いじめ問題4年半も放置 小6児童“いじめ不登校”訴えも市教委「重大事態ではない」 先生も一緒にいじめ? ようやく第三者委員会を設置へ 専門家「加害者の対応こそ必要」 2023年03月20日
いじめで不登校になったと訴える小学6年の女子児童と保護者。「重大事態ではない」とする教育委員会と第三者による調査をめぐるせめぎ合いは4年半にも及んでいます。児童・保護者の訴えはなぜ放置されたのでしょうか?
【いじめを訴える保護者】
「一番つらいのは子供の写真がないんですよね…行事の写真とかいっぱい撮りたかったけど、(小学)1年生の運動会が最後で、そこからは本当になくて」
児童は学校行事に参加できないまま、この春、卒業します。
【教育の専門家は】
「被害者にとっても納得できないですよ。加害者側が学校に平然と来ているというのは…」
被害者が苦しみ続ける、学校の不適切ないじめ対応はなぜ続くのか、取材しました。
■“いじめ不登校”訴えも4年半放置 学校側の対応に…今も苦しむ被害者
【いじめ被害に遭ったAさんの母】
「入学1週間後ぐらいに、下校時にランドセルに入れているキッズ携帯を貸せって言われて、後ろから蹴り倒して腰の辺りを踏みつけて、ランドセルを無理やり開けて携帯を取った」
和歌山県海南市の小学校に通う6年生・Aさんの母親。入学当初から、Aさんは同級生に激しい暴力を受けたと訴えます。
–Q:学校の先生にお話ししたことある?
【いじめ被害に遭ったAさん】
「あります」
–Q:いじめてきた子に何も言ってくれなかった?
「むしろそっちの味方っていうか…」
【いじめ被害に遭ったAさんの母】
「2年生の時に教室の中にいるのを、髪の毛をつかんで無理やりトイレに連れていかれて殴る蹴る暴行を受けた。不登校になる寸前は『お母さん学校行ったら殺される』って言われて」
Aさんは、急性ストレス障害などを発症。2年生から徐々に不登校になりました。学校にいじめが原因だと訴えていましたが…
当時、学校は教育委員会に不登校について、「いじめとは特定できない」と報告をしていました。
両親は学校と話し合い続け、その後、学校は一転、一部はいじめであり、不登校の原因になったと認め、対応を謝罪する文書を出しました。
■第三者による調査求めたが、市教委「重大事態としての認識に至らず…」
しかし、両親が求める第三者による調査は…
【市教委と学校からの保護者への文書】
「重大事態としての認識に至っておらず、現状、第三者による調査を行う予定はございません」
文部科学省のいじめ調査のガイドラインでは、年間30日の欠席や、被害者からの申し立てを受けた際は重大事態と捉え調査すること、などが明記されています。
【いじめ被害に遭ったAさんの母】
「“重大事態ではないから、これ以上の対応はしない”っていう言葉を繰り返して、子供を守るっていうことはやってくれなかったっていうのが、一番の不登校の原因」
3年生になり、別のクラスになったことで再び学校へ通い出したAさん。しかし、学校側の配慮のない対応が続き教室に入ることができず、廊下で授業を受けるように。
すると…
【いじめ被害に遭ったAさんの母】
「廊下で授業を受け始めてから、今度は担任が廊下と教室の間の窓に張り紙をして、中が見えないようにふさぎ出したんですね」
–Q:付き添いで来てるお母さんの前でされていることですか?
「そうです」
学校への不信感が消えないまま4年半が過ぎ、6年生になりました。
現在の状況を校長はどう受け止めているのか。関西テレビが電話で取材すると…
–Q:学校としてのこれまでの経緯や事実を確認させてほしいのですが…
【校長】
「それは教育委員会の方でお願いできますでしょうか。私の赴任の方が後ですので、当時のことは紙の上でしか情報共有できていませんので、第三者員会をたてることを決定しておりますので、個人的な見解というのは申し上げられない」
2年前に赴任してきた現在の校長は“過去の事”だという認識を示す一方、第三者委員会の存在を口にしました。
■報道受け、ようやく第三者委員会設置…しかし「いじめ放置」の訴えは他にも
今年になって海南市は、方針転換。第三者委員会を設置することに。その理由については…
【海南市教育委員会】
「調査は何度もして、調べ尽くした、という海南市の姿勢は変わらないが、今回の報道などで市民の方から心配の声が届いていることや、被害者の方が納得できないのであれば、ということで第三者委員会にお願いすることにしました」
Aさんの問題が報じられたからでした。取材を進めると“いじめを放置された”と訴えるのはAさんだけではありませんでした。
Aさんの同級生のBさんは、いじめが原因で県外への転校を余儀なくされました。
【いじめによって転校したBさんの母親】
「ものを取られるであったりとか、増水した用水路の所に立たされて、下に降りるように言われた。たまたま見つけてくれた親御さんがいなかったら溺死していた」
何度も学校などに調査や指導を求めましたが、状況は変わりませんでした。
【いじめによって転校したBさんの母親】
「不登校の時も理由をいじめではないとはっきりと言われて、もう本人の素質であったり、保護者の考え方で学校に行かせていないんだっていうふうに言われてしまって。もう通えないのでということで『転校します』って言ったんですけれど、『分かりました』ぐらいの対応でした」
さらに卒業生の保護者も…
【卒業生の母親】
「(いじめがあると)都度、担任に言っていたんですけど、何も変わりなく月日が経って“解決”みたいな。まあ解決してないんですけど」
■専門家「“いじめはある”と考えるべき…“加害者への対応”こそ議論必要」
なぜ、被害を訴える声はかき消されてきたのか。専門家は、学校の「いじめについての考え方」が背景にあると指摘します。
【名古屋大学大学院 教育発達科学研究科 内田良 教授】
「いじめはあってはならないって考えると、起きたときに報告しなくなるんですね。だからまずいじめはあるもんだと。あるからこそ起きた時に、外部の専門家を含めてみんなで協力して対応しましょうっていう考え方が必要」
また、被害者が学校を休まざるを得ない教育現場の改善が急務だと話します。
【名古屋大学大学院 教育発達科学研究科 内田教授】
「やっぱり被害者こそ、安全安心を守られるべきであって、加害者がいったん(学校を)離れてそこで専門的なケアを受けるっていうことが必要だと思うんですね。加害者に対する対応っていうことが、本当にこれまでいじめの対策として議論されてこなかったんです。加害者にどう対応するかっていうことも教育界として考えるべき」
Aさんは、来週、卒業式を迎えます。
–Q:卒業式もうすぐあるけどそれはどう?
【いじめ被害に遭ったAさん】
「行きたいっちゃ行きたいけれど…」
Aさんは、今でも相手と顔を合わせることができず、式に出席できそうにありません。
【いじめ被害に遭ったAさん】
「いじめられた子のケアっていうのをしっかりしてほしい」
Aさんと両親は、自分たちの問題をきっかけに、海南市が変わることを望み、闘いを続けています。
(2023年3月17日放送)