をこまねいてきた。一番大切なのは、何の罪もない子どもが不利益を被っちゃいかんのですね。特に生命にかかる話。私は待ったなしの問題だと思います。明日の判決は極めて重要ですが、どういう結果が出るにせよ、国会は手をこまねいてはいけない。政治家は今すぐ行動を起こすべきだと思います」
【関西テレビ・加藤さゆり報道デスク】「東京の訴訟の原告の一人が、訴訟の途中で亡くなられたんですけれども、(その方の)パートナーが家族ではない・血縁者ではないということで、病状の説明を受けられなかった不利益もあったそうです。 当事者の方にとっては、一刻も早い解決が望まれます」
注目の控訴審判決は明日言い渡されます。
(関西テレビ「newsランナー」 2025年3月24日放送)