大阪地検の元トップが部下に性的暴行を加えた罪に問われている事件を巡り、被害を訴える女性検事が、同僚の副検事を「証拠隠滅の疑い」などで告訴・告発したものの、大阪高等検察庁が不起訴としていたことについて、大阪高検の幹部が女性検事側に対し、外部に発信しないよう警告するメールを送っていたことがわかりました。
メールには、この不起訴の判断について「都合の悪いことを隠すために甘い対応をしているなどということは全くない。そのような観点から外部発信をするようなことがあれば、検察職員でありながら、警告を受けたにも関わらず、その信用を貶める行為を繰り返しているとの評価をせざるを得なくなる」と書かれていました。 女性検事は関西テレビの取材に対し、「率直な気持ちは恐怖しかなかったですよね。 検事である前に1人の被害者の人間なのに、怒りや悔しさや、そういう感情すらも持ってはいけないのかと、それを外に訴えることを許されないのかと。暴力によって(口を)塞ごうとしてるっていう感じがします。権力という暴力」と涙ながらに訴えました。
■大阪地検のトップ・検事正だった北川健太郎被告が部下の女性検事に性的暴行加えた罪に問われる
大阪地検の検事正だった北川健太郎被告(65)は7年前、酒に酔って抵抗できない状態だった部下の女性検事・Aさんに対し、性的暴行を加えた罪に問われています。
北川被告は、初公判で起訴内容を認めるも、その後、「同意があると思っていた」などとして、一転して無罪を主張するようになっています。
■被害訴える女性検事が同僚の副検事を「証拠隠滅・名誉棄損」などの疑いで告訴・告発も不起訴に
この事件を巡り、事件当日、北川被告やAさんらと懇親会に参加していた女性副検事(50代)は、Aさんの氏名を職場内で伝えるなど不適切な言動があったとして先月、戒告処分を受けました。
またAさんは、副検事について、捜査情報を北川被告側に伝えていたという証拠隠滅、Aさんの被害の訴えは「金目当ての虚偽告訴」と周囲に吹聴したという名誉棄損など4つの容疑で告訴・告発していました。 しかし大阪高検は、これら全てを不起訴処分としていました。
■「不起訴処分」公表直後 大阪高検が女性検事の代理人弁護士に「警告メール」
大阪高検は処分を公表した直後、Aさんの代理人弁護士に、「Aさんに確実に伝えるように」と記したあるメールを送っていました。 そこには、目を疑うような内容が記されていました。
【メール内容より】「(副検事を)不起訴処分としたことは、捜査を尽くした上での判断であり、Aさんは検察職員であるのだから、そのことを信用してほしい」
「何か都合の悪いことを隠すために、甘い対応をしているなどということは全くない。にもかかわらず、今後、Aさんがそのような観点から外部発信をするようなことがあれば、検察職員でありながら、警告を受けたにも関わらず、その信用を貶める行為を繰り返しているとの評価をせざるを得なくなる」 「当たり前のことを要請しているだけなので、口止めや脅しを受けたなどという発信も控えてもらいたい」
■Aさんの代理人弁護士 不起訴の説明受けていない上…「被害者をないがしろにした」
メールを受け取ったAさんの代理人弁護士で、元検察官の奥村克彦弁護士は、メールを受け取った時点で、Aさんが検察から副検事を不起訴にした理由を説明されていなかったと明かした上で次のように述べました。
【Aさんの代理人弁護士 奥村弁護士】「検察庁がどんな捜査をして、その結果どうだったかや、なぜそういう処分にしたのかっていう説明を受けてないんですよ。 説明はないけど、『あなたは検察庁の職員だから、検察庁がやったことだから盲目的に信用しなさい』と言ってるのと一緒じゃないですか。検察庁の都合で、ある意味じゃ被害者をないがしろにしたわけじゃないですか」
「このメールの内容は警告なんですよ。今後どういう発言をするかについて、当然萎縮するでしょうし、検察庁という巨大な組織から圧力をかけられている。ある意味ではパワーハラスメント的なものなんではないかなと思います」
その後、大阪高検の幹部らは、口外しない約束をするようAさんに求めてきたといいますが、Aさんは応じませんでした。
大阪高検幹部が送ったこのメールは「公益通報」の面からも問題があると専門家は指摘します。
【公益通報者保護法に詳しい三浦直樹弁護士】 「副検事を告発したことというのは、公益通報に当たると私は思うんですけど、そのことについて『これ以上、記者会見とかするな』と言われてるということだとすると、公益通報したことについての何か不利益なことをされるんじゃないかという萎縮が生じますので、非常に問題だろうと思います」
■「『被害者に寄り添う』という本当の意味を思い出してください」
このメールを見た女性検事は、関西テレビの取材に次のように怒りをあらわにしました。
【女性検事Aさん】「口止めされて何も声を上げなくなったら、こういう二次加害がいかに残酷で被害者のすべてを奪っていくかということも伝えられないし、第二第三の私が生まれるのは間違いないから、また起きたときに泣くのは被害者なんですよね」
Q幹部に一番伝えたいことは?
【女性検事Aさん】「あなた自身が、同じ目に合っていることを想像してみてください。あなたの大事な家族が 私と同じような目に遭っていることを想像してください。そうしたら今あなた達がやっていることがいかに被害者を傷つける行動だということか想像できるはずです。『被害者に寄り添う』という本当の意味を思い出してください。私を助けてください」
女性検事側にメールを送った検察幹部は、関西テレビの取材に応じ、 「公益通報の名の下であれば、外部発信が無限定に許されるものではないと認識しております。 『口止め、脅し』ではないことの理解を求めました」とコメントしています。
■「法改正の方向と検察庁が被害者の女性に向き合う方向性が同じ方向を向いているのか」
この検察の一連の対応について、関西テレビ「newsランナー」でコメンテーターの菊地幸夫弁護士は、検察庁の被害女性に対する対応について、疑問を持ちたくなる対応と思わざるを得ないと指摘しました。
【菊地幸夫弁護士】「性犯罪に関しては、刑法という法律がだいぶ変わってきて、被害者に重点を移している、被害者側が立件しやすいような法改正がされてきています。そういう法律の改正の方向と、今の検察庁が被害者の女性に向き合っている方向性が、同じ方向を向いているのかどうかに関して、疑問を持ちたくなるような女性に対する対応と思わざるを得ないなと思います。公益通報に関する問題を含んでいるところだと思います」
女性は検察に第三者委員会の設置を求めています。
覚悟を持って女性は訴えています。真摯に検察には耳を傾けてほしいと思います。
(関西テレビ「newsランナー」2025年4月10日放送)