世界最高峰とうたわれ高級店で提供される“幻の鶏”。
その養鶏場に関して近隣住民とのトラブルが起きています。
行政も乗り出したトラブルの行方をツイセキ取材しました。
■“世界最高峰の鶏”に困惑の住民たち
「唯我独尊」「世界最高峰の鶏」
ホームページに並ぶ高級感溢れるうたい文句
有名グルメ雑誌でも取り上げられ、美食家たちの間で話題の“高坂鶏”。
限られた店でしか取り扱いのない“幻の鶏”とも言われています。
その評判の鶏が育てられているのは兵庫県・丹波篠山市。
養鶏場が建てられているのは、自然豊かでのどかな土地です。
しかし、その地元の住民の間では、怒りが高まっていました。
【地元住民】
「本当臭いです。耐えられないですよ。ご飯が食べれないぐらい」
「窓開けて風が通るようにしたら、モロに臭いが入ってくる。ご飯食用意してても食べてても『ちょっと窓閉めよう』と言って閉めたりとか」
“高坂鶏”をめぐって、地元住民たちとトラブルが起こっていたのです
【地元住民】
「鶏糞を運び出すときの音ですね、重機の音が特にうるさいです」
【記者リポート】
「私たちが来てからおよそ1時間半の間に、このような重機の音が何度かしています。強い臭いはしませんが、風が吹くと、モワッとするような鼻をつく臭いがします」
住民によると、農園は2000年に米や野菜を作るという説明で農地を購入。
養鶏を始めたのはその後しばらく経ってからだといいます。
当初から臭いなどはあったものの、環境が大きく変わったのは2015年頃。
それまではなかった鶏舎が徐々に増築され、事業を拡大していったといいます。
■悪臭に騒音 “幻の鶏”の農園で何が…
悪臭と騒音に悩まされた住民たちは3年ほど前から声を上げ始めました。
住民の声に押され、丹波篠山市は農園の調査に乗り出します。
すると、鶏舎が無届であったことが発覚しました。
さらに、最も近い住宅までの距離も、基準を満たしていない条例違反だったことが分かり、複数回にわたって改善勧告などを出しました。
これに対し農園は処分を不服として、現在裁判が行われています。
さらに兵庫県も、無許可で農地に鶏舎を設置した農地法違反にあたるとして、12月までに原状回復するよう是正勧告を出しています。
■“幻の鶏”の農園と住民側 歩み寄りなく
ツイセキ取材班は、真実を確かめるため農園に取材を申し込みましたが、農園は応じませんでした。
住民が頭を悩ませているのは鶏舎だけではありません。
ーーQ:このあたりが糞が捨てられてる場所ですか?
【地元住民】
「まさにこの辺り。ひどいときは山積みになっています」
住民によると鶏舎から車で5分ほど離れた場所には、糞が捨てられているということで、ここでも臭いに悩まされています。
【地元住民】
「自宅が近いので、鶏糞の臭いと粉塵が届いて窓が開けられない。小さい子どもがいるので健康被害も心配です」
これまで、話し合いは行われなかったのでしょうか。
【地元住民】
「話し合う機会はこちらは用意したことがあるんです。けど(先方は)来ない。結局まだ一度も話せていない。調停という形で話し合いの場を設けて、出て来て下さるかと思ったら出てこない。『こんなに迷惑をかけているなら改善する』と言ってくれるなら、こんなことになってない。迷惑をかけているっていう気持ちが一切ないんですよね」
市長も、話し合いで解決を試みようとしていますが難しいと話します。
【丹波篠山市 酒井隆明市長】
「事業者として『いつまでにこういった形で解決する』という話し合いができれば本当にありがたいと思いますが、残念ながらそういった話し合いを今までしていただけない、大変残念に思っています」
なぜ農園は話し合いをしないのか。
ツイセキ取材班はなんとか話を聞きたいとその後も農園を訪れましたが、直接話を聞くことはできませんでした。
4回に渡る交渉を重ね、弁護士による文書での回答を得ることができました。
そこには、おととし8月以降、基準値を超える悪臭のデータは測定されていないことなどの主張と共に、こう記されていました。
【農園側の回答】
「当方としても事業と付近住民の生活との調和という観点から、アンモニアシートの設置や鶏舎の換気扇位置の変更など、考えられる対策をこれまで行って参りました。鶏糞を廃棄しているという点は、当方自らの所有する田へ鶏糞を搬入し、土づくりを行っているのであって、廃棄というのは完全な事実誤認です。丹波篠山市の対応につきましては多々疑問が残りますので、今後も裁判所を通じて争っていく意向です」
■“世界最高峰の鶏” プロも評価する味
農園が“世界最最高峰”と謳う“高坂鶏”
そもそも、いったい何が最高峰なのか。
文書で質問してみると「当方の生産する高級地鶏です」との一文のみでした。
高坂鶏を扱う店にプロの評価を聞いてみると…
ーーQ:お店は高坂鶏をウリにしている?
【高坂鶏を扱う店】
「もちろん。我々はプロなので鶏の種類が違うことに気付くけど、お客さんはそこまで鶏に対する舌が発達してないので気付けないと思うんです。高坂鶏は分かりやすく、味・食感・見た目に違いが出てる。レバーがフォアグラみたいになっている」
プロも認める“高坂鶏”。
地域のブランドともなりそうですが、裁判を続けている丹波篠山市は「ふさわしくない」と強調します。
【丹波篠山市 酒井隆明市長】
「丹波篠山市は農業の都なんです。おいしい・本物・質が高いというのがなによりのブランドだと思っています。この地域の一番の自慢である環境を侵害して、それが許される農業のやり方では決してないと思います」
県の出した是正勧告の期限はことし12月。
農園は、別の土地へ移転を計画しているといいます。
高坂鶏のホームページでは、私たちの取材や今回の一連の問題について、このような一文でしめくくられていました。
【農園側の回答】
「公害問題をうやむやにせず、誹謗中傷に粛々と対処する所存です」
「公害だと訴える住民」と「誹謗中傷だとする農園」、双方の主張は食い違ったままです。
“幻の鶏”は今後どうなっていくのでしょうか
(2022年4月7日放送)