能登半島地震で大破した、およそ280年前に作られた神輿。
街の人たちを勇気づけようと立ち上がった兵庫県姫路市の宮大工。
8カ月に及んだ試行錯誤の修復作業に密着した。
■宮大工一筋50年以上も悩ませた「神輿」の修復
兵庫県姫路市の工房で、およそ280年前に作られた御輿と向き合う福田喜次さん。
卓越した技術を持つ「現代の名工」にも選ばれた福田さんは宮大工一筋50年以上。 数々の寺社仏閣の修復、地元・姫路の「灘のけんか祭り」の神輿を手掛けてきた。
その名の通り、激しいぶつかり合いが見物の「けんか祭り」では、神輿が壊れることも数知れず。
修復の腕には自信があったが、それでも今回の修復作業は福田さんを悩ませた。
【福田喜次さん】「パーツが分からへんから胃が痛い。1から作る方が簡単やな」
■地震が奪った祭りの象徴は無残にもバラバラに
福田さんが向き合っているのは、1000個以上にも分かれた部品の山。 気の遠くなるような作業だが、福田さんはなぜこの仕事を引き受けたのだろうか。
2024年元日、能登半島を襲った地震。
石川県輪島市黒島地区も大きな被害を受けた。
御輿を保管していた神社の倉庫が倒壊し、下敷きとなった神輿は大破。無残にもバラバラになってしまった。 地区の氏子総代長は「もう駄目だと思った」と当時を振り返る。
【氏子総代長・林賢一さん】「神輿がね、地震で破損したというときは。これはもう祭りができない喪失感が非常にあった」
■「2泊3日の間に直したろう」と能登に訪れたものの…
黒島地区では毎年8月17日・18日に「黒島天領祭」が行われる。 江戸時代、幕府直轄の“天領”だった黒島地区に伝わる神輿は江戸時代に作られ地域のシンボルとして守り継がれてきた。
そんな中、黒島を支援していた姫路のボランティア団体の紹介で、福田さんに修復を依頼した。
【福田喜次さん】「道具を持って行ったんや。2泊3日の間に直したろう思て、それなりの道具を考えて車に積んで持って行った」
福田さんは現地を訪れ、予想をはるかに超える惨状を目の当たりにする。
■「これ持って帰らせてくれるか?」姫路に持ち帰って無償で修復することを決断
【福田喜次さん】「これ持って帰らせてくれるか?と頼んだ。姫路へ持って帰って直す。この御輿が直っていたら、『あんなバラバラの形が無くなったものが、これやったら地震の前やん』というような見方で見てくれたら力になれる」
福田さんは、姫路に持ち帰って無償で修復することを決断した。
参考になるのは、装飾を施す前の姿を写した貴重な1枚の写真だけ。 膨大な数の部品と写真を見比べ、足りない部分は新たに作る。試行錯誤の作業は8カ月に及んだ。
【福田喜次さん】「職人根性が湧いてくるんです。一つずつ一つずつ組み上がってきたらうれしくなって、子どもみたいな気持ちに…」
地震の前の姿に戻ったと思ってもらえれば成功。それを目指して知識と経験を注ぎ込んだ。 能登から持ち帰った部品と姫路で作った新たな部品が見事に融合した。
【福田喜次さん】「感激やの~涙が出るわ」
先月には、黒島の人たちが福田さんの工房を訪れ、修復された御輿を目にした。 見事に復活した神輿を見て、喜びが隠せない。
【氏子総代長・林賢一さん】「信じられないくらいです。私らは修復不可能かなと。どういう風に処分したらいいのかなと。バラバラの状態で全く形も何も見えない状態の中で、こういう風になった。相当技術がないとできないと思います」
【黒島在住 升潟孝之さん】「今年はちゃんと神様を乗せて街中を歩かれるから、夏が来るのが楽しみです」
■小さな部品が繋いだ遠く離れた黒島の人々へのエール
福田さんは黒島の人々に向けて、こう語りかけた。
【福田喜次さん】「地震に負けとらんと向き合うような気持ちになって、『なにくそ』や思って頑張ってくれたら」
遠く離れた黒島の人々へのエール。小さな部品が繋いだ、新たな絆。 修復された御輿は、夏までに能登に送られる予定だ。 ボランティア団体「黒島支援隊」は、輸送費などをクラウドファンディングで募ることも検討している。
(関西テレビ「newsランナー」 2025年4月3日放送)