限界集落ならぬ「“限界ニュータウン」のいま 都市から離れた山の中…バブル期に開発『関西の軽井沢』 新築時2600万円→100万円台に“大暴落” 住民も高齢化で「所有者不明」物件も…“破格の安さ”に活路? 2022年10月17日
バブル期に開発されたあるニュータウン。都市部からは遠く離れているものの、夢がありました。開発から40年後のいま…荒れ放題の土地や、朽ちた住宅も目立つように。ここに新しく移り住む人も出てきましたが、そこには大きなハードルが…
いま、何が起きているのか『ツイセキ』しました。
■都心から遠く離れた山中に…バブル期開発のニュータウンのいま
大阪・JR茨木駅から車で進むこと40分。看板が立ててあり、その先に行こうと思ったら道路幅が狭く、車が通れるかどうか不安になりました。
【記者 リポート】
「結構細いですね…溝に落ちないか心配なんですけど、なんとかいけました。ちょっとこれ…」
車が行く手を阻むようなところを越えて、山道をさらに進むと見えてきたのが…その名も「茨木台(いばらぎだい)ニュータウン」。
1980年代、バブル時代に開発され、多くの人が夢のマイホームを手にしました。しかし、今…
【35年前に土地を購入した男性住民(85)】
「阪急バスが(最寄りの)銭原まで来るのが、1時間に1本あったけど、いまは(1日)3本しかない。減ってきてる。乗る人おらんもん。車なかったら生活できない」
最盛期の1995年にはおよそ700人いた住民も、いまは300人ほどしか住んでおらず、住民の平均年齢は70歳と高齢化が進んでいます。
街には、壁に大きく穴が空いた家も、放置されてから何年経ったのでしょうか…中には建物が見えないほど木が生い茂った区画も。
昔からあった商店もつぶれ、病院も学校もありません。この状況から、限界集落ならぬ「限界ニュータウン」と言われることも…
なぜ都市部からここまで離れた場所にニュータウンが存在しているのでしょうか?
■なぜ都市部から離れたところにニュータウン? そもそも「茨木台」なのに住所は京都・亀岡市
入手したのは開発された当時のパンフレット。「茨木台ニュータウン」の大きな文字があります。そして、夢のあるうたい文句も…。しかし、よく見ると、所在地は小さい文字で“京都府亀岡市”と書かれています。
【茨木台ニュータウン 見立南区 堀内政八郎区長(70)】
「後で『あれ、ちょっと違うな』と。実際に住民票とかね、戸籍なんかすると亀岡市になってたんで。その辺のところは、最初はその“茨木台”っていう言葉に…だまされたとは思いませんけど」
一見「大阪府・茨木市」にあるかのようにうたわれた場所。売り出されたのは600区画にのぼりました。値段は土地だけで1000万円以上しましたが…ほぼ完売したそうです。
市街地からは離れていましたが、当時はモノレールがここまで延伸するという話もあり、人気があったということです。
【茨木台ニュータウン 見立南区長 堀内政八郎区長】
「土地を買ってから半年ぐらいたったら土地を売ってくれっていう話がね、『3倍ぐらいで買うから』と。まさにバブル。最初投資っていうことで考えて」
しかし、夢の計画は実現しないまま、バブル崩壊。開発業者は倒産すると思わぬ事態に。
【茨木台ニュータウン 見立南区 上野直行副区長(70)】
「白地(規制のない地域)の土地に、業者が勝手につくったから。だから水道と道路がみんな自治会か、その業者が設定したわけですよ。だから道路がへこんでもね。これ、自治会がやらないといかん」
業者が道路や井戸などのインフラを整備していたため、住民が管理することになり、いまも井戸を利用して水を供給しています。2021年には崖が崩れ、自治会はブルーシートを引いて対応しています。これ以上人口が減ると、インフラの維持すらままならないのが現実です。
■“破格の値段”に活路見出す 「リモートワーク」の別荘として購入者も
一方で、空き家の中にはまだ資産価値があるものも。コロナ禍でリモートワークが普及している今、そこに需要を見出し、販売する不動産業者もいます。
【ハウスプロジェクト 難波将生さん】
「状態といたしましては、結構雨漏りとかもしている空き家で、もう長く放置されていて、売主さまが売りたいっていう形でご相談いただいて、預からせていただいた物件でございます。(土地・建物込みで)198万円で出させていただいております」
バブル当時と比べ、価値は激減しました。
【ハウスプロジェクト 難波将生さん】
「10倍、15倍ぐらい、高い価格で買われている方が、実際に売ってみてこの価格ですって言われて、すごく値段の隔たりを感じている売主様が多いと思います。大体の方が『ええ~』って言われます」
安いからこそ、新しく物件を購入した人も。8年前に113万円でこの土地と家を買った増澤省太さん(46)です。
リモートワークや、趣味の筋トレを楽しむため、別荘として使っています。新築のときはおよそ2600万円だったそうですが、ここまで安くになったのには理由が…
【増澤省太さん】
「ちょっと置いてみますね。すごい分かりやすいんですよ。置きますよね。僕、触ってないですよ。どんどん速なってきますよこれ。これが駄目な理由ですね」
家が少し傾いているため安く買うことができたのです。
【増澤省太さん】
「お買い得でしょ。その人次第だと思うんですよ。本当にもうリモートになったいまとなっては、逆にここが会議室になりますから。ゲームするもよし、ネットで遊ぶもよしね」
【茨木台ニュータウン 見立南区 上野直行副区長】
「車さえあればそう問題ないと。環境が良い空気がきれい、鳥のさえずりも聞こえてますけどね。住んでみるとものすごい良いところいっぱいあるんですよ」
■荒れて放置された土地…誰が所有者か分からない 勝手に「売地」の看板も
ただ、課題が。物件を買うにも土地の所有者がわからず、連絡が取れないことがあるのです。所有者が亡くなったあと、誰が相続しているか分からないケースが多いということです。
【増澤省太さん】
「10軒当たって、ここともう1軒しかつながらなくて不動産屋さんに問合せしても、売りと書いてある看板が立っているけど電話そもそもつながらないとかね」
一定の需要はありますが、資産価値に見切りをつけているのか、放置され、草木が生い茂った区画も多くみられます。
どんな人が所有者なのか…取材を進めていくと、土地の所有者が見つかりました。
田中さん(仮名)は6年前に亡くなった父親から土地を相続しました。
【田中さん(仮名)】
「私が小学校の頃に、おやじが定年したらここに住もうかという話で買ったんちゃうかな。(当時は)整地されていたしきれいで、なかなか広いとこやなと思った」
購入してから42年、いつしか様子を見に来ることもなくなり…
【田中さん(仮名)】
「あ、これ?」
【記者】
「これです」
かつての面影はなく雑木林になっていました。
そこには不動産業者の売り看板が。13年前に見たことはなかったということです。
【田中さん(仮名)】
「何やろね、これ一体。別に、ここに頼んだこともないし。『立てさせてもらっていいですか』とも聞いたこともないからね」
インターネットにも広告が出ていました。売値はなんと400万円。坪単価にして6万6800円。
【田中さん(仮名)】
「まったく分からんね。気持ち悪いねなんか。ちょっと一回調べてみたい」
看板の業者に話を聞きにいくと…
【田中さん(仮名)】
「(契約は)7年前だと言ってたわ。7年前は契約できないからね。うちの親父はその時生きてたけど寝込んでたし。元々の会社から変わってるから、まったく我々わからない。『ご迷惑なら看板抜きましょうか』と言われたので、その必要ないけど、その代わり売ってと言いました。納得はできないけど追及もできない」
■坪6万6800円…この土地、妥当な価格?
看板を設置した不動産会社は「価格は売り主の意向で設定している」とのことです。この土地は400万円、坪6万6800円で妥当なのでしょうか。
地元の不動産業者に田中さんの土地を見てもらうと…
【ハウスプロジェクト 難波将生さん】
「厳密には言えないんですが、土地が6.6万円の坪単価ではないと思う。すごく相場とかけ離れていますし」
相場と売り出し価格が釣り合わないことでそのまま時間だけが過ぎていく区画が多いのが現状です。それでも「茨木台ニュータウン」には去年新しく2世帯が移り住んで来ました。この町での暮らしは続きます。
(2022年10月13日放送)