国家資格を悪用した“助成金”ビジネスの手口とは? 元社労士を詐欺の疑いで逮捕 およそ2300万円を国からだまし取る 元顧客の受給者も知らなかった虚偽申請 2023年09月07日
9月7日、詐欺の疑いで、元社労士が逮捕されました。“助成金ビジネス”の手口とは?
■元社会保険労務士が“詐欺の疑い”で逮捕 国から2300万だまし取る
9月7日詐欺の疑いで逮捕されたのは、奈良市に住む元社会保険労務士の前田桂吾(まえだ・けいご)容疑者(39)。前田容疑者は、社会保険労務士だった2016年から2018年にかけて、大阪労働局助成金センターに、22回虚偽の助成金の申請書を提出して、およそ2300万円を国からだまし取った疑いが持たれています。
前田容疑者が目をつけたのは、国のキャリアアップ助成金。非正規雇用労働者の正社員化など、待遇改善の取り組みを行った事業主に対して助成金を支給する制度です。
厚労省によると、2022 年の全国の支給決定数は、この制度が始まった 2013 年と比較すると 160 倍近い、およそ 7 万 5000 件でした。
注目されている助成金ですが申請を巡っては、関係書類の準備など手続きが煩雑なため国家資格の社会保険労務士が事業主に代わって申請をすることがほとんどです。
今回、前田容疑者は一体、どのような手口で犯行に及んでいたのか?
■国家資格を悪用した助成金ビジネスとは? 受給者も知らなかった虚偽申請
7年前、前田容疑者と社会保険労務士として顧問契約を結んでいた美容室経営のAさんに話を聞くことができました。A さんが前田容疑者と知り合ったのは、人材開発会社から紹介されたのがきっかけでした。
【美容室経営のAさん】
「時計も派手でしたし、明らかにいいスーツ。見た目が全然違いました。助成金の案件もたくさんやっていると聞いていたので、ノウハウもあって安心できるなと」
前田容疑者にAさんが初めて会った日、「われわれで提出資料の体裁を整えて助成金の申請を代行します。安心してください」という言葉をかけられました。
この言葉を信じ、Aさんは受け取った助成金の10パーセントを前田容疑者に支払う顧問契約を結びました。すると、「こちらの助成金も使えますよ。どうですか」とキャリアアップ助成金以外の助成金も申請するよう提案されました。言われるままに申請した結果、総額およそ700万円の助成金を受け取ったということです。
しかし2年後、事態は一変しました。大阪労働局助成金センターから届いたのは、書類の偽造による“不正受給”の通知書でした。
【美容室経営のAさん】
「驚いて困惑した。びっくりしましたし、そんなことになっているとは思わなかった。助成金センターに私が(前田容疑者に)提出した書類を一式全部持って行ったのです。その書類と前田容疑者が労働局に提出した書類が全く違うと」
Aさんが前田容疑者に渡した書類とは全く違う書類が申請に使われていました。その虚偽申請で国から受給分と延滞金のあわせて700万円以上を返還するよう命じられたのです。
【美容室経営のAさん】
「信頼していた士業の人が偽造をするなんて思ってないから、やっぱり裏切られた気持ち。社労士さんに対するチェックをしていなかったという自分の落ち度もある。でもやっぱり信じるしかない部分は大きいと思います」
前田容疑者は他にも多くの虚偽の申請を行っていて申請者はAさんのように返還を求められる一方、前田容疑者に支払った報酬は返ってこないと言います。
■容疑者の父親「本人は反省している」 なぜ多くの申請を代行できたのか?
なぜこのような犯行に及んだのか…逮捕される前の前田容疑者の自宅に行くと、父親が対応してくれました。
【前田容疑者の父親】
「本人はほんまに反省している。罪の意識は本人はそれほど強く感じていなくて、さーっとやってしまったのかなと。『これは詐欺や、やったらあかん』という感じでやってないと思う」
そこに前田容疑者が姿を見せました。父親の手を引っ張って、家の中に入るよう促します。
【藤井凌記者】
「前田さん!少しでいいので教えてください!」
「虚偽の助成金の申請書を出したのは事実ですか!」
「それは詐欺罪にあたると思うのですけど、どう思いますか!」
前田容疑者は何も答えずに家の中に入りました。
なぜ、前田容疑者は多くの申請を代行することができたのでしょうか。Aさんはこう振り返ります。
【美容室経営のAさん】
「勧誘とか提案は前田さんを紹介した会社でしたし、ウィンウィンの関係で“助成金ビジネス”をしていたんだろうなと思いますね」
Aさんに前田容疑者を紹介したのは、大阪市中央区ある人材開発会社です。前田容疑者と一緒に助成金の申請を提案してきたことから、Aさんは人材開発会社にも責任があるとして返還した助成金や延滞金などあわせておよそ750万円の損害賠償を求める訴えを起こしました。
人材開発会社の関係者に主張を聞きに行くと…
【藤井凌記者リポート】
「弁護士を通さないと話せない、ということで直接話を聞くことはできませんでした」
代理人弁護士は、関西テレビの取材に対して「本件については一切お答えすることができません」と答えています。
国家資格の信用を悪用した社会保険労務士による“助成金ビジネス”。前田容疑者は逮捕前、父親に対し「反省をしている。どんな法の裁きも受け入れる」と話していたということです。警察は余罪についても捜査しています。
(関西テレビ「newsランナー」9月7日放送)