カオスな町・北加賀屋 昔は造船 今アート 最盛期には3つの造船所で2万人以上働くにぎやかな町 “ドック”を探してぶらり【兵動大樹の今昔さんぽ 関西テレビ「newsランナー」】 2023年08月11日
【兵動さん】
「さあ今回、大阪メトロ四つ橋線の北加賀屋駅前からスタートです。ここからちょっと南の方に行けば、住吉(大社)さんがあったり、住之江競艇場がある。海側に行くとIKEAがある。こういうベッドタウンというか、いろんな方が住んではる、北加賀屋駅前からスタートでございます」
■今回の写真 地面が大きく掘り込まれ、周辺には工場
【兵動さん】
「今日の写真をおくれ。は~、なるほど。こういう感じですね 」
これは1964年(昭和39年)、大阪・住之江周辺で撮影された写真です。どこの風景か分かりますか?
【兵動さん】
「四つ橋線からスタートですから、地下鉄を掘っている可能性もあります。でも突き当たりが工場か、何か作っている段階なのか、なんなんでしょうか?聞き込みたいと思います」
■北加賀屋は「最高の町やん!」
【兵動さん】
「ごはん食べるとことかいっぱいあるな。店の人に聞いたらあかんかな。すみません、この辺でこういうのって見たことないですかね?」
聞き込みを始めた兵頭さん、地元の飲食店の店主・はらみほさんに話しかけました
【はらみほさん】
「この辺だったら、多分、あっちの造船所の方かな」
【兵動さん】
「この界隈って造船で有名なんですか?」
【はらみほさん】
「昔はそんな感じだったみたいです。今はちょっと変わって、(北加賀屋は)楽しめる町」
【兵動さん】
「(周辺マップを見ながら)こんなにお店あったり、こんなに盛り上がっている町なの?」
【はらみほさん】
「そうなんですよ。カオスな町、カオスな魅力。いろいろ壁画があったり、アートの町」
【兵動さん】
「北加賀屋、最高の町やん。知らんかった」
北加賀屋が“アートの町”という情報をもらった兵動さん。さらに写真についても手掛かりになりそうな情報をもらいました。
【はらみほさん】
「昔からの古い写真とかを最近Instagramであげてるのが、『千島土地』さんという会社なんですけど。マップを発行していたり」
【兵動さん】
「へぇ~、覚えとこ。『千島土地』さん。ところで、お姉さんは何してはんのここ?」
【はらみほさん】
「わたしはここでYummy Market(ヤミーマーケット)ていって、おいしい食べ物屋さんです」
【兵動さん】
「ヤミーマーケットか。“闇マーケット”って聞こえたわ」
【兵動さん】
「なんか出てきたで。無茶苦茶アートやんか。こんなんが普通に街の中にあんねや。“たこ焼き”やろ、これ。書いてあるわ。増田セバスチャンさんが作りはったんや。コンセプト『未来の植物』やって。全然“たこ焼き”ちゃうやん。いうたら美術館や」
町のいたる所に展示されているアート作品。現時点で30点以上の展示物や壁画が、町中に点在しているんです。今回の写真と関係があるのでしょうか?
■「千島土地」の「千鳥文化」
【兵動さん】
「うわ~なんか味がある建物やけど。千島さんって聞いたけど、『千鳥』になってる。すみません、ここ見たら『千鳥』って書いてるんですけど、『千島』さんではないんですか?」
【千島土地株式会社 福元貴美子さん】
「『千島土地』は企業名で、この施設名が『千鳥文化』という集合住宅ですね。1階はテナントで、2階は造船業に従事されていた方のお住まいで、当時から『千鳥文化住宅』という名前でした」
【兵動さん】
「もともとここが千鳥文化っていうとこやったんや。うわすごい、中、当時のままですか」
【福元さん】
「そうです。当時の状況をそのまま残してリノベーションを行いました」
【兵動さん】
「やっぱりアートですね」
複合施設として注目されている「千鳥文化住宅」。実は、かつて造船の町として栄えていた北加賀屋。そんな造船業で働いていた方達の住居をリノベーションし、カフェやバーとして地域再生の拠点としているのです。
【兵動さん】
「秘密基地みたい」
【福元さん】
「2階は造船所時代の暮らしぶりを残したいということで、当時、お住まいだった(「中島」という手製の表札が掛かった)ままですね」
【兵動さん】
「“中島さん”が住んではったんや」
【福元さん】
「造船所で働いていた方が、自らの手で増改築を繰り返していたのが、解体する中で分かりまして」
【兵動さん】
「住んでる人たちが勝手に増築していったんや。すごいな」
そんな建物自体の持ち味を生かそうと、間取りは変えず、アーティストに依頼し、ギャラリーとして作品を展示している部屋や、イベントの開催、サロンの店舗として貸し出ししているスペースもあります。
【兵動さん】
「当時、ここに住んでいた人が見たらびっくりするやろうね。『無茶苦茶変わっとるやないか。増築どころの騒ぎやない』」
【兵動さん】
「いい活動だと思うんですけど、千島さんは北加賀屋では何になるの?」
【福元さん】
「土地賃貸業を主にしている不動産会社でございます。この北加賀屋エリアの2/3を所有している企業でございます」
【兵動さん】
「2/3。ほぼやん」
造船業が盛んだった北加賀屋は、1970年代に産業構造の変化や、高齢化が進み、大部分を占めていた「名村造船所 大阪工場」が撤退し、佐賀県伊万里市に移転したのです。
【福元さん】
「返ってきた土地がすごく広大なエリアで、どうしようかとなったときに、今あるものを潰して、新しく建てても、何の特徴もない町になってしまうというので、今の景観を残しつつアートを取り入れて町を元気にしようという取り組みを、ここ15年ほど続けております」
【兵動さん】
「だからみんなアートの町ですよって、浸透してるんや」
また鋼材加工工場のような倉庫は、アーティスト・ヤノベケンジさんのような国際的に活躍する現代美術家の作品保管庫として有効活用されてます。
■造船所で働いていた人「鬼、地獄、容赦ない…厳しい業界やった」
北加賀屋にある中道工作所の代表のお父さんが、もともと造船所で溶接の仕事をしていたということで、中道さんが来てくれることになりました。
【兵動さん】
「暑い中すみません。昔のことをいろいろお聞きしたいなと思って。これが昔の写真なんですけど。中道さんが造船の会社で働いてはったと聞いて」
【中道工作所 中道日出男さん】
「これはドックでね、ここに水をいっぱい溜めて、船を浮かばせて」
【兵動さん】
「これってもうないですよね」
【中道さん】
「いやいや、名村造船には2つ残ってます」
今回の写真は大阪・住之江で撮影された造船所のドックでした。現在でもこのようなドッグが名村造船所大阪工場跡地に残っているということで、かつて造船所で働いていた中道さんに案内していただきました。
【中道さん】
「これがドックです。今、水が満タンになってますわね。水門があるわけですわ。その扉をがーんと蓋してしもうたら、水を抜くと写真のような」
【兵動さん】
「(写真に写っているドック)こういうふうになるということですね。ここは名村造船の跡地ですよね」
【中道さん】
「ずーとここで船を作っとったということですわ」
かつて木津川沿いには、「藤永田造船所」「名村造船所」「佐野安造船所」と3つの会社が栄え、高度成長期には2万人以上が働いていたと言われています。
【中道さん】
「造船業界は一番しんどい、厳しい業界でしたからね。『鬼の佐野安、地獄の名村、情け容赦のない藤永田』」
【兵動さん】
「うーわ。情け容赦ないところは一番嫌ですわ。そこで働いてはったんですか」
【中道さん】
「(私が働いていたのは)鬼の佐野安」
【兵動さん】
「鬼の方も嫌やけど。それぐらい厳しいお仕事やったということですよね。当時は、造船の大きい会社があったから、この界隈は造船業のみなさんがものすごいいてはったんですか」
【中道さん】
「そりゃもう。名村の前の道路、自転車で途切れることはないぐらい」
【兵動さん】
「ずーっとみんながどっかの会社に入っていくんですか」
【中道さん】
「いたる所に飲み屋がいっぱいあって」
■いよいよ写真が撮られた“ドック”を突き止める
船の進水式では町中の人が造船所に集まりにぎわいを見せたといいます。
【中道さん】
「一時は進水式のお祝いで、お餅もまいてくれてた」
【兵動さん】
「ええ時代やな~。この写真の同じとこから写真撮りたいんですけど、間違いなくここやなというのは、どこで聞いたらいいですかね」
【中道さん】
「名村工場跡地管理の事務所で尋ねた方がはっきりしますわね」
中道さんに教えてもらい、名村造船所跡地を管理している事務所の下川さんに聞いてみました。
【ARTCOMPLEX 下川大史さん】
「こちらに資料室があって、当時の写真が残っているので」
【兵動さん】
「(ドックを上空から撮った写真を見ながら)これがドックか。(持ってきた写真は)ドックやという話を聞いたんで来たんですけど、ここ昔大きい造船所が名村さん含めて3つもあったと。この写真はどこの造船所のドックなのか」
【下川さん】
「ここから撮られた写真です。(写真の真ん中の)この建物が、(別の)進水式で(撮った写真に写っている)」
【兵動さん】
「ほんまや。この2本(の煙突)がこの2本や。もうちょい入って、ドック側から撮ったらこの角度になりそうですね」
【兵動さん】
「この辺ですね。さー行きましょう。はいチーズ」
【兵動さん】
「北加賀屋でしたけども、昔は造船の町でものすごい盛り上がってますけど。今はアートの町になって、若い人たちが集まってきて、町が活気づいている。週末なんか遊びに来ておいしいもの食べたらどうでしょうか。最高の町でした。ありがとうございました」
(関西テレビ「newsランナー」2023年8月4日放送)